2023.09.22

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のこっそり話 #1815

長男が生まれて間もないころ、美しい絵本にハマっていろいろと買いあさっている時期がありました。そのときに出合ったもののひとつに、インドの民族画があります。

世にも美しい、ミティラー画の手製本との出合い

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_1
インドの画家、ランバロス・ジャーの作品をまとめた手製本『水の生きもの』(河出書房新社)。

蔦屋書店でたまたま見つけて、その美しさにひとめぼれしたのが、インド東部のビハール州に伝わるミティラー画の絵本『水の生きもの』(河出書房新社)。南インドの出版社・タラブックスとの共同制作で、ランバロス・ジャーという画家のアートワークをまとめた手製本なのですが、これが工芸品のような一冊なんですよ。手漉きの紙のざらついた質感とやさしい風合い。そこに広がる、シルクスクリーンで手刷りされた繊細で色鮮やかな世界。魚やカニ、ヘビなど、ちょっぴりヘンテコで愛嬌のあるモチーフ。ページをめくるごとにぐいぐい引き込まれていって、気がついたらすっかり自分も絵本の中の住人に。購入してから5年以上経ちますが、今でもふとした瞬間にパラパラと開いては、ぼーっと眺めて現実逃避しています。そしてこの絵本をきっかけに、ゴンド・アートの存在にたどり着きました。最近だと、映画『RRR』を通じて知ったという人も多いかもしれませんね。

そしてこの夏、ゴンド・アートの魅力にハマりました

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_2
世界遺産・東寺の食堂で開催された、バッジュ・シャームさんの個展。

ゴンド・アートとは、インド中央部のマディヤ・プラデーシュ州のパタンガル村に住む少数民族によって描かれる絵のこと。ちょうど今年の夏に、ゴンド・アートの第一人者と呼ばれるバッジュ・シャームさんの個展が、京都の東寺で開催されていました(個展はすでに終了しています)。日本の国民栄誉賞に相当する「パドマ・シュリ賞」を、ゴンド・アーティストとして初めて受賞した方でもあり、彼の著作は世界的に高く評価されています。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_3
歴史的建造物に映える、色彩豊かなゴンド・アートの作品群。波板を用いた空間デザインは、京都のデザインファーム・New Domainによるもの

会場には、ゴンド族に伝わる神話や風習を題材にした、色とりどりの迫力ある原画が40点ほど展示されていました。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_4
額装は、岡山県の里山を拠点とするkinowaが担当。古材を加工したハンドメイドの木の表情が、作品と調和しています。

点と線で描かれた動植物は、幻想的でありながらも、どこかポップでユーモラス。先述したミティラー画にも通じるものがあります。古材を加工したハンドメイドの額装も、作品の世界観と見事に溶け合っていました。

ダイナミックな構図と繊細なパターン模様

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入口でひときわ目を引いたのが、2メートルを超える特大キャンバスに描かれた「探索/Search」(2022)。

渦巻くように飛ぶ鳥を描いた「探索/Search」は、高さ2メートルを超える大作。ビビッドな色使いとダイナミックな構図に圧倒されるのですが、近づいて細部をじっくり見てみると、また印象がガラリと変わってきます。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_6

ご覧ください、この緻密なパターン模様。もちろん、すべて手描きです。これが2メートルのキャンバスいっぱいに広がっているんですよ。恐るべき筆致と集中力です。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_7
「伝統/Tradition」(2021)

鹿の角がぐんぐん伸びて、大きな森ができあがり、そこに村人たちが集う様子を描いた「伝統/Tradition」。この作品も2メートル近くあるのですが、目の覚めるような配色の妙に惚れ惚れします。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_8

こちらも接近すると、膨大な数の点と線で埋め尽くされているのが分かります。気が遠くなるほど繊細な処理がなされていて、まさに神業。宇宙のような壮大なスペクタクルと、無数の儚い命の尊さとを同時に感じられる、マジカルな体験でした。

オンラインショップで購入できるグッズも必見

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_9
ファッションブランドBRU NA BOINNE(ブルーナボイン)とのコラボTシャツ¥5,500。会期中に在廊されていたバッジュさんご本人に書いていただいたサイン入り!

会場ではオリジナルグッズも販売されていたので、ファッションブランド・BRU NA BOINNE(ブルーナボイン)とのコラボTシャツを購入。原画の細かいタッチを忠実に再現するために、シルクスクリーンプリントで丁寧に作られた一着です。

ようこそ、インド民族画の世界へ #深夜のの画像_10
背面に綴られたヒンディー語のメッセージもかっこいい。

背面にあしらわれたのは、バッジュ・シャームさんによるヒンディー語のメッセージ。日本語に訳すと、このように綴られています。

私は村で生まれました。村の名前はパタンガルです。私も村の少年少女たちと同じように勉強や家事をしていました。18歳で家を離れ、都会に出ました。都会では村の経験を頼りに仕事をしました。しかしある日、仕事を辞め、絵筆と絵具を手に新しい人生が始まりました。私は今もその人生を生きています

私は今もその人生を生きている。最後の一文にグッときました。背中にまといたいと思わせる、素敵なメッセージです。

「もう売ってないんだよね?」とよく聞かれるのですが、じつは買えます。展示は終了しましたが、Tシャツを含むオリジナルグッズの一部はオンラインショップで購入できるんです。貴重な原画の図録をはじめ、ステーショナリーやインテリアグッズなど、遊び心あふれるアイテムがそろっているので、ぜひ覗いてみてください。

芸術の秋、今年はインドの民族アートの魅力にどっぷり浸っています。

エディターHAYASHIプロフィール画像
エディターHAYASHI

生粋の丸顔。あだ名は餅。長いイヤリングと丈の長いスカートが好き。長いものに巻かれるタイプなのかもしれません。

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