2020.11.21

THE SOCIETYのエージェントに聞く、これからのモデル像と社会的責任

自らの意見を拡散して世界を変えようとする動きは、モデル業界にも浸透。今後重要になってくる、彼らの心得とはどんなものだろう?

DIRECTOR OF SOCIAL RESPONSIBILITY & STRATEGY

Vicky Yang「意見を堂々と発することはモデルのアイデンティティそのもの」

profile
ヴィッキー・ヤン●ブッカーとしてケンダル・ジェンナーやアドリアナ・リマなど、数多くのトップモデルを育成後、SNSマーケティングのディレクターを経て、2019年より現職。

ファッションと同様に社会貢献に関心を持つ

 5月末、ミネソタ州で黒人男性が白人警察官に首を押さえつけられて死亡した事件に端を発したBLM(ブラック・ライブズ・マター)に代表される人種差別抗議運動。大坂なおみが全米オープンで犠牲者の名前を書いたマスクを着用していたことは記憶に新しい。ファッション界でも、デザイナーやモデルたちがSNSなどを通して反人種差別運動の支持を表明している。カーラ・デルヴィーニュやカイア・ガーバーらはその抗議集会にも出席。政治的・社会的問題に対して、積極的に意見し、行動することは、今や当たり前のことになってきている。

 実は、モデルが自ら率先して慈善団体を支援したり、人種や環境問題に声を上げたりすることは、今に始まったことではない。母親たちの健康を守るチャリティ団体を立ち上げ、映画までも製作したスーパーモデルのクリスティー・ターリントン、エボラ出血熱撲滅のTシャツを着てファッションショーのランウェイに登場したジョーダン・ダン、そして、モデルの地位向上のための活動グループ「モデル・アライアンス」を立ち上げたサラ・ジフ……etc。頼もしいパイオニアたちがいる。

 モデル業界の意識改革を最も感じるのは、彼女らを擁するエージェンシー側の変化だ。ケンダル・ジェンナーを擁するNYのトップエージェンシーのひとつ、ザ・ソサエティ・マネージメントは、近年の潮流をいち早く察知し、モデルたちが日頃感じている社会的責任への“率直な声”をサポートするシステムを立ち上げた。

「社会的責任と戦略(Social responsibility and Strategy)」と名づけられた新部署のディレクターを務めるヴィッキー・ヤンに、設立理由を尋ねた。

「これまでも、ファッションの側面だけでなく、キャリアを終えたあとも個人として社会に貢献できるように、360度の視野を持って彼女たちの成長をサポートすることに徹してきました。やはり、SNSの影響力が大きくなったことがきっかけですね。モデルたちからインスタグラムやツイッターを使って、意見を発信したいという声が聞こえてくるようになったのです。そうした要望に対応できる部署として、昨年立ち上げました」

 ヤンの仕事はモデルひとりひとりと話し合い、それぞれが関心を持つトピック(環境問題、社会正義、人種や性差別、動物愛護、国際関係など)を決め、SNSなどでの発信と活動のアドバイスを行う。さらに、慈善団体との共同プロジェクトなども考える。

「今のモデルたちの意識は10年前と変わってきています。 彼女たちにとってファッションやビューティに興味を持つことと、社会貢献や未来の社会のあり方に関心を持つことは同次元なのです。現代は若い世代が自分のアイデンティティや属したいコミュニティを見つけようとするとき、社会的責任を考えることが重要なポイントです」

 社会問題への知識も深まり、さまざまな意見や出来事への共感の度合いも高くなっているモデルたちに対して、エージェントとして大切にしていることはなんだろう?

「この業界の外で今、何が起きているのかを常に把握していることです。ファッションやビューティへの造詣を深めてあげることも大切ですが、モデルたちの内面を育てることにも責任がある。とりわけ新人モデルには、ファッション以外のことで疑問に感じることを聞くようにしています。そうすることで、新しい可能性も見えてくるのではと考えています。そのため、問題意識を持っているモデルにはSNSでも何でも、自分の声を発信しなさい、と背中を押します。その後の世間での反応に対してはしっかりとサポートします。そして彼女たちと社会問題の専門家や慈善団体などを結びつけ、活動の幅が広がるようにしたい。同時に、私たち企業側がファッション業界以外の人々と連携するノウハウも身につくと思います」

 今年はコロナ禍でファッションショーのほか、雑誌や広告の撮影も相次いで中止に。さらにBLM運動の連鎖でファッション業界にはびこる白人至上主義が露呈し、よりいっそうのダイバーシティ、インクルーシブが求められるようになった。ヤンは企業側としてこの状況をポジティブに受け止めている。

「この部署の役割を見直すことができました。寄付活動の重要性、専門家との連携、有色人種のモデルたちへのサポートシステムの充実など、SNSで発信するだけでなく、実際に行動に移すことが必要なのだと痛感しました」

 モデルたちが声を上げる機運は高まっている。とはいえ、“モデルのクセに”と、積極的な意見を持つことを嫌がるクライアントもいるのでは?と聞くと、「確かに、過去には特定のブランドと意見が対立して仕事がキャンセルになった例がある」と言う。

「しかし、今日ではクライアントも社会における自分たちの責任、立ち位置を十分に認識しているので、深刻な問題が起きることはありません。意見を堂々と発することは彼女たちのアイデンティティです。それで仕事がダメになっても、彼女たちにはより多くの見返りがあると信じています」

2018年12月号より。先駆者のサラ・ジフは「ただ美しい姿でブランドによいイメージを与えるだけの存在では意味がない。仕事を通していかに社会に貢献できるかだ」と語る。

 

 

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