【トム・クルーズ】「100歳まで」映画に捧げる。命知らずなスターの人生

「僕にとって、映画づくりとは仕事ではなく人生そのもの」。2025年、60代にしてアカデミー名誉賞を獲得したトム・クルーズ。キャリア総計の興行収入は130億ドル(約二兆円)超え。問答無用の映画スターだ。

同時に「スターが主演なら成功する」といった短絡的な考えに異を唱えてきた人でもある。脚本から撮影、クルーにまで気を配る根っからの職人として、哲学は極めてシンプル。「芸術の基礎は技術だ」「とにかく鍛錬を積まないといけない。技を学び、習得し、最後まで妥協しないこと」。

「僕にとって、映画づくりとは仕事ではなく人生そのもの」。2025年、60代にしてアカデミー名誉賞を獲得したトム・クルーズ。キャリア総計の興行収入は130億ドル(約二兆円)超え。問答無用の映画スターだ。

同時に「スターが主演なら成功する」といった短絡的な考えに異を唱えてきた人でもある。脚本から撮影、クルーにまで気を配る根っからの職人として、哲学は極めてシンプル。「芸術の基礎は技術だ」「とにかく鍛錬を積まないといけない。技を学び、習得し、最後まで妥協しないこと」。

4歳から超絶アクション

トム・クルーズ アカデミー賞

photo:Getty Images

1962年、ニューヨーク州にトーマス・クルーズ・メイポーサー4世として生まれたトムが「映画づくり」を始めたのは、なんと4歳。俳優のものまねをするどころか、屋根から飛び降りるスタントアクションまで試していたという。

暴力的な父との生活は不安定で、転校つづきのなか、識字障害もあっていじめられることも多かった。両親の離婚後には、三人の姉妹とともに母親と家計を支えていき、冒険好きでありながら規律を重んじる志向が確立。

聖職者を目指して神学校に入ったこともあったが、とくに精を出したのがスポーツ。高校在学中、レスリングで五輪を目指すほどになったが、怪我によって断念したあとミュージカルに主演して俳優の道を拓いた。

真面目なスター

トム・クルーズ 卒業白書 トップガン

photo:Getty Images

真面目で熱心だったトムは、10代にしてハリウッドの監督に認められて機会を掴んでいく。

美青年としてのブレイクをもたらした青春映画『卒業白書』(1983)の頃から、ほぼ即興したダンスシーンの編集作業にも立ち会っていた。海軍パイロットを演じた代表作『トップガン』(1986)の場合、主演しか受けたがらなかったヴァル・キルマーを説き伏せてライバル役の出演を取りつけたのは、他ならぬトムだった。

『トップガン』の大成功でスターとなったが、当然のごとく望まれた続編には渋い対応を見せた。「もっと成長して、映画を学ばなければいけない」という想いだったという。

さまざまな作り手との経験を重視したトムのフィルモグラフィーは、実にバラエティ豊かだ。活劇やロマンス、ドラマはもちろん『インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア』(1994)ではゴシックな吸血鬼、『マグノリア』(1999)ではナンパ講師も演じている。

侍を演じた『ラスト サムライ』(2003)では剣術にも挑戦。渡辺謙や真田広之といった日本の名優を世界に知らしめた。

超絶アクションでの復活

トム・クルーズ トップガン

photo:Getty Images

キャリアの危機も経験したことがある。2000年代なかば、YouTubeが普及したことで、インタビューでの振る舞いや、プライベートでの信仰、恋愛が大きなゴシップになっていき、スタジオとの関係も悪化していったのだ。

それでも落ちぶれるどころか上昇してみせたのは、映画づくりに徹しつづけたからだ。

「技術」磨きに徹するトムは、常日ごろからさまざまなスキルを習得していっている。ヘリコプターの操縦から歌や踊り、ヒップホップ、ピアノ演奏まで。これらの鍛錬が活かされたのが、音楽映画『ロック・オブ・エイジズ』(2012)や実録犯罪映画『バリー・シール/アメリカをはめた男』(2017)だった。

なにより、現代最高の映画スターの座を決定づけたのが、かねてより製作・主演をつとめるスパイアクション『ミッション:インポッシブル』シリーズ(1996〜2025)。

ドバイの高層ビルをのぼった四作目『ゴースト・プロトコル』(2011)が大ヒットを記録すると、トム本人が行う超絶アクションもスケールアップ。実際に飛んでいる飛行機に掴まったり、バイクで崖から飛び降りたりするなど、命がけのチャレンジを連発していった。

ある意味、スキャンダル以降メディア露出を減らしていったこともプラスに働いたかもしれない。有名人の数が増えに増えたSNS時代、トム・クルーズは「映画館でしか会えない存在」になった。そんな彼に会いに行きさえすれば、観客は劇場でしか体感できない唯一無二のスペクタクルを魅せてもらえる。

映画の救世主

トム・クルーズ トップガン アカデミー賞

photo:Getty Images

2020年代、トム・クルーズは「映画の救世主」となった。劇場の客足が遠のいていたコロナ禍明け、36年ぶりの続編『トップガン マーヴェリック』(2023)を約15億ドルものメガヒットに導いてみせたのだ。劇中「時代遅れ」のパイロットとして扱われる主人公の勇姿は、配信によって脅かされている劇場映画文化に人生を捧げるトム自身と重なるかのようだった。

アカデミー名誉賞を受賞した2025年には『ミッション:インポッシブル』シリーズも惜しまれながら幕を閉じた。それでも、期待の新作が目白押しだ。オスカー監督アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥとの壮大なダークコメディのほか『トップガン』三作目の企画も浮上している。

つねに限界を打ち破ってきたトム・クルーズ。映画スターの年齢の壁も、超える気満々だ。

「80代まで映画をつくりつづけるって宣言したりもしてたんだ。でも本当のところは……100歳までやる気さ」 。

辰己JUNKプロフィール画像
辰己JUNK

セレブリティや音楽、映画、ドラマなど、アメリカのポップカルチャー情報をメディアに多数寄稿。著書に『アメリカン・セレブリティーズ』(スモール出版)

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