2021.09.24

過去に放たれた毒に苦しんでいる人へ。あなたを抱きしめるやさしい言葉

自分の姿にリラックスして過ごす時間を増やそう ー長田杏奈さん

他者から言われた「デブ」や「ブス」を引きずり、何十年も心の傷やザラつきを抱えながら生きてきた人にたくさん会ってきた。人間は、五感のうちでも視覚に頼る割合が高い生き物だ。そういう偏りの中で、自らの顔、体、肌を後ろめたく感じながら外界と接するのは、その人が毎日をのびのびと過ごす妨げやストレスになる。

アンケートで「容姿について人に言われて傷ついた言葉」を募ったところ、いつにも増して回答が集まり、多くの人にとって身に覚えのある、重要な問題だと浮き彫りになった。言ったほうはさして悪気はなく、とっくに忘れているかもしれないが、言われたほうはずっと覚えていて今なお屈託を抱えている。

世界には、容姿をいじったり貶めたりすることが当たり前ではない場所がすでにある。画一的な美から拡張しようというムーブメントは、足もとにもじわじわと広がっている。社会はすぐには変わらないが、行きつ戻りつ試行錯誤を重ねながら確実に変化している。その変わり目に立ち合う一人ひとりが、無闇に容姿に言及しないデリカシーを持ち、いろいろな美しさを感じる小さな努力を重ねることは決して無駄にはならないはず。無理に自信を持たなくてもいいし、傷と共存したままでもいい。自分の姿にリラックスして過ごせる人が少しでも増えるよう願う。

PROFILE
ライター。雑誌やウェブで美容記事やインタビューを執筆。著書に『美容は自尊心の筋トレ』(Pヴァイン)。本企画の取材を担当。

 

悪いのはあなたじゃない! 容姿についてかけられた心無い言葉のトゲを抜き、自信を取り戻すために。見えない古傷が疼く人に送る、「見た目の話と向き合ってきた」4者4様のメッセージを紹介

 

ブスという概念は、その言葉を発した人の精神性を映しているだけなんです ー橋本 愛さん

「"バカって言う人がバカなんだ"と同じように、私の中では"ブスって言った人がブス"という理論。百歩譲って思うだけならまだ許される範疇かもしれないけど、口にした時点で人間性の問題。つまり、ブスって言う人の精神性がブスということになる。言われた側がブスだと価値づけられるのではなく、発した側の魂が未熟であり、心の醜さに無自覚で生きていることが浮き彫りになるだけ」と、断言する橋本さん。バッサリ断ち切れない親しい人から向けられる言葉はどう受け止める?

「その人の劣等感に、干渉したいと思えるかによりますね。他人のことを貶す人は、自分に自信がなかったりコンプレックスがある人だから。たとえば言ってくる相手が親の場合。子どもにとって、親の精神の未熟さに気づくのは残酷なこと。それでも何がいけなくてなぜ変えなければならないのかをちゃんと話し合って改革していけるといいですよね。親の痛みも取ってあげるつもりで。相手がパートナーの場合、傷ついたことを正直に伝えて、理解して謝れる人なら、頑張って前向きな話し合いを。ただ、"オスがメスの品定めしている"的な、自分の地位を確認して下に見るのが気持ちよくなるタイプの相手なら、逃げるという選択肢もあると思います」

PROFILE
俳優・モデル。映画やドラマに数多く出演。筋の通った言葉や透明感のある歌声、ファッション通ぶりでも注目を集める。NHK大河ドラマ「青天を衝け」に出演中。Instagram: @ai__hashimoto

 

肉体の傷に比べて、心の傷はわかりにくい。でも切りつけたほうが悪くて、手当てが必要なのは同じ ー吉野なおさん

「たとえば、教室でカッターで切りつけてくる人がいたら周りは止めるし、ケガをした人がいたら保健室に連れて行きますよね。でも、心の傷は他人から見えづらくケアもしづらい上に、我慢するほど周りには気づかれない。結果的に傷ついたまま何十年も引きずっている人が多いんです」

