THE FACES of 2017/グレース・ウェールズ・ボナー

interview & text:Wayne Sterling(ライター)

イギリスとジャマイカ。 文化もジェンダーも超えて自由に羽ばたく若き才能


photography:Jamie Morgan coordination:Tomoko Kawakami

新たなモードの扉を開く異文化のハイブリッド

 グレース・ウェールズ・ボナー。ジャマイカとイギリスのルーツをもつ彼女は、ロンドンのセントラル・セント・マーチンズを卒業してからたった2年の間で、2015年にブリティッシュ・ファッション・アワードでメンズデザインの新人賞を取り、2016年にLVMHプライズのグランプリを受賞。さらにそのコレクションはヴィクトリア&アルバートミュージアムに寄贈されることになり、破竹の勢いでファッション界にその名を轟かせた。J・W・アンダーソン、リカルド・ティッシ、ニコラ・ジェスキエール、マーク・ジェイコブス、そしてカール・ラガーフェルドを含む審査員たちはグレースが作るメンズウェアの威厳のあるエレガンスを単に評価したのではなく、その明瞭でクリアな彼女のもの作りのビジョンに共感したのだ。それら一連の出来事に驚いている、と話すグレースはとても聡明で謙虚な女性だ。
「私自身、こんなことが起きるなんて想像もしてなかったわ。私は自分の個人的なプロジェクトを淡々と進めてきただけ。世の中の人たちが私の作った服にそんなに興味を持ってくれるなんて、まったく予期せぬ出来事だった」
 なぜ皆が彼女の服に魅せられたのか。その理由は、彼女のコレクションに、イギリスはもちろん、アフリカ、インド、ヨーロッパとさまざまな文化が取り入れられていることにありそうだ。「私が興味を持っているのはカルチャーのハイブリッド。違った文化がクラッシュして、対立することで、私自身のアイデンティティにつながってくる。まるでいろいろな影響を受けて、新しい文化を作り出したクレオールの人々みたいにね。すべてはミックスから始まる。それは私自身が、伝統的なイギリスの文化とアフリカに色濃く影響を受けたジャマイカの文化の交差した場所にいるからかもしれない。ふたつの文化の違いのなかで、常に疑問を持ち、そのことを考えさせられる機会が多い人生だったから」
 今や、デザイナーとして活躍する彼女にはビジュアルを通して、この価値観や自分の意志を発表できる場が与えられている。「ファッションを通して自分を表現できることはとてもエキサイティングなこと。大学を卒業するときに、『黒人のリズム感、そして美学』を題材に卒論を書いていて、それと同時に卒業コレクションも一緒に制作したの。その過程で、自然に卒論で書いた内容が服に投影されてきていることに気づいた。さらに、周囲の人もそのことに気づいてくれてね。それってとても興奮する出来事だったわ」

メンズウェアのコレクションに女性からの支持が集まった

メンズウェアのコレクションに女性からの支持が集まった


写真はすべてメンズウェアのファッションウィークで発表された2017年春夏コレクションから。スカートやスモックブラウスなどジェンダーフリーなアイテムのほか、実際に女性が着るためのウェアの提案も。 修道士のような禁欲的なデザインと華麗なビジューの装飾のハイブリッドで魅せた

 メンズからスタートしたコレクションは、実際に身につけることを考慮した機能性を重要視し、昔ながらの手法でビスポークサービスも展開する。
「メンズウェアを作りはじめたのは、既存のものをぶち壊し、再構築する……そんなことをやってみたくて。リサーチしていたときに、アーティストのジャン=ミシェル・バスキア、サミュエル・フォッソなどに惹かれたの。音楽ならジャズが好き。まとまりがなさそうで、しっかりまとまっている……そんな感じが好み。いろいろなものを集め、少し自分らしさを忍ばせる。バランスをとるのは難しいけど、パーソナルな世界やキャラクターを作り上げたい」。そうしていくつものアイデアをコラージュした結果、でき上がったものは一つの美学へと集約されている。
 彼女のデザインを見ていると、特定のデザイナーに影響を受けている感じは見られない。誰か影響を受けたと思うデザイナーはいるのだろうか?「私が影響を受けているのは、アートや文学だと思う。視覚的じゃなく、内面的なことかしら。もちろん、ガブリエル・シャネルやミウッチャ・プラダ、ラフ・シモンズはデザイナーとして尊敬しているわ。なぜなら、彼らは文化に根ざしていながら、それを声高に主張せず、さりげなくもの作りに生かしている。その姿勢に共感するから」
 LVMH賞の審査員を務めたフィービー・ファイロが彼女のコレクションを気に入って、とても着たがっているという話がある。ランウェイ以外では、FKAツイッグスのためのステージ衣装を作り、とても崇高な出来栄えだった。メンズウェアのデザイナーとして活動してきたグレースに、女性たちが反応し始めている。なぜなら、彼女はジェンダーフリーであり、自由で美しい世界観を持つから。それは過去、エディ・スリマンが手がけていたディオール オムの服に感度の高い女性たちが群がったのと同じ状況だと言えそうだ。
「女性に共感してもらえるのは、うれしいわ。最新のコレクションではレディスも手がけているの。もの作りの比重については、手探り状態だけど、私のコレクションは流動的なのが特徴。だからメンズ、レディスにこだわらず、着てもらえたらいいと思う」

PROFILE
Grace Wales Bonner/グレース・ウェールズ・ボナー

2014年にセントラル・セント・マーチンズを卒業。卒業コレクションでロレアルプロフェッショナルタレントアワード、ブリティッシュ・ファッション・アワード新人賞を受賞。2015-’16年秋冬コレクションからロンドンファッションウィークでメンズウェアを発表。2016年のLVMHプライズグランプリに輝く。
http://www.walesbonner.net/

2017年を切り拓く、輝く才能とつながりたい今年はモード界にとってどんな年になるのだろうか? そんな未来を描くのにふさわしい7人のアーティストたちに会いたくて、世界中でインタビューを敢行。 今、彼らが考えていることと、今、私たちが考えるべきこと。 煌めく才能に現在と未来を聞いた。

SOURCE:SPUR 2017年2月号「新年を切り拓く、輝く才能とつながりたい THE FACES of 2017」

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