【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩みをドクター取材! 脇ボトックス・塗り薬・飲み薬など知っておきたい治療の選択肢

日常の小さなストレスのひとつ「脇汗」。汗の量やニオイをケアするアイテムは多くあるけれど、「それだけではもの足りない……」という人も実は多く、汗染みが目立たない服を選ぶなどでやり過ごしてしまいがち。

脇汗をはじめとする「局所多汗症」は、実は塗り薬・飲み薬・脇ボトックスなどの治療を、保険適用で受けられることもある。とはいえ「この程度の汗で受診してもいいのか?」と判断が難しい。そこで「私の皮膚科」院長の棟田加奈子先生に、さまざまな脇汗悩みのケースとそれにマッチした治療の選択肢を伺った。

日常の小さなストレスのひとつ「脇汗」。汗の量やニオイをケアするアイテムは多くあるけれど、「それだけではもの足りない……」という人も実は多く、汗染みが目立たない服を選ぶなどでやり過ごしてしまいがち。

脇汗をはじめとする「局所多汗症」は、実は塗り薬・飲み薬・脇ボトックスなどの治療を、保険適用で受けられることもある。とはいえ「この程度の汗で受診してもいいのか?」と判断が難しい。そこで「私の皮膚科」院長の棟田加奈子先生に、さまざまな脇汗悩みのケースとそれにマッチした治療の選択肢を伺った。

お話を伺ったのは……

棟田 加奈子先生プロフィール画像
「私の皮膚科」院長、日本皮膚科学会専門医棟田 加奈子先生

2009年東京医科歯科大学(現・東京科学大学)卒業。同大学病院をはじめ、総合病院や美容クリニックでの研鑽を経て、2022年外苑前に「私の皮膚科」を開設。院長として診察を続ける。大学病院・総合病院で幅広い皮膚疾患に対応した経験と皮膚科専門医としての知識を活かし、一人ひとりにあった、医学的根拠のある治療を行っている。

「私の皮膚科」サイトはこちら

「脇汗を気にして服を選んでいる」なら、皮膚科に相談してみて

——脇汗で悩んでいても、治療すべきかどうか分からない人も多いと思います。治療を推奨している汗の程度は、どのくらいなのでしょうか?

汗の量は数値では測れないうえ、人によって汗をストレスに感じる度合いも異なります。そのため、重症度の判断には以下の「HDSS(多汗症疾患重症度評価尺度)」という指標が用いられています。スコア3または4に該当する場合は重症と考えられ、治療の対象となります。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_1
HDSS(多汗症疾患重症度評価尺度)

「日常生活に支障があるか否か」がポイントになるのですが、そこを具体的に考えるなら「脇汗を気にして服を選んでいるか否か」になるかと思います。例えば本当は淡いブルーの服が着たいのに、「汗染みができたら嫌だな……」と白い服を選んでしまう——そんな場面があるなら、それは十分に日常生活に支障があると考えてよいでしょう。

汗の量の程度だけでなく、日々の中で脇汗を気にする場面があるかどうか、そしてそれをストレスと感じているかどうかで判断するのがよいと思います。

市販の制汗剤は「汗の出口をふさぐ」、治療薬は「汗を出す神経の指令をブロック」

——気温や自身の体調によって、市販の制汗剤では「もの足りない……」と思うことも。クリニックで処方される治療薬に変えたら、より効果を感じやすくなるのでしょうか?

市販の制汗剤と治療薬では、実は使われている主成分とアプローチが異なります。
市販の制汗剤は、汗の出口を一時的にふさいで汗が出ないようにするイメージ。「クロルヒドロキシアルミニウム」という成分が使われることが多く、汗(水分)と反応してゲル状になり、汗の出口である汗腺を一時的にふさぐ働きをします。

一方クリニックで処方している治療薬は、汗を出す神経からの指令をブロックし、汗を分泌させないイメージです。治療薬には「エクロック® ゲル」と「ラピフォート® ワイプ」の2種類があり、それぞれに配合されているのは「ソフピロニウム臭化物」と「グリコピロニウムトシル酸塩水和物」という成分。どちらも、汗を出す神経からの指令を阻止することで、過剰な脇汗を抑える仕組みになっています。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_2

市販の制汗剤は、成分が脇に付着している間だけ汗を抑えるのに対し、治療薬は“発汗そのもの”を抑える働きがあります。継続的に使用することで、少しずつ脇汗によるストレスの軽減が期待できるもの。実際には、2週間ほど毎日使い続けて、効果を実感し始める方が多いです。


——塗り薬以外に、脇ボトックスなどの治療も気になります!

