2020.07.10

Kabi(カビ)/ 今までのスタイルを貫き、精度を上げて展開したい

PROFILE

江本 賢太郎さん(右)
安田 翔平さん(左)
メルボルンでソムリエとしてトップレストランで研鑽を積んだ江本さん。世界中から熱視線を浴びるコペンハーゲンでシェフを経験した安田さんと共同経営。日本橋兜町に「caveman」をオープン。

 フレンチのニューノルディックキュイジーヌのテクニックと、日本の食材や発酵技術を融合させる「Kabi」。

「3月は満席の状態でしたが、時勢を鑑みて月末にはテイクアウトも並行し、パスタソースやカレーを販売しました。珍しさもあってか、それを求めて長い行列ができるように……。僕らは明るい話題を提供したかったのですが、同時にお客さまや近隣の方を危険にさらす心配も生まれてしまい、いったんは中止しました」(安田さん)

 レストランは4月からクローズ。要望にこたえ、一日20食限定の制限を設けて、テイクアウトを復活させた。

「前々からテイクアウトのリクエストがあった発酵味噌入りの『Kabi 鯖棒寿司』は、このタイミングで商品化。『Kabi ちらし寿司』は、つき合いのある唐津や北海道の鮮魚店を助けたかったのと、自分たちで収穫した山菜のコースを出したかった思いをちらし寿司に盛り込みました」(安田さん)

「テイクアウトの重要性を確信し、対応するためのノウハウを学べました。が、いつまでやるのか、本来の表現方法とのギャップが生まれるのではないかと、葛藤もありました」(江本さん)

魚介に加え、花山椒のピクルスや数種の山菜をのせた「Kabi ちらし寿司」。

「Kabi 鯖棒寿司」にはマンステールチーズや自家製味噌を加えて。今後はスポット的に販売していく予定だ。

 「Kabi」に加え、オープンしたての「caveman」も運営するふたりの姿を見て、仲間らがドネーションプロジェクト「Heal the Food Industry」を立ち上げた。

「空間やユニフォームのデザイン、PRやディレクションなどオープン時から支えてくれる友人らがWEBサイトを立ち上げ、受注販売用Tシャツのデザインをしてくれました。資金面はもちろん、仲間、購入してくれたお客さまによって勇気づけられました」(江本さん)

 辛酸を味わったが「2カ月近く営業を休んだこの期間は、自分たちを見つめ直すいい時間でした」と江本さん。

「『Kabi』は、料理もワインも空間もユニフォームもお皿も、すべてにこだわり、約2年半前にオープンしました。自分たちの理想の具現化がこの場所。業績不振が続き、仮に提供の仕方や業態を変えたとして、今以上に本気で向き合えるかを問うたとき、それは無理だと。目の前で作った瞬間に味わってもらい、ワインとのペアリングや会話を楽しむことは決して省けない。お客さまにご理解をいただきながら、これまでのスタイルを貫いていこうと決めました」

 若きふたりは今後のレストラン業界の未来をどうとらえているのだろう。

「特に高級といわれる業態は、以前のような盛り上がりには戻れないと思います。過去と同じことをしていたらお客さまは離れていく。全面的に精度を上げていかないと」(安田さん)

「真髄を突き詰めているか? その感覚が鈍り、舵取りを間違えると、いいお店でも閉店に追い込まれる時代。夏は開放的になるし、外食を欲していた方が足を運んでくれるかもしれませんが、問題は9月以降かと。生き残るために、僕らももっと強いレストランを作っていきたいと思います」(江本さん) 

真家、グラフィックアーティストなど、「Kabi」と関わりの深いメンバーが有志で立ち上げたドネーションプロジェクト「Heal the Food Industry」。受注販売によって得られた収益はレストランの運営費に充てられた。

 

SHOP DATA

東京都目黒区目黒4の10の8
03-6451-2413

 

FEATURE