短歌と会社、どちらもやりがいのある大事な仕事
服部真里子さんは歌集を2冊出版し、日本歌人クラブ新人賞や現代歌人協会賞を受賞している歌人。しかし短歌の活動は夜と休日が主で、平日は飲料品メーカーで経理の仕事をしている。
「この働き方になったのはまったくの偶然です。父はサラリーマン、母は専業主婦というごく一般的な家庭に育ったせいか『現金の収入がないと人生の自由を買えない』と思っていたので、大学卒業後に自然と企業に就職しました。歌は大学時代に始めたのですが、あくまで趣味でしたから、それが収入の手段とは全然考えられませんでした」
それが、入社4年目の2013年に歌壇賞を受賞するなど作品が認められ、急に歌人としての仕事の依頼が増えた結果、自然と二刀流の働き方に。歌の仕事は作歌などの活動以外に、カルチャーセンターの講師や原稿依頼も受けていて、副業とはいえかなり忙しい。
「退社後と休日以外に昼の休憩時間も歌の仕事にあてています。原稿を書いたり歌のヒントを書き留めたり。短歌のスイッチは常にオンにしています」
歌人としての仕事をしていることはもちろん会社には報告済み。アットホームな社風で残業がないのも副業をするうえでメリットだった。会社や上司に副業の理解があることも、活動のしやすさにつながっている。
「社内がいつも和気あいあいとしているうえ、上司がとてもできる人で働きやすいんです。語弊があるかもしれませんが、会社の仕事はある意味誰にでもできるところがいいと思っています。会社は個々の能力に差があっても歯車として入れるよう構築されたシステム。その中で社会に役立てるし賃金ももらえます。でも短歌の仕事は私にしかできないことを求めてくれて、誰にも代わりができない。その分、大事にしてもらえますが責任も重い。だから、収入は会社の仕事のほうが多いのですが、やりがいはどちらにもあります」
とはいえこの多忙な状況で無理がたたり、体を壊して講師の仕事は現在休業中。講座では考えていたことを思い切ってやってみたら受講生に好評だったので、今は残念な気持ちでいっぱい。
「講師の仕事は講義だけではなく、下準備や受講生の作品の講評など、前後の作業が必要です。それを限られた時間の中でうまく進められませんでした。会社員生活も続けるなら方法を考えないと、と反省しています。やっぱりどちらも大事な仕事だから、今はバランスよく両立できる道を模索しています」
服部真里子/はっとり まりこ
1987年、神奈川県生まれ。第1歌集『行け広野へと』(本阿弥書店)にて、第21回日本歌人クラブ新人賞、第59回現代歌人協会賞受賞。2作目に『遠くの敵や硝子を』(書肆侃侃房)がある。左の短歌2首は、会社員として働く自分を詠んだもの。