期待を胸に向かったパリ。待っていたのは厳しい現実だった

 それは、まさしく絶望の瞬間だった。パリコレでも屈指の注目度のハイブランド、そのショーのエクスクルーシブ(独占出演)候補に選ばれた新人モデルのハナカは、右も左もわからないまま初めてのパリへ飛んだ。モデル人生を懸けるくらいの意気込みで挑んだ現地キャスティングの結果は、まさかの不合格。このショーに出れば、売れっ子としてのスターダムは約束されたようなもの。その栄光への扉は、彼女の目の前で閉ざされてしまった。

 そのときのことを思い出すと、日本に帰ってきた今でもハナカは涙ぐんでしまう。ファッションウィーク直前のパリには、有名ブランドのエクスクルーシブの座を得ようと、世界中から彼女のような新人モデルがやってくる。そして選ばれるのは、たったの数人。そういう厳しい世界の真っただ中に、モデルになって間もない19歳のハナカはいきなり飛び込んだ。

 嫌な予感は確かにあった。生まれて初めてのキャスティングで、目の前にはずっと憧れていたカルト的人気を誇るクリエイティブ・ディレクターがいる。キャリアの長いモデルだって舞い上がってしまいそうな状況に、彼女はまったくの未経験で挑んだ。彼の前を一度歩き、着替えてみてと渡された衣装は、彼女の思う「そのブランドらしさ」とは対極的なデザインで、緊張に拍車をかけた。「この瞬間のためにすべてを懸けてきたのに、憧れの彼の前で少し戸惑ってしまったんです。不合格の知らせを聞いたときは、道ばたでワーッと思いきり泣きました」と涙ながらに語るハナカ。こうして、彼女の初めてのパリコレ挑戦は、どん底の状態から幕を開けた。

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1 2020年春夏パリのニナ リッチでランウェイデビューを飾ったハナカ。バックステージに貼ってあるボードに自分の写真を発見!
2 会場の入り口で記念に撮影を

 ハナカは新潟県出身。「田んぼの広がるのんびりとした場所で育った」という彼女がモデルの仕事を意識したのは、高校生のとき。友人が携帯の画面に設定していたモデルの萬波ユカの写真を見て、ひと目惚れした。憧れの気持ちが高じて、高校3年のときには彼女と同じ前髪を切り揃えたヘアスタイルで、彼女の所属するモデル事務所「ドンナ」の門を叩く。契約が決まって早々に、前述のハイブランドのキャスティング担当者が来日。気に入られたハナカは、見事エクスクルーシブの候補に選ばれる。そこからトレーニングやウォーキングレッスンの猛特訓を経て、期待に胸を膨らませてパリへ向かったハナカ。しかしそこで彼女を待っていたのは、落選という厳しい現実だった。「どん底まで沈んだけれど、ここで折れたらおしまいだと思って、自分を奮い立たせました」。幸い、直後にパリでの所属事務所が決まり、他のショーのキャスティングを受けに行く体制が整った。悔しさの中で、ハナカは必死に気持ちを切り替えた。

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“移動は基本的に徒歩かメトロ。毎日2万歩以上歩いていた”

3 自分の写真をファイルした「ブック」とハイヒール、充電器が必需品。ジャケットはジルサンダー、丸いポシェットはコーチ
4 パリのスタッフの自宅が、今回の宿に。飼い猫と遊んで癒やされる、つかの間の休憩時間

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5 メトロの駅で。「キャスティング回りを開始した最初の日、朝イチでいきなり乗る電車を間違え、反対方向に行ってしまったんです。すごく慌てました」
6 カフェでおいしいサラダに思わず笑顔 

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“初めてのパリの印象は、「絵になる街」。観光は全然できなかったけど!”

7 エッフェル塔を背景に。この日は自分を奮い立たせるため、大好きなエアロスミスのロックTシャツをレザージャケットの中に着ていた。パンツはベルシュカのもの