高根枝里さん / アートマネジメント、キュレーター

©Misa Nakagaki

PROFILE
たかね えり●ハンター大学心理学学科とニューヨーク大学大学院アートマネジメント学科を卒業後、日米間でのキュレーター交流に携わる。現在は、アートマネジメント/キュレーション業、 アートコンサルティングを全世界で行う。

自分が好きになった作品を
嘘なく届けたい

NYでアートビジネスと出合い、日米のブリッジ役に

 外出自粛を受けて、さまざまな展覧会が開催延期を余儀なくされた。自宅で過ごす日々で、部屋に飾った絵や絵画集、写真集などを眺めてアートの力を感じた人もいるだろう。高根枝里さんは作家とコレクターや美術館をつなげ、時にデジタル上で作品と鑑賞者を橋渡しする仲介役だ。
「とあるIT企業でアートのプロジェクトを担当しながら、個人でアーティストのマネジメントやコンサルティングを行なっています。マネジメントしているアーティストは海外の作家が多く、アジア圏の美術館やギャラリー、イベントスペースに案内して、展覧会をキュレーションしたり作品を販売しています。あとは、個人と企業に向けたコンサルティング。購入希望者に作品のリストをご提案したり、アートフェアでご案内することもあります。NYに15年近く住んでいた語学力とコネクションがあるから、ブリッジになれているんですよね」
 18歳のときに「何もわからないまま」NYに飛び立ち、アートの世界と出合った。
「『Deitch Projects』というギャラリーで行われていたバリー・マッギーのインスタレーションを見て衝撃を受けました。当時は私自身も作品を作っていたのですが、作家として表現しなくても、ギャラリストとしての表現の道があるんだなということを知ったんですね。NYはとにかくギャラリーもアーティストも多くてそこから抜きん出るのもハードルが高く、自分は作家活動よりも、間に入るほうが得意なんじゃないかと思うようになりました」
 そうしてNY大学の大学院でファインアートに関するビジネスを学び、卒業すると国際交流基金ニューヨーク日本文化センターに勤務。非営利団体への助成制度や、日米間でのキュレーター交流に携わる。帰国後は、セゾンアートギャラリー(セゾン現代美術館運営)でディレクターを務め、当時から個人的にマネジメント業とコンサルティングを進めていた。
「ひとつのことに執着するとうまくいかなくなってしまうと思うので、個人の活動は並行してずっと続けています。いずれ作品を見せる場所を持つという選択肢もありますが、作品に力があれば場所がなくても然るべき人に届けられる。嘘がつけない性格なので、自分が本当にいいなと思った作品しか扱えないですし、コミッションも開示します。そのほうが信頼関係が築けますしね。自分で気に入った作品は自分で購入してしまうことも。また、プライベートを大切にするのも、健やかに続けられている秘訣でしょうか。自分ができることとできないことを、きちんと線引きするように意識しています」

(上)自宅の一角を、ギャラリースペースに。作品は、右から時計回りにMeguru Yamaguchi、Shohei Takasaki、snipe1。
(下)高根さんがマネジメントを行うアーティストのひとり、ドイツの作家Christian Aweがポルシェセンター(ハンブルク)で展示した際の様子。©Bernd Borchardt

 

困難なことがあったときに、発揮されるアートの力

 今回の世界的な混乱を経て、アーティストの力強さを感じたという高根さん。
「『時間があるから何か面白いことがしたい』と立ち上がるアーティストが多かったですね。また、デジタルで展開しているプロジェクトのほうが忙しくなりアートの需要を感じました。デジタルで情報をキャッチしたら、作品自体はぜひ実際に生で見てほしい。私もこの状況下でどんな展示ができるか、考えています」
 初めは、アーティストをサポートするプロジェクトを立ち上げようと試みていたが、「その方向で考えるとどうしてもネガティブな面に目が行ってしまうことに気がついたんです」と、方向転換。現在は、屋外で楽しめる展示やインスタレーションを計画している。

7月31日から8月18日まで高根さんがキュレーションする展覧会「sun, snake, nipples Artist Shohei Takasaki Curated by Eri Takane」を渋谷パルコ内にあるOIL by 美術手帖で開催予定。

ニュータイプな生き方の3カ条

 自分が得意とするもの、役立てることを見極める
 人にも自分にも嘘をつかずに正直につき合う
 できることとできないことをきちんと線引きする

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