中村秀一さん / 「SNOW SHOVELING」店主

©きくちよしみ

PROFILE
なかむら しゅういち●1976年生まれ、鹿児島県育ち。フリーランスのグラフィックデザイナーとして活動したのち、2012年に「SNOW SHOVELING」(東京都世田谷区深沢4の35の7 2F-C)をオープンさせる。http://snow-shoveling.jp/

あまのじゃくだからこそ、
本屋をやろうと思った

自分がやりたいことを貫けば、勝手にその店らしさができていく

 「SNOW SHOVELING」はなんとも辺境な場所にある。駒沢通りの深沢不動交差点の近く、見過ごしてしまいそうなビルの2階だ。
「店を開けたのは2012年。不動産屋にも『今から本屋?』って半分相手にしてもらえなかった。でも僕はあまのじゃくだから、逆に『やってやろう』と燃えたんですよね。でもこんな場所で、友人にも『誰か来るの?』と心配されました」
 それでも、「駅から遠いラーメン屋だっておいしければ人は並ぶでしょ。こちらからちゃんと発信すれば、お客さんは来てくれると信じてました」と、不安はなかったという中村さん。それまでフリーランスで仕事をしていたため、作業場を兼ねるような気持ちで始めた。
「本屋をやろうと決めてから5年間くらいは、なんとなく物件を探しながら仕事を続けていました。デザイナーの仕事はどうしてもクライアントがいるから、自分に嘘をつかないといけないときもある。そのことに痺れを切らしたのと、そもそも昔から心のどこかで何か表現したい欲求がくすぶっていたのかもしれません。
 自分が店主の“中村屋”をやろうと発起して、何屋をやるか選択肢を比べてみました。一番イメージしやすかったのが本屋だった。当時すでに斜陽産業と言われていたけれど、海外にまだ日本では見ないような面白い店がたくさんあるのも知っていたので、それらのいいところを取り入れてインディペンデントブックストアをやったら喜んでもらえる自信があったんです」
 そうして開けた店には常連がつき、遠方から訪れる人も少なくない。わざわざ人が足を運ぶSNOW SHOVELINGらしさは何なのか。
「僕ひとりでやってますし、あんまりモットーみたいなものに縛られたくないんですよね。集団意識が好きじゃないから、自分の足を動かして自分の頭で考えることは大切にしています。その時々の社会の流れに敏感でいて、出した答えが、自然と『SNOW SHOVELINGらしい』と言われる何かを築いているのだと思います」

(上)「レコメン堂」で届けられる本のイメージ。約10分のカウンセリングと書籍で、送料込み1,900円。
(下)通常営業時は、ソファでコーヒーを飲みながら、ゆったりと寛げる店内。「自称“出会い系本屋”です(笑)」と中村さん。

 

アポイント制の営業の中でやるべきことに気がついた

 今回の緊急事態宣言を受けて、中村さんの導き出した答えはふたつ。本を自宅まで配達する「Umber Read」と、個人にヒアリングを行なって選書した本を郵送で届ける「レコメン堂」だ。
「Umber Readはダジャレです(笑)。僕は、マーケティングして何かをやろうとは思わないけれど、他業種のいいところを『本屋でやったらどうなるか』と考えてトランスフォームするのが好き。業種を変えたら、新しいオリジナルが生まれることがあると思うんです。レコメン堂は、もともとポップアップとしてイベントで行なっていた企画をリモートで始めました。新型コロナウイルスが流行してからしばらくはアポイント制で営業していたのですが、そのときに世間話の需要を感じたんですよね。僕としては、レコメン堂は本を売っているというより、時間を売っている感覚。もちろん、本も真剣に選びますよ。あえてその人が自分では選ばなさそうな本を選ぶんです」
 外出自粛を体験してネット通販のありがたみを感じると同時に、実店舗での買い物の快感を改めて思い返した人も少なくないはず。実店舗を持つ本屋として、何を感じているのだろう。
「うちのような店は、通販でAmazonに対抗しても意味がない。自分の志を貫き、時にはお客さんも選ぶこと。そうすることでおのずと、ほかとはかぶらない店になっていくと思うんです」

(上)「Umber Read」の配達範囲は世田谷・目黒区限定。中村さんかスタッフが自転車でお届け。
(下)弦巻の人気カレー店「Indian canteen AMI」の店主・エミさんの元へ。

ニュータイプな生き方の3カ条

 自分にもお客さんにも嘘はつかない
 多数派の意見を鵜呑みにせず、自分の頭で考える
 マーケティングに頼らずに、他業種から学ぶ

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