摂食障害に悩んだ過去を持ち、プラスサイズモデルとして活躍する吉野さんのもとには、心無い言葉に傷ついた人から相談が寄せられる。「まずは、自分ではなく、相手の言っていることに問題があるんだと認識してほしいですね。たとえば、デブって言われたときに必要なのは、今の自分を否定してダイエットに走ることではなく、"この人の価値観なんだな"と一線を引くこと。たった一人の悪意ある言葉は、真実でもみんなの総意でもない。他人の言葉や価値観に、大切な人生をジャックされるのはもったいない」。過去の傷と向き合うには、本当は自分はどうされたかったのかを想像し、セルフハグワードを探すのが有効。「人によって違うと思いますが、私の場合は可愛いとかきれいなどの装飾言葉では安心できないかな。たった一言、自分に"あなたは存在していて大丈夫"って言ってあげたいし、過去の自分はそう声をかけてほしかったです」

PROFILE
ファッション誌『ラ・ファーファ』専属モデル。摂食障害の経験を活かし、講演やコラム執筆などを通じて、幅広くボディポジティブの概念を発信。Twitter:@cheese_in_Nao Instagram: @naopappa

 

自分の価値は自分が決める。自分を抱きしめてやさしい言葉をかける毎日のメンテナンスを ーKanさん

「自分を好きになるって、揺るぎない境地にたどり着くというよりは、日々のメンテナンスの積み重ねで健康的な状態をキープすることなんじゃないかな」。Netflixの人気番組「クィア・アイ in Japan!」に出演し、自分を褒める言葉を書き出すワークを通して、自らを思いやるやさしい言葉をかける大切さに目覚めたというKanさん。
「日本では他人にはやさしくても、自分に対して厳しい言葉をかける人が多い。人と比べたり自己否定するクセを、意識して手放してほしいですね。たとえば、傷つくことを言われたら"悲しかったね"とつらかった事実を受け入れる時間をつくる。僕自身は"Kanはやさしいから大丈夫だよ。可愛いよ"って、声をかけてフォローするのが習慣になっています。心の中で言うだけでもいいし、鏡の前で声に出すのもおすすめです」

かつては他人の言葉や、画一的な美の表現、「こうあるべき」とされる像に自分が当てはまらなくて傷ついてきた。「環境に身を任せてなるようにしかならないと諦めていた時期もあったけど、今は自身の価値を決められるのは僕だけだと心から信じられる。やさしい言葉をかけるワンクッションを挟むことは、自分の価値のコントロール権を、他人や社会に渡さないトレーニングになります」

PROFILE
Netflixの番組「クィア・アイ in Japan!」に出演。セクシュアルマイノリティ当事者として、自分らしさやセクシュアリティをテーマにSNSでの発信や講演を行う。Instagram: @kanyoncephotography: Aleksandar Dragicevic

 

「私、なんかいいよね」のかけらを集めて築いた「らしさ」は、流行にも他人の評価にも揺らがない ー椎名直子さん

「モードを知ってから楽になりました。一般的な"可愛い"でないものも、"自分が納得していれば見る人も納得する"と体感できたから。この色似合うな、前髪がいい感じだなという、ちっちゃな自信のかけらをためるうちに、スタイルが確立される。身につけていて楽しい、気持ちいいと感じられるものに囲まれると強くなれる気がするし、他人のジャッジにも揺らぎにくくなります」

椎名さんのスタイリングは、着る人の自信を後押しすることに定評がある。「どんな体型でもきれいに見える服はあり、どんな人にもみんな可愛い部分がある。似合う服で出かけた日、"今日の私イケてる!"と実感できたら、その瞬間から人はキラキラするもの。あとは、チャームポイントを誇張してみたり、自信のあるところは隠さず自慢しちゃう(笑)。納得がいくまで何度も試着して、よく見ること。ちょっとしたスカート丈や襟ぐりの広さで全然違って見えるし、必ず似合う服が見つかります。私の仕事は、服を通して"そのままのあなたでいいじゃん!"と伝えること。ただおしゃれな服を着てもらうのではなく、何に興味があってどんなライフスタイルを送っているのかまで、じっくり話を聞きます。自分の魅力が理解されるという安心感の中で、ようやくその人らしさが出てくるものだから」

PROFILE
モード誌をはじめ、広告や俳優などのスタイリングを幅広く手がける。着る人の魅力を引き出すセンスと分析力、親しみやすくハートフルな人柄にファンが多い。アシスタント募集中。応募はインスタグラムDMへ。Instagram: @natadecoco

 

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