香水はどうやってレイヤードすればいい?
2025年の幕開け。新しいフレグランスのつけ方をマスターしてみたいという人は、複数の香りを重ねる“レイヤード”に挑戦してみては? 教えてくれるのは、香りスタイリストであり、ダウンパフュームのディレクターでもある杏喜子(あんず よしこ)さん。レイヤードを上手く行うコツを覚えれば、マンネリ気味で仕舞い込んでいた香りを復活させられるかも……⁉︎
そもそも香水は重ねていいの?
タイラ 香水同士を重ねるのは、かつてはNGだったような記憶ですが。今は軽やかな香り立ちのフレグランスが増えているせいなのか、ジョー マローンやトム フォードなど、ブランド自体がレイヤードを提唱しているところもありますね。
杏 増えましたね。香り同士のバランスを考えたり、つける場所をゾーニングしたりすれば、重ねづけすることで香りのバリエーションを増やせます。レイヤードの基本は、お腹周りを中心にウッディやグルマンなど重ための香りをつけて、肩や首もとなど上半身にはシトラスやライトフローラルなど軽やかな香りにするというもの。
タイラ よく軽い、重いと聞くのですが、それはどのように判断すればいいですか? わかりやすい確かめ方ってありますか?
杏 まずムエット(試香紙)に香りを吹きつけます。それを空気にさらした状態で5〜6時間放置します。5〜6時間後にどのぐらい香りが残っているかを目安にしてみてください。夏は湿度があるため残香しやすいですが、気温が高いのでフレグランスの蒸発も早いです。冬は乾燥しているのでレイヤードにトライするにはいい季節ですね。
人気のウッディノートに重ねるなら?
タイラ 下半身にはウッディやバニラなど、ゆっくり香って持続する香水をつけるんですね。
杏 そうです。ウエストから下にしっかりつけておいて、ウエストから上にはフルーティやシトラス、グリーン、アロマティック、アクアといった粒子が小さいものを。「粒子が小さい」というのは最初にパッと香ってすぐに消えてしまう、いわゆるトップノートの香料の比重が多いものと考えて下さい。
タイラ 基本的なレイヤードで、これなら失敗が少ない組み合わせを教えてもらえますか?
杏 人気の高い深みのあるウッディノート系には、フルーティフローラルやシトラスフローラルを。マスキュリンで中性的なイメージが強いウッディに、フェミニンな要素をプラスできます。
ウッディ×フルーティフローラルのレイヤード
ローズ×フレッシュグリーンノートは鉄板の組み合わせ
タイラ レイヤードってハードルが高いと思っていたけれど、基本を押さえておけばそこまで難しくはないのですね。
杏 そうですね。ベースとなる香水を一本持っていると組み合わせやすいと思います。もちろん、すでにお持ちのもので組み合わせるのもOK。上半身につけるものは、下半身につける香りのトップノートやミドルノートに使われている香料が入っているフレグランスを選ぶと失敗が少ないですよ。
タイラ 他にも、おすすめのレイヤードの組み合わせってありますか?
杏 例えば、しっかりと存在感を感じるローズのフレグランスに、フレッシュグリーンノートや、シトラスノートを合わせる組み合わせ。レイヤードの鉄板ですね。
甘くて重いグルマンノートは、シトラスですっきりと
杏 また、甘いバニラにはレモンなどのシトラスを合わせると、レモンケーキのような爽やかな甘さに。まろやかなバニラは安心感があるので、人気なのもよくわかります。
タイラ 杏さんは一人ひとりの肌がもつ匂いと似合う香りや好みの香りを提案するダウンパフューム独自のカウンセリングを行っていらっしゃいますが、レイヤードするのに、自分の肌の匂いは影響しますか?
杏 自分の肌の匂い=スキンタイプが影響するのは、主に上半身。ご自身で香りが残りやすいか、わりとすぐに飛んでしまうかで判断すると良いのですが……。
タイラ 私は以前、湯上がりの石けんの匂い漂う肌を思わせる「ムスキータイプ」と診断していただきました。ベースノートを膨らませるので香りが長く持続する傾向があり、香りが飛びやすいシトラスも比較的長く香るのでコスパがいいと(笑)。
杏 平さんはそうでしたね。逆にシトラスがすぐに飛んで消えてしまうという人は、同じシトラスでもちょっとグリーンのニュアンスのあるシトラスをレイヤードに使うと、ちゃんとインパクトが出せます。
※ダウンパフュームでは、人が持つ肌の匂いを“SKIN’S SCENT”と呼び、“Sweet”、“Bitter”、“Woody”、“Green/Metallic”、“Floral”、“Acid”、“Musky”、“Neutral”の代表的な8つに、そのどれにも分類されづらい“Other”を加えた9つに分類している。
バニラ×シトラスのレイヤード
タイラ 日によって、同じ香りでもちょっと甘く感じすぎるときなどは、上から爽やかな香水をレイヤードして“味変”を楽しむのも一興ですね。ディスカバリーセットなどで「これは単体では使いづらいかも」と思っていたものも、この法則を使ってレイヤードすれば、いろんな香りが楽しめそう。
杏 個人カウンセリングをしていると、意外に皆さん、香りにいろんな幅があることをまだまだ知らない方も多いんです。アロマっぽく香るものもあれば、お香のように深く香り立つものなどさまざまです。慣れていくと微妙なニュアンスも嗅ぎ分けられるようになり、経験値で好みの幅は広げられると思いますよ。
タイラ 軽い香り立ちといえば水性香水がありますが、これをレイヤードに使ってもいいのですか?
杏 水性香水はすぐに揮発してしまうので、レイヤードに使うのはあまり意味がなく、もったいないかも。他にも、トップ・ミドル・ベースをしっかり分けるクラシックな作り方のフレグランスは、誰の肌の上でも同じように香るように、香料の分子同士の結合が簡単に解けないようなレシピで作ってあるのです。レイヤードとして使うより、単体でつける方がおすすめの場合もあります。
タイラ そうなんですね。自分に似合わないかもとしまい込んでいたフレグランスも、引っ張り出してレイヤードしてみたいと思います。
幼い頃から香りに興味を持ち、敏感な嗅覚をもつ。ダウン・M・スペンサー・ヒュウィッツと出合い、ディレクターとしてダウンパフュームの香りをプロデュース。その人の肌がもつ匂いをもとにおすすめの香りを見つけるスキンタイプ診断“SMELL &TELL”も実施。(予約受付はInstagramにて告知。約1時間¥15000)。
取材歴30年。SPURのフレグランス企画の連載担当ライターとして活躍。この連載を機にフレグランスの世界に見せられ、現在は資格取得を目指してフレグランスの歴史やトレンドを学び直し中。