『スパイダーマン』など「白人向け」役を次々獲得。Z世代ハリウッドスター、ゼンデイヤの演技アクティビズム 【辰巳JUNKのセレブリティ・カルチャー】

今、若手女性のハリウッドスターといえばゼンデイヤだろう。Z世代の彼女は「なんでもできる」。日本においては、MCU版『スパイダーマン』シリーズのヒロインとして知られるだろう。ポップスターの経歴を持つため『グレイテスト・ショーマン』で見せたように歌もダンスもうまい(それどころか、この作品で空中ブランコまでやった)。アメリカで社会現象となったドラマ『ユーフォリア/EUPHORIA』では主演、プロデュースのほか、挿入歌「I’m Tired」の作曲、歌唱もつとめてみせた。加えて、VALENTINOやBVLGARIのアンバサダーをつとめるファッションアイコンでもある。

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Photo:Getty Images

なによりゼンデイヤが偉大なのは、親しみやすさとカリスマ性を備えた「アメリカン・スウィートハート」の座についた黒人女性俳優であることだろう。これまでのハリウッドでは、エマ・ストーンやジェニファー・アニストンのような「白人のポジション」のように思われていた国民的人気者の枠だ。

「白人向け」役への挑戦

1996年、カリフォルニアに生まれたゼンデイヤ・マリー・ストーマー・コールマンは、演劇にも近しい教師家庭に育った。13歳のころにはディズニードラマ『シェキラ!』によって一躍人気者に。マイリー・サイラスを筆頭としたディズニースターは「ややグレる」キャリア転換でおなじみだが、それも「白人のポジション」かもしれない。黒人女子ゆえに失敗が許されないと構えていたゼンデイヤは、規範的な「優等生」路線を選んだ。しかし、それは「革命者」の道でもあった。

ゼンデイヤは、率先して「白人用の役」のオーディションに挑戦していったのだ。超大作『スパイダーマン』のMJ役にしても、有色人種俳優が想定された役ではなかったと言われている。このチャレンジングな開拓こそ「白人のポジション」と思われていたアメリカン・スウィートハート俳優に君臨した一因だろう。

演技を通した政治活動

黒人の父、白人の母のあいだに生まれたゼンデイヤは、自らが「ハリウッドが許容できるライトスキン(薄めの色合いの)黒人女子」だからこそ成功できた、と認めている。そんな彼女が目指すのは「自分が黒人女子の代表でなくなること」である。現実に生きるさまざまな黒人女性の表象を増やしていくことこそ目標なのだ。

同時に、活動家ではなく「ただの女性俳優でしかない」と自称するなど、リベラルなハリウッドスターにしては冷静なスタンスをとっている。自身の信念を、彼女はこのように語る。

「いつも考えているのが、自分の声がもっとも強力に、わかりやすく伝わる方法です」

「なにかツイートしたからといって、実際になにかしたことになるんでしょうか?私が望むのは、ストーリーテラーとして、物語をつくること。見たことがないもの、さまざまな黒人の愛、エモーショナルな体験のさまざまな色調……そうした物語が、私の意見であり、私の活動です。現実の人間関係のみならず、映画やTVでも、私たちは人間としてのあり方を学んでいきます。理想像がキャラクターなこともある。だから、たくさんの人々が、メディア鑑賞を通して、ペルソナを創りあげていくんです」

ゼンデイヤは「俳優」としてアクティビズムを行っている。実際、プロデュースもつとめたディズニードラマ『ティーン・スパイ K.C.』では、黒人ファミリー作品にするため果敢に交渉していったという。この作品はいわゆる社会派ではなかったが、子どもたちが目にするファミリードラマだからこそ、数少ない黒人家族ジャンルにする価値があった。

トップ俳優となった今でも、ゼンデイヤは「なんでもできる」。しかし、そのスキルは、演技へと注がれている。たとえば、ポップスターの道を選ばなかった理由は、自分について発信をつづける外向的な気質ではなかったため。しかし、エミー賞を受賞した『ユーフォリア』シーズン1において最も話題になった演技は、音楽にあわせたコリオグラフィーだった。ファッションにしても、レッドカーペットを歩く際「ドレスにあわせたキャラクターの演技」を行い、大胆な魅せ方を習得していったという。

マルチな才能は、ほかにもまだまだある。それでも確かなのは、ゼンデイヤが、俳優になるべくしてなった、世代最高の演者ということだろう。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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