Mads Mikkelsen/マッツ・ミケルセン

Mads Mikkelsen/マッツ・ミケルセン

1965年デンマーク生まれ。31歳でニコラス・ウィディング・レフン監督の『プッシャー』(’96)でデビュー。スサンネ・ビア監督『しあわせな孤独』(’02)、トマス・ヴィンターベア監督の『偽りなき者』(’12)と、監督ともどもデンマーク映画界を牽引。『007 カジノ・ロワイヤル』(’06)や『ドクター・ストレンジ』(’16)などのハリウッド大作でも大活躍。

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『残された者ー北の極地ー』

男(マッツ・ミケルセン)の名前はオボァガード。氷と雪に覆われた極寒の地で、ただひとり規則正しく生を紡いでいる。どうやら小型機が不時着し、救援を待つには絶望している暇などないようだ。そんな彼が、やはり不時着して負傷した女性パイロットを助ける。ふたりは白熊の牙からも、氷点下の気温からも身を守らなければならないが、その運命は?

30 minutes with ♥ Mads Mikkelsen

お手本は、晩年のバスター・キートン!

年齢を重ねるというのは品格を持って成熟していくこと

 31歳という決して早くはない映画デビューからしばらくの間は、よほどの映画ファン以外には認知されていなかったマッツ・ミケルセン。が、53歳になった今は、故国デンマークのみならず、ハリウッド映画などでも大活躍で、まさに働き盛りと言えるだろう。

「若さを追い求めてしまうというのは何も日本だけに見られることではなく、世界的な現象だけど……大人なのに少女少年のように見られる格好を好んだり、と。日本は少しそれが過多なような気がするな。文化的な違いなのかもしれないけれども」

 マッツいわく「年齢を重ねるというのは、“品格を持って成熟していく”のが鍵だと思う」と。

「ひとつだけ間違いなく言えるのは、僕たちはこれから若くなることはないってこと。だから、加齢と闘うのではなく“それと共にある”という選択肢も考えて、自分の体に気をつける、健康でいるってことはできるわけだし。とにかく、若さを保とうと闘いすぎてしまうと、どうしても品格が失われると僕は思う。それに、映画というものは、さまざまな人の人生、そうした人生の多様なことについて描かれるわけだから、年齢に限らずいろんな人間のいろんな物語、共感できるストーリーがある。ま、確かに年かさの主人公の映画に若者たちが劇場に走って観に行くかはちょっとわからないけど、でも、僕の新作『残された者―北の極地―』のような、人間であるということはどういうことなのか!?といった非常に大きなテーマを持っている場合は、年齢なんて関係ないんじゃないかな」

 いやむしろ、マッツのような年代の人間が演じることで映画に興味が加わった。というのは、ほとんど全編をひとりで演じている本作。どうやら極寒の雪原に事故か何かでひとり取り残された男が、人間としての自分なりのルールを定めて生き延びようとしていること以外、余計な説明はいっさいないのだ。

「この手の映画の場合ありがちな、男の過去をフラッシュバックで描いたり、コペンハーゲンの自宅での家族との暮らしを描いてみたり。そういうのがまったくないからね(笑)」

 そのくせマッツの存在感からは、この男の半生を、映画を観ている私たちが勝手に想像していい自由がにじみ出ている。これこそ、人生経験が豊かなマッツならではの、重量級の演技だ。

「どうやったら豊かに年を重ねられるか、については残念ながら特にアドバイスはないよ(笑)。というのは、僕自身、若いときから自分より年上の、非常に聡明で、魅力的で、知的な人をたくさん見てきた。なので、年をとることは退化するのではなく、まるで自分を抱擁するかのように年齢と向かい合えばいいと感じたし。具体的に言えば僕の祖父なんかはまさにそうだったな。そして俳優としてのお手本は……ブルース・リーは早く亡くなってしまったからはずすとして……(無声映画時代の雄)バスター・キートン! 特に、一回引退して再び戻って来たときの在り方が魅力的だった」

ライバルはヒュー・ジャックマン!? でも、僕は歌えないからなあ

 マッツのプロフィールには、「俳優になる前はプロのダンサーとして活躍」とあって、なるほどあの美しい立ち姿はそのせいなのかと納得する。特にデンマークは、ブルノンヴィル・メソッドというバレエの形式で有名だし。

「もちろん日々のトレーニングにはバレエの基礎練習は欠かせなかったけど、僕がやっていたのは、(モダンダンスの祖)マーサ・グラハム的なコンテンポラリー・ダンスだった。そうそう、ミュージカルの舞台でも踊っていたよ。『ウエスト・サイド物語』や『ラ・カージュ・ホール』など。『ウエスト・サイド物語』は(プアホワイト系の不良グループ)ジェット団の一員で、本当にちっちゃな役だったけどね(笑)」

 なんと脚を大きく上げてカンカンを踊っている映像もあるという。「うわあ、さすがにもう脚は上がらないと思うよ(笑)」

 話を聞いているうちに、昨今ヒュー・ジャックマンの独壇場だったミュージカル映画にも!?と思えてきた。

「ヒューは歌えるけど、僕は歌えないからなあ」とマッツ。そこは練習して!と伝えると、「うん、プラクティスあるのみか(笑)」

 まんざら絵空事とも言えないのは、マッツの演じる役柄の広さからも窺い知れる。『007カジノ・ロワイヤル』(’06)の悪役もあれば、カンヌで男優賞に輝いた『偽りなき者』(’12)のように、小児性愛の疑いをかけられた幼稚園教師という設定もあったり。左頁のウィレム・デフォーの『永遠の門』でも、短い登場時間ながら作品のテーマに深く関わる役を好演しているのである。

 その『偽りなき者』のトマス・ヴィンターヴェア監督は、『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(’00)のラース・フォン・トリアー監督などと共に、 1995年に“ドグマ95”というムーブメントを提唱したことでも知られている。

「もちろん、僕が仕事をしたことがあるヴィンターヴェア、スサンネ・ビア、ニコラス・ウィンディング・レフンなど。みな各々に個性的な作風を持っているけど、日本映画にしても韓国映画にしても、同じ国の映画にはどこか通じるものがあるのと一緒で、デンマーク映画というくくりはできると思う。それに“ドグマ95”が注目を集めたことによって、映画的にも小国にすぎないデンマークという国にスポットライトが当たったのは幸運だった。つまり、そうした監督たちの映画を観た人々が、映画に出ていた僕たちデンマークの俳優にも興味を持ってくれて、それによって仕事の幅が広がっていったからね。そうでなくとも、同じ映画を観てきた人間とは共通認識がある。俳優だけでなくて、映画のさまざまな仕事の担い手とは。それもキャリアを重ねる上での喜びだよ」

 本物の白熊とは「さすがに共演しなくて済んだよ(笑)」という本作だが、極寒の中「一日16時間の撮影にも集中する。それが俳優の仕事なんだ」とキッパリ。8カ月の完全休養の後、次はどんな人生を見せてくれるのか!?

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