テイラー・スウィフトは、21世紀を代表する歌手の一人だ。レコード総売上は推定2億枚超え。とくに母国アメリカで絶大な人気を誇り、最新アルバム『Midnights』では、BillboardシングルチャートTOP10を独占する歴史的快挙を成し遂げた。
「負け犬」だけどお嬢さま
「芸術の価値」を問うたストリーミング騒動
テイラー・スウィフトは、大胆な動きによって、権威と闘ってきた人物でもある。ポイントは、投機のように話題性を増幅させていくパワープレー。
象徴的な例は、大ヒットアルバム『1989』が発表された2014年の定額制ストリーミング騒動。アーティストへの還元率が低いという理由により、Spotifyから自作を撤退させた。「芸術には価値がある」という信念による行動だったが、大手からの撤退を「バトルイベント」にすることで注目度を上げ、新作の純売上(単品購入)を増加させるマーケティングと考える業界人もいた。
きちんと稼ぐ、カントリーの女性像
テイラー・スウィフトは大義のもと闘う「正義の優等生」なのだが、そのなかで話題をブーストさせて稼いでいくため「偽善的エリート」だと感じる人も出てくる。しかしながら、相反する印象両方とも、彼女が大胆で有能なマーケターであることの証明だ。
「懸命に努力することは粋じゃない」考えに反対するテイラーは、実際に働き者だ。正義感を掲げて突き進む姿は泥くさくもある。だから「粋」なポップ界では浮きがちなわけだが、もしかしたら、ルーツたるカントリー音楽の女性像に近いのかもしれない。同分野の伝説でありながらテーマパーク運営によって巨万の富を築いたドリー・パートンは、彼女をこのように称賛している。
「テイラーに敬服する点は、自分を安売りしないところ。自身と楽曲をプレゼンテーションするセンスに長けている。クリエイティブで、とにもかくにも、人生のマーケティングに秀でている」「私と同じ。正しくないと感じたら、絶対に闘う」
どんな逆風に吹かれようと、闘志を貫き、きちんと稼いでいくしたたかさ。それこそ、保守的で男性優位なカントリー業界における女性の生き様だ。ゆえに、ドリーの労働讃歌「Working Girl」は、テイラー・スウィフトの賛辞としても響く。「彼女は働く女子」「『攻撃的すぎる』と感じる人もいるけど 彼女は止まらない 下を見たりはしないタイプなのよ、トップにのぼりつめるまではね」。
セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)