【テイラー・スウィフト】「正義」で「偽善」? テイラーの泥くさい仕事術 【辰巳JUNKのセレブリティ・カルチャー】

テイラー・スウィフトは、21世紀を代表する歌手の一人だ。レコード総売上は推定2億枚超え。とくに母国アメリカで絶大な人気を誇り、最新アルバム『Midnights』では、BillboardシングルチャートTOP10を独占する歴史的快挙を成し遂げた。

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Photo:Getty Images

ちょっと掴みづらい存在でもある。彼女と同世代のポップスターといえば、トレンドセッターだらけだ。レディー・ガガやマイリー・サイラスは一目瞭然「クールな個性派」である。一方、テイラーは、私服からして「普通な真面目系女子」イメージが強い。かつて共演の可能性を問われたアウトロー番長、リアーナの返答は、その立ち位置を示している。「私とテイラーが一緒にやっても意味をなさない。ブランドがまったく違う」「彼女は大衆のお手本(ロールモデル)で、私は完全にそうじゃないから」。

要するに、同世代スターには珍しい「優等生」ブランドなわけだが、それが賛否も生んでいる。スーパースターとしての地位を確立した今でも、テイラーに対する大衆の反応は二つにわかれがちだ。「正義の優等生」、または「偽善的エリート」。

「負け犬」だけどお嬢さま

「私は豪邸育ちじゃない 牧場で育って、リビングで踊ったり、キッチンテーブルで生活費を計算してた」 「I Bet You Think About Me (Taylor's Version)」

1989年ペンシルバニア州に生まれたテイラー・アリソン・スウィフトは、カントリー歌手としてデビューした。当時のキャラは「田舎の負け犬」。イケてるクラスメイトからは見下され、恋愛で痛い目を見る……そんな世界観で人気を博した。ただし、この「負け犬」ブランドには、数々の指摘も入っている。たしかに牧場育ちではあるが、父親は元メリルリンチ株式仲介人であり、母親も元投資信託業の専業主婦。ロウティーンの娘が歌手を志した際、父親は音楽の聖地ナッシュビルのメリルリンチに移り、一家で引っ越して夢を支援した。そして歌手契約が叶うと、両親は12万ドル(約1,600万円)分の株式を買うことでレーベルの株主になったという。

つまり、「負け犬」ブランドで成功しつつ、経済的には勝ち組でしかなかった。このあたりが「偽善的エリート」と反感を買うゆえんだが、今回注目したのは、両親から受け継いだであろう、マーケティング手腕だ。

「芸術の価値」を問うたストリーミング騒動

テイラー・スウィフトは、大胆な動きによって、権威と闘ってきた人物でもある。ポイントは、投機のように話題性を増幅させていくパワープレー。

象徴的な例は、大ヒットアルバム『1989』が発表された2014年の定額制ストリーミング騒動。アーティストへの還元率が低いという理由により、Spotifyから自作を撤退させた。「芸術には価値がある」という信念による行動だったが、大手からの撤退を「バトルイベント」にすることで注目度を上げ、新作の純売上(単品購入)を増加させるマーケティングと考える業界人もいた。

翌年、テイラーはまた声をあげる。Apple Music無料プラン分の再生報酬がミュージシャンに支払われないことに失望を表明することで、同社の決定を覆してみせた。これ自体は美談だったかもしれないが、そのあと、Spotifyと和解せぬままApple MusicのCMに出演。「(Appleと異なり無料再生分のギャラも払っていた)Spotifyを標的にした宣伝活動」との疑惑も出た。

後日談としては、『1989』が1,000万枚の売上を達成した2017年「ファンへの感謝」としてSpotifyへの復帰を果たした。ただし、ちょうどその日は、不仲が噂されていたケイティ・ペリーの新作発売日だったため、またまた「バトルイベント」として話題と賛否を巻き起こした(現在、ケイティとは和解発表済み)。

きちんと稼ぐ、カントリーの女性像

テイラー・スウィフトは大義のもと闘う「正義の優等生」なのだが、そのなかで話題をブーストさせて稼いでいくため「偽善的エリート」だと感じる人も出てくる。しかしながら、相反する印象両方とも、彼女が大胆で有能なマーケターであることの証明だ。

「懸命に努力することは粋じゃない」考えに反対するテイラーは、実際に働き者だ。正義感を掲げて突き進む姿は泥くさくもある。だから「粋」なポップ界では浮きがちなわけだが、もしかしたら、ルーツたるカントリー音楽の女性像に近いのかもしれない。同分野の伝説でありながらテーマパーク運営によって巨万の富を築いたドリー・パートンは、彼女をこのように称賛している。

 
「テイラーに敬服する点は、自分を安売りしないところ。自身と楽曲をプレゼンテーションするセンスに長けている。クリエイティブで、とにもかくにも、人生のマーケティングに秀でている」「私と同じ。正しくないと感じたら、絶対に闘う」

どんな逆風に吹かれようと、闘志を貫き、きちんと稼いでいくしたたかさ。それこそ、保守的で男性優位なカントリー業界における女性の生き様だ。ゆえに、ドリーの労働讃歌「Working Girl」は、テイラー・スウィフトの賛辞としても響く。「彼女は働く女子」「『攻撃的すぎる』と感じる人もいるけど 彼女は止まらない 下を見たりはしないタイプなのよ、トップにのぼりつめるまではね」。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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