2017.01.25

THE FACES of 2017/ソーコ

interview & text :Minako Norimatsu(ファッション・ジャーナリスト)

音楽も演技も限りなくハートフルな、マルチ・アーティスト


photography:Julie Trannoy hair:Rudy Marmet make-up:Regine Bedot

インディーズ音楽シーンから、映画『The Dancer』へ

 ソーコ、本名はステファニー・ソコリンスキー。彼女のアルバムはいずれも日本では正式に発表されていないが、失恋の傷心を切々と歌ったフォーク調の曲、「I’ll Kill Her」はじわじわとヨーロッパ中でヒットした。映画『her/世界でひとつの彼女』(’13)では声優としても起用されたから、そのハスキーでいて甘い声に、聞き覚えがある人も多いだろう。また、2016年には一時期、クリステン・スチュワートとの恋仲がオフィシャルに。そして日本での公開が待たれる映画『The Dancer』での熱演は、彼女のキャラクターを揺るぎないものにした。パンクで、かつ限りなくヒューマン。大胆でいて、フラジャイル。音楽と映画の両方で自分のすべてをさらけ出すディープなソーコは、多くの人の心を揺さぶっている。
「私にとっては音楽と演技は、睡眠と食事みたいなもの。眠っているときは食べられないし、食べているときは眠れない。つまり同時にはできないけれど、どちらも生きるために必要でしょう?」ソーコは早口で、こう語りだした。こんな口調に象徴されるように、ソーコは"せっかち”なアーティストだ。「アイデアが湧いたら、それぞれの分野の専門家を探すことには時間を費やさずに、すべて自分と周りの友人たちでやってしまうの。曲のビデオクリップも、シナリオからディレクション、プロデュースまで、自分で」。これが、彼女自身が言う"DIYクリエーション”。「毎日、何かしらクリエイティブなやり方で自己表現したい。それが私のモチベーションね」
 ところで、彼女の貪欲なまでの創作意欲が培われたのは、ボルドーで過ごした子どもの頃。
「小さな頃に父が亡くなって、母は私の心を癒やそうと、ピアノや演劇など、いろいろな習い事をさせてくれたの。特に演劇で誰か別の人になりきることは、質素な生活の中、父親をなくした悲しみを紛らわしたい子どもにとっては、現実逃避の手段だったわ。一瞬でも、問題を忘れられたから」
 そんな彼女が自分自身を重ねた役が『The Dancer』の主人公、ロイ・フュラー。女優としての舞台で転んだ際のアドリブをきっかけに、身体をすっぽりと包む白いシルク地を舞わせる"蝶の踊り”、別称"蛇の踊り”を独自に開発した、前衛ダンサーだ。ソーコは、その人格について熱っぽくこう語る。
「彼女は単なるダンサーではなく、必要にかられてすべてを自分でこなした女性。コスチュームから舞台演出、ライティング……。幻想的な世界、宙に舞うような夢の世界を実現させるためにね。また、まねをするダンサーが後を絶たなかったから、自分のアートを守るために、コピーライトというシステムを確立しようとしたのよ」
 ロイ・フュラーについて知らなかったという彼女に、「あなたにぴったりの役がある」とYouTubeで"蝶の踊り”のビデオを見せたのは映画監督のステファニー・ディ・ジウスト。以来6年の歳月をかけて脚本は15回も書き直され、ソーコはシナリオ作りから資金探し、プロデューサー探しにも関わった。
「役作りには全身全霊で打ち込んだわ。激しいダンスシーンも、スタントマンを使うのは問題外。2カ月間毎日7時間ダンスの練習をし、その精神的、身体的苦痛も自分自身で味わったの」

映画のシナリオ、新アルバム、プロジェクトは尽きない

映画のシナリオ、新アルバム、プロジェクトは尽きない


©Allstar/amanaimages

『The Dancer(英題)』
 パリで19世紀末〜20世紀初頭に活躍したアメリカ人前衛ダンサー、ロイ・フュラーのキャリアを描いた作品。監督はステファニー・ディ・ジウスト、主演はソーコ、共演はリリー=ローズ・デップ。2016年のカンヌ映画祭に出品。

 こんなふうに、まるで取り憑かれたように没頭したプロジェクトを終えたあとも、彼女は"バーンアウト”知らず。尽きない創作意欲の行き先は、次々と生まれるプロジェクトだ。ファッションにも興味があり、今後はカプセルコレクションを手がけてみたいとか。マルベリーでドレスをフィッティングした際、マイナーチェンジをいくつかお願いし、結果的に"コラボレーション”による自分だけのドレスができた経験が楽しかったからだ。また、映画のシナリオも執筆中。「いい役に恵まれるのを待つのではなく、自分にパーフェクトな役は自分で作るべき」
 そして現在は、次のアルバムが完成の段階に入っている。「新しい曲の数々では、どの言葉もとても慎重に選んだから、アルバム全体が私そのもの。言ってみれば、私の内面の鏡。これまでのアルバムより、メローでソフトになる予定よ」と、ソーコ。新アルバムは、2017年にリリース予定。感受性豊かなソーコの音楽が、『The Dancer』を経てどんなふうに発展したかを感じ取るのが、今から楽しみだ。

PROFILE
Soko/ソーコ
フランス、ボルドー生まれの31歳。2003年に短編映画で女優デビュー。ミュージシャンとしては’07年のファーストアルバム以来2 枚のアルバム、『I Thought I Was An Alien』と『My Dreams Dictate My Reality』を発表している。

2017年を切り拓く、輝く才能とつながりたい今年はモード界にとってどんな年になるのだろうか? そんな未来を描くのにふさわしい7人のアーティストたちに会いたくて、世界中でインタビューを敢行。 今、彼らが考えていることと、今、私たちが考えるべきこと。 煌めく才能に現在と未来を聞いた。

SOURCE:SPUR 2017年2月号「新年を切り拓く、輝く才能とつながりたい THE FACES of 2017」

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