ロールモデルがあることで、女性たちの可能性も広がる
M アルメニアのマリアム・トロスヤンさんの話はより実践的でした。彼女は5カ国で、暴力を受けた女性たちを支援している方ですが、社会を変えたいときは、ある程度の権力と、そのコミュニティの信頼を得てからプッシュしたほうがいいと。その社会のシステムを理解せずに批判すると溝が深まって、かえって変革の機会が失われるという話で共感しました。
S 日本の会社の中でも生かせそうなアドバイスですね。
M 支援をただ言葉で語るだけでなく、行動して結果を出しているところが皆さん、すごい。そして9名ともパワフルで、自信に満ちあふれていて。権力をふりかざす偉そうな感じではまったくなくて、「私は何があっても大丈夫」という揺るがないオーラを感じました。めちゃくちゃかっこよかったです。
S 既存の価値観や社会課題と闘ってブレイクスルーした女性リーダーならではのかっこよさですね! 男社会のルールに染まって生き抜いてきた女性のリーダーとはまた異なる自信かもしれません。
M これはウーマンズ パビリオンのセレモニーで、ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相が言っていたことですけれど、「見えないものにはなれない」そうです。彼女はニュージーランドで女性として3人目の首相ですけれど、自分の前にいた女性たちがガラスの天井をいっぱいくだいて、道をつくってくれたから「できる」という自信がもてたと。本当にそうですよね。女性の首相がいたり、女性の宇宙飛行士がいたり。子どものときから、普通にそういう景色を見て育つことで、女性の生き方の選択肢は広がっていくんだと思います。
S ロールモデルとなる存在が重要だということですね。
M はい。特にリーダーはそうですよね。男性の場合、「あなたはできる」「あなたには能力がある」と言われて育つことも多いから、チャレンジが必要な立場に置かれたときに有利だけれど、女性は「そんなに頑張らなくてもいいんじゃない?」「結婚して子どもを育てるのが女性としての幸せ」みたいなことを、仮に実際に言われなかったとしても、社会の圧として感じることがあると思うんです。そうするとリスクをとってチャレンジすることができなくなってしまう。
とはいえ、日本も少しずつですけれど、女性のリーダーが増えてきているから、これからは若い人たちの可能性も広がっていくんじゃないかと思います。「カルティエ ウーマンズ イニシアチブ」のフェローに選ばれた日本人はまだいないそうなので、その現実を変えてほしいです。
女性が輝く社会は、男性もマイノリティも生きやすい
S パビリオンのキャッチコピーが「When women thrive, humanity thrives 〜ともに生き、ともに輝く未来へ〜」です。和訳すると「女性が輝けば、人類が輝く」ですが、なぜそうなると思いますか?
M これは個人の意見ですけれど、女性の中には共感性に優れている人が多いように感じます。実際、女性の管理職が多い会社は、よりサステイナブルであるという『Review of Managerial Science』のデータもあって。従業員はもちろん、顧客、地域社会、環境に至るまでステークホルダーへの配慮につながりやすい面もあるのかなと。
S 女性に限らず、共感性の高い人がリーダーだと話をしやすいというのはあるかも。
M そうですね。もちろん女性だからこう、男性だからこうというジェンダーバイアスの押しつけはよくないし、僕は男性だけど共感力は高いし、人の話もよく聞きます(笑)。だから性差だけで語るのは限界があるけれど、裏を返せば、女性がリーダーになれる社会というのは、無駄な障壁の少ない風通しがいい社会だということなんだと思います。コロナ禍のときも女性がリーダーの国の対応は早かったですよね。ニュージーランドもいち早くロックダウンに踏み切りました。もちろんそれはアーダーン元首相の手腕も大きいけれど、風通しのいい社会だから、新しい政策や決断が取り入れやすい土壌ということもあるのかなと。
S 女性のリーダーは、その社会の構造の表れでもあるんですね。
M そうですね。そしてそのような風通しのいい社会は、女性だけでなく他のマイノリティにとっても生きやすいし、男性にとっても生きやすい社会だと思うんです。だから社会全体が輝くんじゃないかなって。ただ問題は、女性が輝くことで、男性がすみっこに追いやられる——と危惧する男性が少なくないことで。
S 前回お話しした、マノスフィア(反フェミニズム的風潮)にもつながりますね。
M 僕自身、まだ恋に落ちるほどの社会課題に出合えていないので、実際に取り組むのはもう少し先になりそうですけれど、まずはフェミニズムに対しては前向きに応援すること、そして女性がリーダーとして輝ける社会づくりに貢献したいです。
今月のsnaps

2000年、ドイツ生まれ。幼少期を父の出身地のハイデルベルクで過ごす。元タカラジェンヌの母の影響で歌や踊りのレッスンを始め、11歳のとき、アイドルグループのメンバーとしてデビュー。2022年12月、芸能活動を引退。2024年7月、スペインの大学を卒業した。
Youtube:@Mari_and_Us
Instagram:@marius_seiryu
ウーマンズ パビリオン in collaboration with Cartier

©Cartier
「When women thrive, humanity thrives ~ともに生き、ともに輝く未来へ~」をコンセプトに掲げた体験型パビリオン。1人の女性が歩んできた人生を追体験することで、幅広い普遍的な世界の問題への思考を促す。永山祐子による約1700平方メートルの建築も見どころ。また、期間中、2Fの「WA」スペースでは150以上のイベントを開催予定。
開催期間:現在開催中 2025年10月13日(日)まで
開館時間:午前9時~午後21時
場所:大阪・関西万博会場 東ゲート側 日本館すぐ隣
※パビリオンは予約なしで入館可能
※ただし、館内「WA」スペースでのイベントは要予約。詳細・イベントの予約は下記リンクからご確認ください。
問い合わせ先/カルティエ カスタマー サービスセンター
tel. 0120-1847-00
https://www.cartier.jp