【タイラ】 アフリカ発のポップスターTylaの野望、「10年後は世界一」

 「10年後には、世界一のポップスターになっていたい。アフリカ人がその地位に就くことが私の願いだから」

SUMMER SONIC 2024での来日を控える新星ポップスター、タイラは、自信満々だ。世界制覇の信念は芸名にもあらわれている。苗字なしでその存在を認知させた歌手といえば、ビヨンセやリアーナ、そしてマドンナやプリンスといった、錚々たるスーパースターが並ぶ。彼らこそ、22歳のタイラが並ぼうとしている存在だ。

タイラ TYLA
MET GALA 2024 photo:Getty Images

実際、TikTokヒット「Water」の成功以来、メット・ガラではバルマンの砂ドレスで話題となり、パリ五輪前夜イベントでは歌唱を披露するなど、アイコンとして幅広い快進撃をつづけている。

 

「絶対不可能」とされた夢

「ポップスターとは、とにかく巨大な存在。巨大なヒット曲、巨大な影響力。歴史を創造し、特別なことで名を刻むこと」

2002年、南アフリカのヨハネスブルグの音楽一家に生まれたタイラ・ローラ・シーシャルの夢は、憧れのビヨンセやジャスティン・ビーバーと同じ世界規模のスターだった。しかし、これは無謀な夢でもあった。アフリカの音楽は長らく国際的影響力を発してきたものの、タレント性やアイドル性も問われるポップスターとなると、欧米やスペイン語圏の出身者ばかりだったからだ。

大方の予想に反して、負けず嫌いの完璧主義者のタイラは、たった4年で音楽界のシンデレラになる。高校を卒業した2019年、泣きながら親に頼み込んで進学を遅らせて、インディアーティストとして楽曲「Getting Late」を発表し注目をあつめた。すぐに大手レーベルに発見されると、ドバイを拠点にしてアフリカ・英米のクリエイターと音楽を制作していき、コロナ禍をはさんだ2023年、運命の楽曲「Water」をリリースする。

「私はこの曲で売れる」。そう確信していたタイラは、機会を最大限に高めた。リリース前よりTikTokで宣伝していき、ルワンダのコンサートで、曲にちなんで自分に水をかける振り付けを披露したのだ。これが、アフリカのサッカーファンのあいだで広がっていき、K-POPアイドルも参加するTikTokダンスチャレンジへと拡大していった。

「Water」は、作り手の期待をもこえる成功をさずけた。アメリカでは、南アフリカ人歌手のソロ曲として55年ぶりにシングルチャートに入り、グラミー賞に輝いた。自己紹介として「完璧なアルバム」とされたデビュー作『Tyla』の評価も上々となっている。

大志はアフリカ文化発信

タイラ TYLA
The BET Awards 2024 Photo:Aflo

不可能を可能にした成功の秘訣は、アーティストとしてのモットーにあるだろう。あらゆる創造に自国文化の要素を入れるようにしているタイラの音楽テーマとは「アフリカと欧米の音楽の完璧な融合」。「Water」の場合、南アフリカの人気ジャンル、アマピアノを米国流R&Bと合体させてキャッチーにした曲で、振りつけもバカルディという南アのダンスにのっとっている。こうしたアフリカ要素が欧米やアジアのポップシーンで目新しかったからこそ、短期間での急上昇をもたらしたというのが本人の考察だ。

このアマピアノは、ただのジャンルではなく、闘争の音楽なのだという。アパルトヘイト後の南アフリカの歴史と変革に結びつく文化なのだ。

アマピアノを国際ポップ化したタイラも、闘争のアーティストだ。「貧しくて水すら飲めない」といったイメージを抱かれやすいアフリカの真の文化を、アフリカ人として世界に伝える。そう決意しているからこそ、自信をもって発信力の高いポップスターでありつづけようとしている。

「最終的な目標は、有名になることでも、ポップスターでもない。音楽と人々の生活を変えること」

アルバム一番のお気に入り曲だという「ART」にて、愛する人の芸術作品になりたい気持ちを歌っているタイラ。彼女自身も、南アフリカの文化を発信するプラットフォームのような芸術家となるだろう。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

記事一覧を見る

FEATURE
HELLO...!