マリウス葉さんが語る、アートの楽しみ方【マリウス葉の一歩ずつ進もう】

マリウス葉 One step at a time

前回に続いて、テーマは「アート」。東京・駒込にあるギャラリー「KAYOKOYUKI」におじゃまして、ギャラリストの結城加代子さんとマリウスさんが本音でトーク。ギャラリストという仕事のことや、アートの楽しみ方について二人で語った。

マリウス葉プロフィール画像
マリウス葉

2000年、ドイツ生まれ。幼少期を父の出身地のハイデルベルクで過ごす。元タカラジェンヌの母の影響で歌や踊りのレッスンを始め、11歳のとき、アイドルグループのメンバーとしてデビュー。2022年12月、芸能活動を引退。2024年7月、スペインの大学を卒業した。

Kayoko Yuki プロフィール画像
Kayoko Yuki

結城加代子●KAYOKOYUKI合同会社オーナー。2015年に駒込の古い建物をリノベーションしギャラリースペースをオープン。国内外の現代アートに関する企画やアーティストのマネジメントを行い、国際的なアートフェア「Art Basel」や「Frieze」にも参加している。

マリウス葉 結城加代子 SPUR
リバーシブルパーカ¥861,300・中に着たブルゾン¥268,400・パンツ¥191,400・ベルト¥162,800・サンダル¥141,900・ネックレス(参考商品)/エルメスジャポン(エルメス)

K: Kayoko
M: Marius
S: SPUR

S 基本的なことを伺いたいのですが、結城さんのお仕事「ギャラリスト」について、まずは教えてください。

K ギャラリストというのは、自分のギャラリーを持つ美術商のことです。「アートでこんなことをしたい」という思いが合致するアーティストを探して、ギャラリーに所属してもらい、作品を展示したり、販売したりしながら、アーティストとギャラリー両方のキャリアビルディングをするのが主な仕事です。

M アーティストとギャラリストの関係って、タレントと芸能事務所のマネージャーの関係に似ていますよね(笑)。

K すごく似ています。そのアーティストに合った見せ方とか、プロモーションの方法を考えて育てていく感じなので。

M でも、難しい仕事ですね。たとえばアーティストが急に方向性を変えたとき、その理由を理解して応援したり、逆に「これはあなたが本当にやりたいことではないのでは?」と見抜いたり。厳しいことを言わないとアーティストは成長しないし、かといって言いすぎてもめるのは困るし。デリケートな仕事だなって。

K なんでそんなことをご存じなんですか(笑)。マリウスさんがおっしゃる通りで、運営するためにお金の心配もしなくちゃいけないけれど、一人の人間がエスタブリッシュされていくまでには時間が必要だから、じっくりとアーティストに向き合わないといけない。お互いの人間性を理解して、信頼し合っていないと長続きしないんですよね。 

M 僕がアート業界を知って面白いと感じたのは、そういうギャラリストとアーティストの関係や、推し活のように楽しんでいる人もいる点です。「このギャラリーは好きだけど、こういうところは嫌い!」というような。アートの世界には、経済も政治も法律もエンターテインメントも全部ある。こんなに興味深い世界はないと思いました。

アートのセラピー効果で、息苦しさから解放された

M 僕はメンタルヘルスとか自己の成長とかにすごく興味があるんですけれど、アートは、触れることで傷ついた心が癒やされたり、不安な状態から落ち着きを取り戻したり、人間の回復力を促す力があると思っているんですね。

K その気持ち、すごくよくわかります。私はもともと会社員で、毎日満員電車に乗って忙しく働いていたんです。でも、自分を押し殺して社会に合わせて生きているうちに、すごく息苦しくなってしまって。そんなとき、好きな美術館やギャラリーを回ると、すごく自分が救われた気がしたんですね。それで、もしかしたらこれはほかの人にも応用がきくんじゃないかと思いました。スポーツとかカラオケとか、人によって発散方法はありますけれど、アートが助けになる人もいるかもしれないと思って、それでギャラリーを始めました。

M アートのセラピー効果、絶対ありますよね。去年ACK(『Art Collaboration Kyo
to』)で、大徳寺でブラジルのギャラリーの展示があったんです。ルーカス・アルーダというアーティストの絵を見たとき、心に深く刺さるものがありました。風景画なんですけれど、彼の心の風景をキャプチャーしたもので、彼自身の記憶と想像から生み出されています。光と闇のバランスがすごく繊細で、号泣している人もいて。僕も思わず涙がこぼれた、洗礼を受けたような体験でした。

絵の展示と同時に有名なお茶の師範によるワークショップもあって、和菓子や茶器も作品を連想させる体験型の展示というのも面白かった。

K 私も見ましたけれど、その体験を持ち帰りたくなりますよね。絵を買うコレクターの心をくすぐる完璧なプロモーションだったと思います。

M そう、この絵を買ったら、ここで感じたスピリチュアルなものを家でも感じられるかなって思いました。一つの絵がこれだけの感動を人に与えられるのは、やっぱりアーティストが常に自身と向き合って、感情や生命、哲学を考えながら、自分の世界観を表現することを第一にやっているからだと思うんです。

だから僕はアーティストをリスペクトしているし、もっともっとサポートしていきたいと思うんですよね。

S アートにもっと触れたいと思っている読者も多いと思います。おすすめの楽しみ方は何かありますか。

理解に時間がかかるから、心の中にもずっと残る

M 大きな美術館に展覧会を見に行くのもいいけれど、小さなギャラリーをいくつか回るのも面白いと思う。ギャラリーによって作品も全然違うし、見終わったあと、話も聞けるし。

K そうですね。わからないと不安だから、最初から作品の解説を知りたくなりますけれど、まずは自分で見て、感じて、その後、「私はこういうふうに感じたんですけれど、これってどういうことなんですか?」とスタッフの人に聞いてみるのがいいと思います。

S 的外れな感想だったら恥ずかしいと思ってしまいますが、聞いていいんですね。

M 聞かないともったいない。

K むしろより変なことを言ってほしい(笑)。予想外の反応はアーティストもギャラリーもうれしいんですよ。「あっ、そんな受け止め方もあるんだ」っていう発見があって面白い。そのために展覧会をやっていたりもするので。

なぜこの作品が好きなのか、なぜ嫌いなのかを問いかけて、自分を発見していく作業がアート鑑賞には有効で、それは自分の生き方にも活きてくると思います。アートが、自分の感性を突き詰めていく作業のきっかけになればいいですね。

M 僕は以前、あるキュレーターから聞いた話が心に残っていて。その人いわく、「そのアートをどの場所に飾るかはキュレーターが決めるのではなくて、アートがその場所を選んでいる」って。それを聞いて、自分がアートを見つけるのではなくて、アートが自分を見つけてくれるんじゃないかなと思うようになりました。いつどんなふうに心が動くかは自分ではコントロールできない。まずアートがあって、それに心が動かされるわけで。アートを鑑賞するとき、そういう意識の転換が大事なのかなって思ったりします。

K アートが自分を見つけてくれるって素敵ですね。アートって、すぐに理解できないところが私はいいと思うんですよ。ずっと謎が残り続ける。腑に落ちるまで10年20年とかかる場合もある。すぐに理解できるものは、すぐに去るけれど、複層的なアートは長く心に残ると思うんですね。だから今は理解されない作品でも100年後、200年後に誰かに影響を及ぼして、今より生きやすい社会に変わってくれたらいいなと思っています。

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