【アフターピル】緊急避妊薬のOTC化を受け、産婦人科医・稲葉加奈子先生に基本知識や疑問、OTC化について聞いた

2025年10月末、緊急避妊薬の「ノルレボ」が認証され、薬局で買えるようになる。これまでは病院で処方してもらう以外の入手方法がなかったため、アクセス先が広がる大きな一歩だ。

緊急避妊薬は、妊娠の可能があるすべての人にとって、いつ必要になってもおかしくないもの。いざというとき慌てないために、いま基本的な仕組みや使い方を知っておくことには大きな意味がある。知識があれば、自分だけでなく、身近に困った人がいたとき力になれるかもしれない。



産婦人科医・稲葉可奈子先生へのインタビューをとおして、「緊急避妊薬とは何か」「どう使うのが適切なのか」「OTC化で何が変わり、何が変わらず課題として残ったのか」を整理していく。
OTC化とは、医師の処方箋が必要だった医薬品を、処方箋なしに薬局やドラッグストアにて購入できる市販薬にすること

2025年10月末、緊急避妊薬の「ノルレボ」が認証され、薬局で買えるようになる。これまでは病院で処方してもらう以外の入手方法がなかったため、アクセス先が広がる大きな一歩だ。

緊急避妊薬は、妊娠の可能があるすべての人にとって、いつ必要になってもおかしくないもの。いざというとき慌てないために、いま基本的な仕組みや使い方を知っておくことには大きな意味がある。知識があれば、自分だけでなく、身近に困った人がいたとき力になれるかもしれない。



産婦人科医・稲葉可奈子先生へのインタビューをとおして、「緊急避妊薬とは何か」「どう使うのが適切なのか」「OTC化で何が変わり、何が変わらず課題として残ったのか」を整理していく。
OTC化とは、医師の処方箋が必要だった医薬品を、処方箋なしに薬局やドラッグストアにて購入できる市販薬にすること

緊急避妊薬の仕組みや服用タイミング、副作用

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——緊急避妊薬はどのような薬ですか?

排卵を遅らせて、妊娠する確率を下げる薬です。中絶薬と混同されることがありますが、こちらは、すでに妊娠しているけれど子どもを産まない選択をした人が服用し、人工的に妊娠を中断するお薬なので、まったく別ものです。


——妊娠を未然に防ぐ薬なのですね。どのようなケースで必要とされますか?

コンドームの破損や抜け落ちで避妊に失敗したケースや、腟外射精がうまくいかなかったケース……。そもそも腟外射精は“避妊法”ではありません。望まない性交渉だった、相手が避妊に応じてくれなかったなどのケースもあります。

「排卵期じゃないから大丈夫」と思う方もいるでしょうが、生理周期や排卵日はいろんな理由でずれるもので、医学的には「安全日」というのはないんです。生理だと思っていても、それは排卵出血かもしれない。心配だな、と思ったら服用しておくに越したことはありません。

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——どんなタイミングで服用するものでしょう?

現在、日本で承認されているノルレボという薬は、ちゃんと避妊できなかった性交渉から72時間以内の服用が望ましいとされていますが、早ければ早いほどいいです。24時間以内だと妊娠阻止率が95%で、72時間では58%です。

「妊娠していなかった」と確実にわかるまで、とても不安ですよね。次の生理がきたのをもって、妊娠を回避できたとわかります。時期としては、本来の周期からずれることが多く、薬を飲んでからだいたい3週間後に生理がくると思ってください。


——副作用はありますか? 将来の妊娠への影響は?

ノルレボは副作用がとても少ない薬ですが、不正出血や頭痛が起きることはあります。その後の生理周期や状態が変わることはよくあって、強い不安やストレスを感じたあとですから、なんら不思議ではありません。緊急避妊薬の内服による、将来の妊娠や出産への影響は“ない”と言っていいです。


——緊急避妊薬は何度も服用してもいいものですか?

薬で排卵を遅らせたあと、次の生理がくるまでのあいだは、実はとても妊娠しやすい状態になります。永遠に排卵を遅らせることはできないし、どこかで必ず妊娠しやすい時期が発生する。頻回に使うのは、避妊効果の面でリスキーですし、金銭的にも精神的にも大きな負担となるでしょう。

数カ月に一度、年に数回の服用では、身体への影響は心配ありませんが、妊娠をしょっちゅう危惧しなければならないのは、とてもしんどいこと。緊急避妊薬を使ったのを機にパートナーと避妊について話し合ったり、経口避妊薬(低用量ピル・プロゲスチン製剤)やミレーナ(子宮内避妊システム)など女性自身ができる継続的な避妊法を検討したりしてほしいですね。自分で自分の身を守る手段はあります。

OTC化によって変わること、解決しないこと

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——緊急避妊薬がOTC化によって、薬局で購入できるようになります。

大きな一歩ですよね。当初は年齢制限や保護者同伴の条件がつくとされましたが、それがなくなったのは本当によかったです。必要な人がアクセスできなくなることが考えられましたから。また、地方では町に産婦人科が一軒しかないところも稀ではないので、OTC化によってアクセス向上が見込まれます。ただ、「OTC化ですべてが解決」とはいかないんですよ。


——たとえば、どんなことが考えられますか?

