THE FACES of 2017/エマ・ストーン

interview & text:猿渡由紀(映画ジャーナリスト)

28歳の今、秘めてきた才能が本格的に花開く


photography:Austin Hargrave/AUGUST/amanaimages

次のオスカーでついに初受賞を果たすか

 2017年、ついに、そのときが訪れるかもしれない。
 コメディで頭角を現し、自然な形でシリアスなドラマに移行しつつ、スーパーヒーロー映画のヒロイン役も得て誰もが知るスターになったエマ・ストーンは、ここ2年ほどの間に、実力派の肩書を築き上げてきた。
 幼い頃から大ファンだったウディ・アレンの映画に2本続けて出演したかと思ったら、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』で、初のオスカー候補入りを実現する。さらに、『キャバレー』のサリー・ボウルズ役でブロードウェイデビューも果たした。そして、最新作『ラ・ラ・ランド』では、2017年のオスカー主演女優賞に輝くかとささやかれているのだ。『セッション』(’14)で高い評価を受けたデイミアン・チャゼル監督が書き下ろしたこのミュージカル映画は、現代のLAを舞台にした恋愛物語。女優志望の若い女性と、売れないジャズピアニスト。夢を追いかけるふたりは、成功のために努力するのだが、いつしか歯車がずれていく。
 どこにでもありそうなストーリーを、新鮮かつリアルで、心から共感できるものにしている大きな要素が、ストーンの演技だ。あの印象的なグリーンの目が、台詞のないシーンでも、彼女の思いや、恋の残酷さ、せつなさを、見る者に対して、直球で投げかけてくるのである。
「自分を全部さらけ出せたと思うとき、私はいちばん誇りを感じる。私はもともとちょっと自意識過剰で、心配性なの。それを見せないよう、コントロールしたがってしまう。この仕事で、それは許されない。自分の弱いところも、ダメなところも、全部解き放たないといけないの。それができたとき、女優としてだけでなく、ひとりの人間としても、心の平和を感じるのよ」

駆け出しの頃には屈辱的なオーディションも体験した

駆け出しの頃には屈辱的なオーディションも体験した

 10年に及ぶキャリアで、彼女は、ずっとそれをやってきた。最初のブレイクがコメディだったのも、同年代の女優の多くがはまりがちな、可愛く見えたいという誘惑に負けることなく、シーンに正直に、不格好なことも平気でやってみせたことが大きかったはずだ。端役とはいえ、10代で映画デビューを果たした彼女は、苦労をしていないほうだといえる。それでも、『ラ・ラ・ランド』で彼女が演じるミアのように、屈辱的なオーディションも何度も経験していると告白する。
「オーディションでミアが台詞をひとこと言ったあと、すぐ『ありがとうございました』と帰されるシーンがあるわよね。ああいうのは、何度も経験したわ。特にテレビの新番組のシーズンにね。キャスティングディレクターは、あまりにも多くの女優を見ているから、ひと目見ただけで違うとわかるのよ。でも、ミアと同じ幸運も起こった。3年くらい、いろいろなオーディションを受けては落ちてきた私を覚えていたキャスティングディレクターが、『Superbad(原題)』のカメラテストに来てくれないかと電話をくれたのよ。そこから私の人生は変わったの」
 役を得られない間は、LAのドッグベーカリーでバイトをした。「私が作る犬用クッキーがあまりにもひどいと苦情が来たわ」と振り返って笑う。ミアは女優をあきらめようと決心するが、その気持ちも、彼女にはわかる。「私も思ったわよ。ただ、実行しなかっただけ(笑)。この3年間は、最高の経験を与えてくれた。『キャバレー』『ラ・ラ・ランド』、そして次の『Battleof the Sexes(原題)』。すべてが刺激的で、今、私は、これまでにないくらい、この仕事に情熱を感じているわ」
 伝説のテニス選手ビリー・ジーン・キングを語る『Battle of the Sexes』は、2017年に北米公開予定。この役のためには、たっぷりテニスの特訓を受けた。ストーンは、どんなふうにキングを演じるのだろう。彼女が演技をあきらめなかったことに、今、どれほどの人が胸をなで下ろしているだろうか。

『ラ・ラ・ランド』
 LAに住む若いふたりの恋を描く感動のミュージカル。トロント国際映画祭の観客賞を受賞し、オスカーのフロントランナー。ストーンも今作でベネチア国際映画祭女優賞を受賞した。2017年2月24日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国公開。

PROFILE
Emma Stone/エマ・ストーン
1988年、アリゾナ州生まれ。『Superbad』(日本未公開)で映画デビュー。『ゾンビランド』(’09)、『Easy A』(日本未公開)などコメディを経て、『ヘルプ〜心がつなぐストーリー〜』(’11)、『ラブ・アゲイン』(’11)などシリアスなニュアンスの映画に移行。『バードマン〜』(’14)でオスカー候補に。

2017年を切り拓く、輝く才能とつながりたい今年はモード界にとってどんな年になるのだろうか? そんな未来を描くのにふさわしい7人のアーティストたちに会いたくて、世界中でインタビューを敢行。 今、彼らが考えていることと、今、私たちが考えるべきこと。 煌めく才能に現在と未来を聞いた。

SOURCE:SPUR 2017年2月号「新年を切り拓く、輝く才能とつながりたい THE FACES of 2017」

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