アーティストの「音時間」

意思表明を明確にしていきたい

DJ・ビートメイカー
Licaxxxさん

ファッションやカルチャーにも造詣が深いDJのLicaxxxさん。最近は「家でラジオ収録したりミックスを作って配信したり、あとは書き仕事やリモート取材が多いですね。読書もよくしてるし、凝ったお料理も作ってます」とのこと。この状況で、改めて気づいたことは「生活自体にそんなに変化はないんですけど、現場に行かないと生まれない会話やアイデアがあったなと思ってます」

#SaveOurSpaceの賛同人として、社会問題に向き合う発信もし始めた。「今まで社会問題に対しては、聴いてくださる方が『考える力』を養うために必要なことの発信にとどめていました。でも、自分自身のスタンスを明確にしていかないといけない時が来たな、と。そしてマネタイズの軸が音楽を売ることからライブなどの体験を売ることへ移行していましたが、今さらにその次のステージに来たな、とも思います。新しいマネタイズの仕方を生み出していかなければ」

2月に買ったばかりのミキサーとつながっているタイプのCDJ。重低音をきかせるミキサー、ターンテーブル、マイクと合わせて、配信環境もばっちり

「生活を切り出した」というプレイリストは、最近彼女が実際に家で聴いて気に入った曲をまとめたもの。ファンクからニューウェーブ、ニューエイジやアンビエントまでバランスよく。「5曲目は、パイプオルガンのドローン音楽です。心を落ち着かせたいときにおすすめ。8曲目は掃除と料理がはかどりそう。9曲目のヴォードゥー・ゲームは西アフリカ出身。楽しいファンクで、スピーカーで聴くといい感じです。ラストの曲はスペーシーで、お風呂に入るときに聴いたらいいかも。こうやってレコメンドを届けられることが私自身の心の励みになってます」

リカックス●東京を拠点に活動するDJ、ビートメイカー、編集者、ラジオパーソナリティ。ビデオストリームラジオ「Tokyo Community Radio」やウェブ「シグマファット」を主宰し、ファッションショーの音楽等も多数制作している。

エレクトロニックに乗せて、今の思いを届ける

アーティスト
メイリンさん

メイリンさんは、ライブができないこと以外、今までと変わらない生活だというが、ある気づきがあったという。
「無理に人と関わろうとしていたことがわかったんです。周りの方々にアドバイスをもらいにくい環境ではあるけれど、その分、自分の表現に素直でいられる気がしています」

なかなか自分から意見を言えないというメイリンさんは、音楽を通してメッセージを発信。「最近作った『PLEASE STAY HOME』という曲は、トイレットペーパーを買い占めに出かけて、かえって病気にならないでという気持ちを込めました。ツアーでVJをお願いする予定だったRyuichi OnoさんにMVを依頼して、たったの4日間で完成させました」

 作業スペースには機材がずらり。自作の防音パネルで音漏れを最小限にした空間
 ダンスをしたいときは棚上のSONOSのスピーカーをオン

4月末から5月にかけて行うはずだった海外ツアーも延期になり、現地の友達に会えないのはさみしいとつけ加えた。プレイリストでは、過去に訪れたフランスの地に思いを馳せる。「1曲目は同じフェスに出演したロメオ エルビス。コラボレーターのミスター オワゾも最高。3曲目のミュージック シエンとは一緒に曲をつくりました。夏前にはリリースできるといいな。あとは、リミックスされることで改めて好きになったイタリア人のマッシモ ペリーコロの7曲目もおすすめ」

メイリン●エレクトロ・ソロ・プロジェクト「ゾンビーチャング」のもと、作詞作曲、プロデュースまですべてをひとりで手がける。

“関係論”を、今後の世界を生きるヒントに

ミュージシャン
ハトリミホさん

エレクトロニックをベースに、実験的なアプローチで音楽を生み出すNY拠点のハトリミホさん。ミニマムなセットが整う自宅のオフィスルームでは、日常的に制作や新譜のチェックをしているというが、最近はライブ配信までも行う。

「今こそ音楽のパワーが必要。そこで、先日はこの部屋から動画配信プラットフォームのTwitchを使って、パフォーマンスに初挑戦しました。そのときは、思想家エドゥアール・グリッサンに影響を受けたプロジェクト、サロン モンディアリテの曲をプレイ。彼の著書『〈関係〉の詩学』は、今後の世界を生きるヒントになる気がするので、その言葉を届ける発信方法を探っているところです」

デスク前の壁に飾ったアートは、羽鳥さんいわく『〈関係〉の詩学』をイメージ化したような一枚だという

部屋づくりでも、尊敬するグリッサンの説く関係論に触発されているという。「リビングルームは、日々変化する植物や花を中心に“関係性”を考えました。するとシンプルな空間がしっくりきたんです。ホッとできる場所を目指しているけど、心地よすぎると怠けてしまうので(笑)。長時間座れないクリアの椅子とか、自分をほどよく律する家具選びのバランスも意識しますね」

「人の手でコントロールできないものに惹かれるんです」。写真に写る植物のみならず、ペットのカワハゼもこの部屋の仲間。毎日、生き物との関係性を考えて日常生活を送っているのだそう

ここでは、ミュージシャンならではの音楽と向き合うための見えない仕掛けも。 「ターンテーブルを挟んだ通常のスピーカーに加え、隠れたところに超低音域のみを再生するサブウーファーを追加で設置しているんです。レコードをじっくり聴くのはもちろん、作品のミックス作業が終わったら、iPadをスピーカーにつなぎ、より明確に音の構造を確認できるように工夫しています」

「自分らしくいられる」というこのスペースで、ハトリさんは、どんな音楽を聴いているのだろうか? プレイリストから特におすすめしたいものをピックアップ。「3曲目のオーガスタス・パブロは、ダブの大御所。私がまだ日本に住んでいたときにライブを見て、ものすごく感動した思い出のナンバーなんです。6曲目はスティーブン・ソダーバーグ監督の映画『コンテイジョン』のサウンドトラックから。最後は、スティーヴ・ライヒの一曲を。アメリカのロマンやノスタルジーを感じさせるサウンドに乗せた、詩も素晴らしい」

ハトリ ミホ●チボ・マットを中心とした数々のプロジェクトに参加。現在はソロで「サロン モンディアリテ」「ニューオプティミズム」「ミス インフォメーション」と名付けた3つの異なるコンセプトのもと作品を発表。


interview & text: Annie Fuku (Licaxxx), Ayana Takeuchi (Meirin, Miho Hatori)

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