【HC 20SS】メゾン マルジェラが考える、次世代のブルジョワジーのあり方

工事中の無機質な建物に入ると、点々と床にこぼれ落ちたピンクの塗装。どうやら、今回のメゾン マルジェラの “アーティザナル” ショーではピンク、それもかなり彩度の高いショッキングピンクがキーカラーのようだ。

先の床だが、よく見ると靴のソールの形になっている。聞くと、今回のコレクションで披露されるある特別なコラボレーションの伏線になっているという。気になるコラボレーションは、下の写真から解読してみてほしい。きっと見つけた瞬間に、その爪先を見てあっと驚くはずだ。

今回、コレクションのテーマとして掲げられたのは、「ブルジョワ・ジェスチャー」。ブルジョワのジェスチャーから着想を得て、ジョン・ガリアーノが提起する、次世代、ないしさらに次の未来に向けた反逆的なブルジョワ・スタイル。例えば柔らかなシフォンやオーガンザを重ねたフィッシュテールドレス。大げさに結んだボウタイや、クリエイションの工程を露わにすることでその信頼性と本質を示すメゾンのコードのひとつ、「ワーク・イン・プログレス(進行中・未完成)」のディテール。ライニングのように重ねられたトレンチコートはオフショルダーに仕立てられ、ソワレとも、マチネともつかない絶妙な佇まいを放っている。

オートクチュールでは珍しく、メゾン マルジェラの“アーティザナル”はCo-ed(男女共通)コレクションとしてメンズモデルも登場する。中でもショー終盤で登場したドイツ人モデルのレオン・ダメは、この3シーズン毎回ユニークなウォーキングを披露してきた。今回彼がまとったのは、スリーブがニットの切り替えになったテーラリング風のルック。こちらもデコルテが強調され、アンドロジナスな彼の魅力を引き立てている。

考えても見れば、ショッキングピンクといえばオートクチュールを象徴する色でもある。今回のコレクションでは、カラーパレット、シルエットやモチーフに至るまで、伝統的なオートクチュールの手法を比較的分かりやすく示しているように感じる。ただ、あるルックではテーラリングの中に突如チュールを挟み込み、ある種のジェンダーコードを大胆に対比させるなど、どのルックもその解釈とアウトプットは単純ではない。

近くで見れば見るほど、そのディテールに目を奪われる。そして、何故この仕上がりになったのか、もっと知りたいと思わせる。このミステリーこそ、メゾン マルジェラの魅力なのかもしれない。

photos and text:Shunsuke Okabe

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