トニー賞も目をつけた 渡辺謙の2016年

観た人全員が絶賛した渡辺謙主演の舞台『王様と私』。「とんでもないことに挑戦」した男がブロードウェイに戻る。今度こそ、奇跡の瞬間を目撃しなくちゃ!


©AFLO

Ken Watanabe/渡辺 謙
1959年生まれ。新潟県出身。『瀬戸内少年野球団』(’84) で映画デビュー。『ラストサムライ』(’03)でアカデミー賞、ゴールデングローブ賞にノミネートされ世界的な評価が高まる。’15年、初のブロードウェイ・ミュージカル『王様と私』ではトニー賞候補に。

昨年のショウビズ界でもトップ級の驚きだったのは、渡辺謙がブロードウェイ・ミュージカル『王様と私』のシャム王役で、トニー賞主演男優賞候補になったこと。「最後まで苦戦した(笑)」という英語の台詞の発音はもちろん、王様らしい堂々とした演技、ユーモアも忘れないチャーミングなしぐさ、そして「60代のカップルのご主人が、僕らの“シャル・ウィ・ダンス”が始まった途端、“これ、これだよ。僕が待っていたのは!”と隣の席の奥さんに呼びかけたんだとか、そういう話を聞くとうれしくなりますね(笑)」。

そう、日本人はただ一人で完全にアウェイだった(?)劇場を一気に魅了してしまったのだ。なかでも見事だったのは、舞台なのに時折映画のクローズアップのような演技を見せること。

「あ、それ、正直に言うと自分でも意識していたかもしれません。舞台の演技はフラットな部分があるというか。映画のように〝あとは編集に任せて振りきろう、やりきろう〟といった強さはないんだけど、今回僕はそれをやってみた。すると、演出のバート(レット・シャー)もその思いを活かしてくれて。第一王妃のソロのとき、僕はずっと舞台の上で何かやっていなくちゃならなくなった。僕のソロのときは誰も助けてくれなかったのにね(笑)」“彼は素晴らしい”というそのナンバー、拍手が鳴りやまなかったということをつけ加えておこう。

一方、マシュー・マコノヒーとナオミ・ワッツと共演した『追憶の森』はカンヌ映画祭での評は“?”だったが、富士の樹海を巡る男二人の旅が妙に心にしみ入って忘れられない。

「僕の役って、マシューの妻であるナオミの霊みたいに受け取れたでしょう? 僕のようなたかが一役者がこんなことを言うのは失礼なんだけど、映画や舞台を見る側ももう少しいろいろなことを考えたり想像してほしいな、と思う瞬間がありますね。口あたりがいい作品にとびつくばかりでなくてね」

渡辺自身、妻・南果歩の舞台『パーマ屋スミレ』を「10回は観てる(笑)」とか。トップ俳優の矜持が美しい。

SPUR2016年3月号掲載
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ブロードウェイ・ミュージカル『王様と私』
19世紀のシャム(現タイ)を背景に、王様の子どもたちの家庭教師に雇われた英国人女性アンナと王の交流を描く。アンナ役のケリー・オハラはトニー賞主演女優賞に輝き、「私の王はケン・ワタナベだけよ!」と感動的な受賞スピーチ。3月に再び登板予定。

 
©2015 Grand Experiment, LLC.
photo:Jake Giles Nette

『追憶の森』
妻との心のすれ違いも修復して、新しい一歩を踏み出そうとした男(M・マコノヒー)。が、絶望した彼はネットで見つけた富士の青木ヶ原で自らの命を絶とうとする。しかし、行く先々で不思議な男(渡辺謙)が現れて……。(GW公開予定)

 
©2016「怒り」製作委員会

『怒り』
『許されざる者』(’13)に続き、李相日監督とのタッグ再び。吉田修一の小説を映画化。八王子で起こった夫婦惨殺事件に残された「怒」の文字。事件から1年後、さまざまな場所でそれぞれの人間関係にヒビが入りはじめる。(9月公開予定)

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