ボトックス注射や内服薬の「プロバンサイン®」も、多くの方に選ばれている治療法です。市販の制汗剤とクリニックで処方する治療薬とでアプローチの仕方が異なるように、ボトックス注射や内服薬にも、それぞれ特徴やメリットがあります。脇汗の程度や、汗を抑えたいシチュエーション、どのような効果を期待するかによって、自分に合ったものを選べるとよいですよね。

ここからは脇汗悩みごとに分けた5つのケースを例に、それぞれに適した治療法やその詳細について見ていきましょう。

【脇汗悩みのタイプ別】症状と治療法、実例紹介

「脇汗悩み」と言っても、その程度や状況はさまざま。実際にクリニックで相談されることもある具体的な5つのケースから、各お悩みにマッチする治療法やメリット・デメリットなどを教えていただきます。

CASE①/ 夏になると汗染みが気になる人

●お悩み内容
汗が多いタイプではないけれど、27℃を超える日は、脇に汗染みができていないか心配に……。外で過ごす時間が長いときは、オーバーサイズや汗染みの目立ちにくい色の服を選んで、こっそり対策をしている

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_3

●おすすめの治療法:塗り薬「エクロック® ゲル」・「ラピフォート® ワイプ」

「全身の汗はあまり気にならず、夏場の脇汗が主なお悩みという方には、塗り薬の『エクロック® ゲル』または『ラピフォート® ワイプ』をおすすめしています。
ボトルタイプで直塗り可能な『エクロック® ゲル』は、手を汚さず塗れるのが特長です。個包装タイプの『ラピフォート® ワイプ』は、旅行などにも持ち運びやすく便利です。効果はどちらも同じため、形状の好みで選んで問題ありません。

先述の通り、これらの塗り薬は神経からの指令をブロックして発汗を抑えるものですが、使い始めた当日に効果が表れるわけではありません。2週間ほど継続して使用することで、汗の量が徐々に減ってきたと実感される方が多いです。軽度の症状であれば、5〜9月の間使い続ければ、脇汗を気にせず快適に過ごしていただけると思います」(棟田先生)

塗り薬「エクロック® ゲル」「ラピフォート® ワイプ」治療の詳細

  • 保険適用
    あり
  • おおよその治療費用(1カ月分・保険適用時の価格)
    エクロック®︎ ゲル(40g):3,000円、ラピフォート®︎ ワイプ: 2,200円
  • 効果を感じられる期間
    継続使用から約2週間後、使用期間中のみ効果が持続
  • ニオイの変化
    汗の分泌が減ることで、ニオイは少し出にくくなる
  • デメリット
    使用をやめると、徐々に制汗作用はなくなる
  • 副作用
    口の渇き・尿量の減少・皮膚のかぶれ・目の調節障害

CASE②/夏も冬も年中汗が染みていないか心配な人

●お悩み内容
全身の汗も多いうえ、1年を通して脇汗は悩みの種。夏だけでなく、秋や冬にもたくさん脇汗をかいてしまうのが悩みで、ふと気づくとシャツにうっすら汗染みができていることも……。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_5

●おすすめの治療法:内服薬「プロバンサイン®」

「脇だけでなく、背中や太ももの裏、手足などにも汗をかく場合には、内服薬『プロバンサイン®』を処方します。神経からの指令をブロックして発汗を抑えるという点では塗り薬と同じですが、全身の発汗にもアプローチできる点が特長です。

効果を感じられるのは、服用後おおよそ1〜5時間の間とされています。そのため、例えば外出の1時間ほど前に服用しておき、数時間後に再び汗が気になったタイミングで、また1錠飲むという使い方をすすめています。

症状が強い場合は、塗り薬と内服薬を併用することもありますよ。毎日の塗り薬で“汗をかきにくい状態”に整えておき、特に汗をかきたくない日には内服薬を追加する——このような組み合わせで、症状が和らいだという方もいらっしゃいます」(棟田先生)

内服薬「プロバンサイン®」治療の詳細

  • 保険適用
    あり
  • おおよその治療費用(1カ月分)
    220円(1日4錠×30日間)
  • 効果を感じられる期間
    内服中1~5時間
  • ニオイの変化
    汗の分泌が減ることで、ニオイは少し出にくくなる。ただし全身の汗量が減る効果がメインであり、局所的な脇汗への効果は限定的なため、ニオイに関してもそこまで変化は感じにくい
  • デメリット
    熱中症のリスクがあり、気温が高い日の内服は注意が必要
  • 副作用
    口の渇き・尿量の減少・涙の減少・便秘

CASE③/服に汗染みがつくのが許せない人

●お悩み内容
とにかく汗をかきたくない! 汗染みストレスに左右されることなく、好きな素材・色の洋服を思うままに楽しみたい。1週間後旅行に行くので、できればそれまでに治療を終え、脇汗悩みとは無縁でいたい。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_7

