私の人生は舞台から始まり今も舞台に恋い焦がれている

オールブラックのマキシドレスを凛々しいムードで着こなして。メッシュ加工のロングブーツは、実は明日海さんがプライベートで購入を検討しているものだとか。

マキシドレス¥1,800,000、メッシュブーツ¥238,000、ブレスレット¥63,000/クリスチャン ディオール(ディオール)

「宝塚歌劇団に入団してからの約17年間、すべてを舞台に注ぎ、生きてきました。退団後、舞台から離れていた約1年、それは私にとって今までにない時間で……。心の中でずっと思っていました、早く舞台に立ちたいなって」

花組トップスターとして絶大な人気を誇り、2019年11月に宝塚歌劇団を退団。あれから約1年、明日海りおがまた舞台に戻ってくる。その記念すべき作品が『ポーの一族』だ。’18 年、萩尾望都の大人気漫画を宝塚歌劇団が初めて舞台化し、大きな話題を呼んだ作品。そこで務めた主役のエドガーを明日海さんが再び演じる。

「再演が決まったときはとてもうれしかったです。『ポーの一族』は皆さんからの反響がとても大きかった作品であり、演じたわれわれからしても“あの公演は特別だったよね”と今でも語り合うほど思い入れの強い作品だったので」

ビジュアル撮影前日には、エドガーを思い出すために劇中のナンバーを歌ったそうだ。 「すると、いろんな思いが湧き上がってきて。ミュージカルの舞台に立つときは歌はもちろんBGMにも心を動かされながら芝居をしています。だからこそ、メロディがフワリと流れてきただけで、そのときの感情がウワッとこみ上げてくる。エドガーがまた私の中に戻ってきました」

歌うときも、演じるときも、踊るときも、明日海さんがずっと大切にしてきたのが“心”だ。

「入団したばかりの頃はなかなか声も出なくて。へただからこそ、せめて“誰よりも心を込めて歌おう”という気持ちが強かった。でも、自分の中に湧き上がる感情を表現するためには技術も必要。それが技術を磨く努力へとつながっていくのですが、うまさを追求したからといって心に響く歌が歌えるとは限らないんですよね。どんなにうまくてもやはりそこに“心”がないと」

心が大事なのは演技もまた同じ。宝塚時代は中性的なビジュアルゆえに「男役として必要とされていないんじゃないか」と不安になった時期も。そんな明日海さんに自信を届けてくれたのが「心の内側から作り上げる芝居」だった。

「男らしさは内側からにじみ出るし醸し出せる。丁寧に一生懸命に向き合えば観る人に伝わる」

壁にぶつかり迷い悩むたび、最後にたどり着く答えはいつも“心”だった――。

「心を大切に歌い、演じる」それは立つ場所が変わっても同じ。

11月、2021年の1月からは連続テレビ小説「おちょやん」とドラマ「青のSP―学校内警察・嶋田隆平―」がそれぞれスタート。舞台だけでなく映像の世界でも活動をスタートさせた明日海さん。そこでも心を大切に演じる姿勢は変わらず、「今まで狭い角度だったものが全開になっただけ、そんな感じなんです」とほほえむ。

「新しい世界に飛び込む前は、もっと違うものなのかなと想像していたのですが。映像にしろ、舞台にしろ、そこにいるのはお芝居や表現することを心から愛している人たち。男性であろうと女性であろうとそれは変わらず、そこにかける思いも目指す場所も同じなんですよね。また、共演者と時間を積み重ねていくとだんだんと劇団のようになってくるというか。家族のようなチームワークが生まれてくる。宝塚以外にもそんな場所がたくさんあることを知った、それはうれしい気づきでもありました」

新しいことに戸惑いながらも、再び演じる楽しさを心から感じている。

「私は役柄やお芝居に入り込んでしまうので、心の消費がとても激しいのですが、それが今はうれしくもあるんです。舞台を終えるたび“もう何も残ってない!”と抜け殻になるような、魂をスコップでガリガリと削り取られるような、あの感覚をまた味わうことができて」

そして「ほかに興味があることと言ったら食べることくらい。お芝居や舞台に出合っていなかったらフードファイターになっていたんじゃないかな」と笑う。今も昔もずっと明日海さんの心の照準はお芝居に定まったまま。ストイックに役を掘り下げ、練習を重ね、演技を探究し続ける姿勢もずっと変わらない。最後に、ステージの魅力を尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「人間の心、でしょうか。舞台上では最愛の人を亡くすこともあれば自分が死ぬこともあります。大きな悲しみに襲われることもあれば、誰かを愛する喜びの中でふとした旋律に心が躍ることだってある。音楽や役の感情に魂が揺さぶられる。人間の心が……通常の位置ではないところにあるときの、独特なあの感じ。それは普通に生きていたらなかなか経験できるものではないと思うのですが、お芝居を通してなら何度も経験することができる。また、それを受け取り共有してくれる人がいるというのもお芝居の素晴らしいところ。特に舞台はお客さまと一緒に作り上げるものなので。張り詰めた空気、あったかい拍手、歌声ひとつでガラッと変わる劇場の空気……その日、その瞬間にしか生まれないものを感じるたびに心が震える。そして、思うんです。ああ、私はお芝居に、歌に、舞台に、出合えて本当によかったなって」

Rio Asumi

1985年生まれ。2003年、宝塚歌劇団に入団。’14年花組トップスターに就任。どんな役柄も演じきる実力と圧倒的な存在感で絶大な人気を誇り、約5年半もの長期間トップを務め、’19年11月に退団。’21年1月からは舞台『ポーの一族』に主演。NHK連続テレビ小説「おちょやん」、「青のSP―学校内警察・嶋田隆平―」に出演するなど、活躍の場を広げている。

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