公開はまだちょっと先ですが、私は一足先にすっかり夏フェス気分です。しかも、ものすごいものを見た、という気持ち。というのも映画『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』を観たから。そこに映しだされるのは1969年、NYに30万人が集まった〈ハーレム・カルチュラル・フェスティバル〉。ブラックのウッドストックと呼ばれながら、50年も埋もれていた記録映像をヒップホップのアーティスト、クエストラブが初監督作としてまとめたドキュメンタリーです。
いま思うと、同年に同じニューヨーク州で開かれたウッドストックや、1970年イギリスのワイト島フェスティバルが伝説になったのは、その記録映像が残されていたから。いちばんパワフルだった時期のジミ・ヘンドリクスやジャニス・ジョプリンのステージが、何十年経っても見られるのだから当然です。だからこそ、これまで〈ハーレム・カルチュラル・フェスティバル〉について誰も知らなかったことは残念としか言いようがない。歴史が書き換えられるくらい、大勢の人がこれを見なければ! すぐにその迫力、音楽だけでなくファッションやカルチャー、あの時代に満ちていたものを体感できるはず。しかも、それがブラックの人々による変革だったことに大きな意味があります。
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19歳のスティーヴィー・ワンダーら、最高にノっていたモータウンのスターたちの歌声、キュートないでたち。チャートに曲を次々送り込んでいた、スライ&ザ・ファミリー・ストーンによる圧倒的なステージ。メッセージを込めた歌を歌い上げるニーナ・シモン。そんな面子だけでびっくりしてしまうのですが、詰めかけた観客の様子、思い思いおしゃれをして楽しんでいる人々も印象に残ります。ところどころ挟まれるインタビューではミュージシャンだけでなく、そこにいた人々が「人生を変えた瞬間」として体験を語っていて、そこがいい。フェスは何よりもオーディエンスのもの――クエストラブはそれを理解しています。
映画館で公開されるまで、クエストラブが作ったプレイリストをネットで楽しんで待つのもよし。希望としては、もっと全国で上映館数が増えてほしい。夏の最後はぜひ、この最高のフェスで締め括ってください。
『サマー・オブ・ソウル(あるいは、革命がテレビ放映されなかった時)』
監督/アミール・“クエストラブ”・トンプソン
出演/スティーヴィー・ワンダー、B・B・キング、ステイプル・シンガーズ、ニーナ・シモン、スライ&ザ・ファミリー・ストーン他
8月27日、全国ロードショー
本誌で映画のレビューを手がける。ライター、エディター、翻訳もこなす。趣味は散歩と、猫と遊ぶこと、フットボールを見ること。