16番目のメチエとして生まれたエルメスのビューティ。その中でも第三章となる最新コレクションに、私はなぜ心打たれたか。それは、メゾンを支えている職人の手、そして手仕事を尊ぶという出発点が、明確に示されていたからです。
エルメスの美学を形作る唯一無二の道具とは? 答えは、手。ものに命を宿す職人の手。技術と鍛錬に裏付けられた、手への愚直なリスペクトが、この回答には込められています。だからこそ、エルメスのビューティは、素の美しさを必要以上に凌駕したり、支配をしたりはしません。その人らしさを引き立てるというコンセプトが、レ・マン・エルメスの真髄です。
エルメスが得意とするエナメル加工の技術からも着想を得ているのは、ツヤの美しさからも一目瞭然。エナメルのブレスレットとも見事に調和するので、手もとのスタイリングが何倍にも楽しくなるはず。
私のイチオシは遮光ボトルのトップコート。鏡面のようなつややかな輝きを与えるだけでなく、速乾でロングラスティングな機能性が素晴らしい。トップコートとカラーは、ぜひペアでそろえて。
1色選ぶなら、やさしさのなかに存在感をたたえたグレージュを。成熟した思慮深さを演出するような、絶妙な色計算。肌にのったときのなじみ具合が、実にシックです。売り切れ続出にも納得の超人気色。
厚みのあるガラスのボトルと、丁寧な仕事に裏打ちされたトップのエクスリブリスの調和。真上から眺めたときのリズムにも、ピエール・アルディ氏の美学が冴え渡っています。そこに置いてあるだけで美しい―日常に一服のゆとりを運んでくれるオブジェでもあるのです。
職人の手もとに敬意を表する姿勢はここにも。道具が滑ったり、べたついたりすることのないよう、配慮が光るハンドクリームは、抗酸化作用に期待できるホワイトマルベリーエキスなど天然由来成分が98%のフォーミュラ。専属調香師のクリスティーヌ・ナジェルが手掛けた透明感あるウッディな香調は、モダンな心地よさでいっぱいです。
自分を慈しみ、労わってほしい―そんな気持ちをホリデーギフトにするなら、こちらがおすすめです。コスモスナチュラル認証を取得したケアオイルと、サイテイナブルな管理を行っている森のポプラ材から形作られた、オレンジ色のネイルファイル。
そしてエルメスのビューティに会える場所が、新宿に今週、お目見えするというニュース。残念ながら当分は入店予約のお客様でいっぱいのようなのですが、待望のリニューアルオープンをするエルメス伊勢丹新宿店に、〈レ・マン・エルメス〉のコーナーを発見。
ネイルのパッケージのトップに輝くエクスリブリスは、フロアの三か所に。
この店舗がスペシャルな理由。それは、ふたつのエントランスを備えているという点。扉のない側には、上部に輝くポップなネオンサイン!そして波がたゆたうような天井の造形美。
一方でバーガンディの美濃焼のタイルで迎えるエントランスは、荘厳な印象。こちらのタイルは、ぜひ3メートルほど離れた場所から眺めてほしいのです。傾斜して配置されたひとつひとつの焼き物から浮き上がってくるのは、さざめく波。
こちらは店舗外部分のウォール。影と光が織りなす波間の揺らめきに、しばし都会の喧騒を忘れます。
ピンクとバーガンディ、華やぎと静寂。それこそ新宿という大都会の二面性を、端的に表現した素晴らしいコントラストが、店舗の魅力となっています。
ジュエリーコーナー奥の半個室スペースにも、エントランスと呼応するネオンカラーのあしらいが。
日本の伝統文化への敬意も忘れません。窓側に揺れるフリンジは、実は1本1本が繊細な組紐。現代から未来へ脈々と引き継ぐ日本の伝統伎を物語っています。
ジュエリーコーナーのラグは、ウール製。雨が降ったあとの道のきらめきを演出。
たとえ今週は入店がかなわなくとも、せわしない日常を癒すパワーでたっぷりのウィンドウは必見です。Zim&Zouによるペーパーアートの名前は、「人生の旅」。オデッセイ、つまり冒険旅行に飛び立つ旅人の姿に、誰もが自分自身を重ねることができるはずです。
胸が高鳴るユニバースです。コロナ禍でもっとも進化したもの、それがエルメスのデザインチームの「クリエーション」。伸びゆく創造力を抱擁するにふさわしい空間が、また一つ誕生しました。エルメスの店舗は世界中にあるけれど、ふたつとして同じものはありません。日本の伝統技術と、エルメスのクリエーションとが新宿という大都会で見事に手を取り合った特別な宇宙。あなた自身の指先を輝かせるメチエとこの冬、ぜひ伊勢丹で出会ってみてください。