●おすすめの治療法:ボトックス注射

「『汗をかきたくない』『とにかく早く対策したい』という方は、ボトックス注射も選択肢のひとつ。

塗り薬や内服薬で思うような効果が得られなかった場合は保険適用で受けていただけます。ただ2週間〜1ヵ月ほど塗り薬や内服薬を使って経過を診て判断する必要があるので、急ぎの場合は自由診療で希望される方もいらっしゃいます。美容意識の高い方や、ファッションを自由に楽しみたい方にも、人気の治療法です。

ボトックス注射も神経からの指令をブロックして汗腺の働きを抑えるもので、治療後、3日〜1週間ほどで効果が表れ始めます。発汗の抑制力が高く、早くから効果を実感しやすいのが特長です。メニュー選びの際は、『両脇で100単位使用』を目安にすると良いでしょう。効果の持続期間はおおよそ3〜4カ月。年に数回程度、定期的に受けることで、汗によるストレスの大幅な軽減が期待できます」(棟田先生)

ボトックス注射治療の詳細

  • 保険適用
    外用薬と内服薬では効果を得られない場合は適用あり
  • おおよその治療費用(自費の場合)
    クリニックによって差があり、30,000円〜100,000円程度(100単位)
  • ニオイの変化
    汗の分泌が減ることで、ニオイ軽減にも効果がある。ただし、腋臭症(いわゆるワキガ)の場合は効果を感じにくい
  • 効果を感じられる期間
    約3~4カ月
  • デメリット
    治療の段階を踏まない場合は保険適用外、注射の際に痛みを伴う、効果が現れるまでに3日〜1週間ほどかかる
  • 副作用
    腫れ・赤み・内出血・筋力低下

CASE④/緊張すると脇汗をかいてしまう人

●お悩み内容
汗が気になるのは、脇だけ。クライアント先でのプレゼンなど多く人の目が集まる場面で緊張すると、ツーっと汗が脇をつたう感覚が……。焦ると余計に汗が吹き出て、もはや発表どころではない状態になってしまう。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_9

●おすすめの対処法:市販の制汗剤(塩化アルミニウム系)

「緊張によって一時的に多量の脇汗が出る場合、クリニックで処方する塗り薬よりも、市販の制汗剤のほうが適していることがあります。

多くの制汗剤に含まれる『クロルヒドロキシアルミニウム』という成分は、汗と反応してゲル化し、汗腺の出口をふさぐ働きが。塗ったその場で汗と反応して作用するため、即時的に汗が抑えられたと感じやすいのが特長です。発汗量が減ることで、ニオイも少し出にくくなります。まずはこの成分を含む市販アイテムを試してみて、効果に満足できなければクリニックにご相談いただくのがよいでしょう。

また、『今日は対策しているから大丈夫』と気持ちを整えるだけでも、脇汗が気になりにくくなることがあります。気にしすぎないことも、ひとつの対策といえますね」(棟田先生)

CASE⑤/脇からニオっていたらどうしようと不安な人

●お悩み内容
人から指摘されたわけではないけれど、脇汗をかいて熱がこもった状態になると、イヤなニオイを放っていないかと不安に。汗拭きシートでこまめにケアをしていてもやっぱり心配。どんな対策があるか知りたい。

【脇汗治療】市販の制汗剤で間に合わない悩の画像_10

●おすすめの対処法:市販の制汗剤(殺菌系)

「脇汗によるニオイが気になる方は、雑菌が増えやすい体質の可能性があります。足裏と同じように、密閉された状態になりやすい脇も、汗とともに菌が繁殖してニオイが強くなることがあるんです。

クリニックでの治療に進む前に、殺菌作用のある市販の塗り薬やスプレーを取り入れてみるのも一つの方法。具体的には、『イソプロピルメチルフェノール』や『ベンザルコニウム塩化物』などの有効成分を含む製品を選ぶとよいでしょう。

一方でそこまで汗をかいていないのにニオイが気になったり、ベタついた汗で服に黄色い汗染みができやすかったりする場合は、腋臭症(いわゆるワキガ)の可能性も考えられます。原因であるアポクリン汗腺の除去手術をするなど治療法がありますので、気になる場合はクリニックに相談してみてくださいね」(棟田先生

脇汗悩みの内容や症状によって、適した治療法はさまざま。クリニックで受けられる治療はいずれも、症状を和らげたり軽減したりする「対症療法」で、局所多汗症そのものを根本的に治すものではないそう。そのため外用薬を継続して使ったり、定期的に施術を受けたりすることが必要。とはいえ、日常生活に負担の少ない治療の選択肢が増えている昨今は、誰もが気軽にケアを取り入れやすくなってきた。

身体全体に対して脇が占める面積はごくわずか。なので、「脇汗の治療で体に負担がかかるのでは」といった心配はそこまでする必要なし。服選びや外出時に脇汗が悩みの種になっているのなら、前向きに治療を検討したり、自分に合った市販の制汗・殺菌アイテムを探したりしてみるのも良さそうだ。