「プライバシーを保てる空間を確保できる」などの条件をクリアした店舗しか取り扱えないので、すべての薬局で緊急避妊薬が買えるわけではありません。

逆に、婦人科やレディースクリニックで緊急避妊薬を置かないところが出てくることも考えられます。薬局でも婦人科でも、はやくアクセスできる方であればどちらでも構わないのですが、いずれにしても事前に電話などで確認したほうがいいでしょう。また、夜間に病院があいていないのと同様に、夜中は薬局もあいていないですよね。価格についても、さまざまな声があります。


——価格は、どのくらいが妥当だと思われますか?

7,000~8,000円になるだろうといわれていて、“高い”という批判もありますが、もともとの価格としては妥当ではないかと感じています。なぜなら、緊急避妊薬は多くの人が毎日必要とする薬ではないので、一般的な薬よりも処方数が圧倒的に少なく、単価が高くなるのは致し方のないことです。

ただし、実際に女性たちが負担する金額がそのままでよいかというとそれは別問題。イギリスやフランスをはじめ、緊急避妊薬を無料提供する国もありますが、それは国家が補助金を出しているからなのです。


——薬局で購入した場合、薬剤師の前で飲む「面前服用」もいまだ議論されていますね。

早い服用ほど効果を期待できるという特徴がある薬なので、プライバシーが守られていれば面前服用は理にかなっていると考えます。義務じゃなくて、推奨でいいと思いますが。私もクリニックで、「飲み物をもっていたら、いまここで飲んでいいですよ」と声をかけます。持っていない場合は、「なるべく早く飲んでね」と。

婦人科で緊急避妊薬をもらう場合の診察内容や、家族に知られるか否か

——薬局で緊急避妊薬を買えるようになった後も、病院で相談をしたほうがいいケースはありますか?

今後の避妊方法を考えたい方は、病院がいいと思います。その場で経口避妊薬の処方やミレーナの挿入まで対応できます。

生理痛など月経困難症の症状があれば、ピルは保険適用で月500円ほどのものも。自費だと3,000円前後なので、差は大きいですよね。ミレーナは5年間使えて、生理痛や過多月経があれば保険診療で1万円ちょっと。「同じ不安をくり返したくない」と感じるなら、こうした方法を検討してほしいです。


——婦人科での診察は、どんなものでしょう。

基本はお話を聞く問診で、内診はありません。生理周期の確認のほか、避妊に失敗したタイミングは確認しますが、これは72時間という期限があるからで、それ以上の詳細は必要ありません。

ただ、望まない性行為の結果として緊急避妊薬を求めに来られるケースもあるので、そんな空気を感じたら、さりげなく話を振ることはありますね。


——受診や処方の事実を、人に知られることはありますか?

受診した記録は、病院で管理するカルテには残ります。ただ緊急避妊薬は自費診療なので、保険証を通じて「どこの病院で、いくらの診療を受けたか」の通知が、親や家族に行くことはありません。


——緊急避妊薬で妊娠を回避できたけれど、パートナーとのあいだにすっきりしないものが残ったという話をよく聞きます。

「避妊しなくてもアフターピルを飲めばいい」と考える男性は、残念ながらいます。女性の負担を理解しないまま「女性ってたいへんだね」で済ませてしまう。その誤解を正す性教育や啓発は、これからもっと必要でしょう。

私は低用量ピルを処方するとき「彼氏に言わなくてもいいよ」と伝えることがありますが、これは女性が主体的に避妊していると、男性が「じゃあコンドームはいらないよね」となることがあるからです。低用量ピルを内服していればコンドームは不要、というわけではなく、性感染症を防げるのはコンドームだけ。この点は強調しておきたいです。

——OTC化をきっかけに、緊急避妊薬、ひいては避妊について考える人は多いと思います。

望まない妊娠は、個人の問題や本人の責任ではなく、社会全体の課題です。性教育の充実や緊急避妊薬へのアクセス改善は、その課題に向き合うアプローチのひとつです。

避妊に公的補助を出す国があるのは、「女性がかわいそうだから」でなく、望まない妊娠が起きると、女性が教育やキャリアの機会を失い、所得が下がり、生活が不安定になる可能性が高くなるからです。そうした不利益は次の世代にも連鎖し、社会全体の損失になり、それを支えるのは社会なのです。連鎖を断ち切るために、国が補助などで負担を引き受けている。日本でも、望まない妊娠を社会課題として位置づけ、制度で支える方向に進んでほしいです。

稲葉可奈子先生プロフィール画像
産婦人科専門医、Inaba Clinic 院長、みんリプ!みんなで知ろうSRHR 共同代表稲葉可奈子先生

京都大学医学部卒業、東京大学大学院博士課程修了。大学病院や市中病院を経て産婦人科専門医となり、2024年に渋谷駅直結のInaba Clinicを開業。より多くの人が気軽に受診できる、受診したくなる、かかりつけにできるレディースクリニックを目指している。SRHR(性と生殖に関する健康と権利)や性教育など、生きていく上で必要な知識や正確な医療情報とリテラシーを、SNS、メディア、企業研修などを通した発信も行う。

Inaba Clinic のサイトはこちら

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