母を知らない娘の心情を描く、『めぐりあう日』



ウニー・ルコント監督のデビュー作『冬の小鳥』(10)はとても痛切で、心に残る映画でした。9歳で養子として韓国からフランスにもらわれていった監督自身の体験をもとにした、孤児院で頑なに父親を待ちつづける少女の物語。そんな彼女がどうしようもなく絶望したときに思い出す、人生で一番あたたかで幸せだった瞬間の悲しさ、美しさをはっきり覚えています(なぜか私の中では、『ブロークバック・マウンテン』(05)の同様な場面と対になっていたりもします)。

そして6年後。ルコント監督が撮った第二作『めぐりあう日』もやはり養子として育った女性、エリザが主人公ですが、話はもう少し複雑。というのも今回パリに住むエリザが港町ダンケルクで探すのは父親ではなく、生みの母親なのです。育ての親に愛され、結婚して息子がいても、そのすべてを壊しかけるほどエリザの気持ちは追い詰められている。娘として母親と対決し、心のどこかで決別することではじめて自立と解放を得る――というのは誰もが体験することだと思いますが、その相手の母を知らないとここまで不確かさに苦しむのか、と思いました。

やがてエリザは母を見つけるというより「感じとって」いくのですが、その過程が言葉ではなく、肌の触れ合いや直感として描かれるのにも監督の野心がある。個人的な体験から映画的な体験を見つけ、広げていくウニー・ルコント。とても女性的でパーソナルな話でありながら、「自分のアイデンティティを見つける」というのは世界が移民や人種問題で揺れるいま、重要なテーマにも重なります。でも私としては何より、この監督の映画にあるぴんと張り詰めたような美しさ、孤独や悲しみから静かに立ち上がる姿勢に惹かれるのです。次作もまた楽しみになりました。



『めぐりあう日』
監督/ウニー・ルコント
出演/セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ
7月30日、岩波ホール他にて全国順次ロードショー
© 2015 – GLORIA FILMS – PICTANOVO
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映画ライター 萩原麻理

本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。