2023.04.10

オルタナティブR&B界のディーバが示す、クラブカルチャーへの愛【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】

 

オルタナティブR&B界のディーバが示す、の画像_1

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

『Raven』 Kelela

『Raven』 Kelela
『Raven』 Kelela
¥2,420/Warp Records

かつてさまざまな人々や文化の交流の場として、また流行の発信源として重要な役割を果たしていたナイトクラブ。そこではあまたの音楽が生まれ、形を変えて進化し続けてきた。そして、パンデミックにより大きなダメージを受けたカルチャーの一つであるが、最近その存在に少しずつ光が差し込み始めている。ビヨンセやドレイクといった大スターたちが、クラブミュージックを取り入れた作品をこぞってリリースしたのだ。音楽とダンスを通して、多くの人の心の中や自宅に"待機"させていた感情の解放を試みるような——。さらに、その流れをいっそう加速させる決定的なアルバムが発表された。エチオピアをルーツに持つアメリカ人、ケレラの最新作『Raven』だ。黒人女性として感じてきたブラック・フェミニズムに対する思いを、ダンサブルなアップビートに乗せて表現した今作。着想源はロンドンやベルリンなどのアンダーグラウンドなクラブ文化。年齢や人種、性別も性的指向も関係なく、多様な人やサウンドを受け入れる"クラブ"という海の中を自由に泳ぎ回る彼女の歌声は、とても蠱惑的な響きをしている。R&Bやアンビエントが複雑に絡み合ったサウンドも、彼女が歌えばクールな統一感が生み出される。それがケレラの最大の魅力でもある。勝負服をまとってドレスアップするときの胸の高鳴りや、見知らぬ人が狭い空間にひしめき合うクラブ内の何とも言えないスリリングな高揚感を、この作品を聴くとまるでリアルに体感できるようだ。

ピンクパンサレスやニア・アーカイヴスなどの若手アーティストがきっかけとなりトレンドとなっているドラムンベースやジャングル。90年代にクラブ発信で流行したブレイクビートのジャンルが近年リバイバルの動きを見せている。最近では韓国のNewJeansも新曲「Ditto」でサウンドに取り入れるなど、その勢いはポップシーンにまで波及し続けている。目まぐるしく変化し、進化し続けるダンスミュージックの最も洗練された最新型。それがケレラだ。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のTwitter(@hashimotosan122)にファン多し。

MONTHLY SELECTION

『YIAN』 Lucinda Chua

『YIAN』 Lucinda Chua

¥2,420/4AD 3月24日発売

アジア系英国人のマルチタレントが、自身のアイデンティティを掘り下げるファーストを完成。全編を満たすのは、チェロの音が彩る幽玄なアンビエント・サウンド。その奥からデリケートな声がいくつものクエスチョンを投げかける。

『London Brew』 London Brew

『London Brew』 London Brew

オープン価格/Concord Jazz 3月31日発売

本作に記録されているのは、ロンドンのジャズ界を代表する名プレーヤーたちが、マイルス・デイヴィスの名盤『Bitches Brew』をオマージュした即興セッション。二度とない瞬間が連なる、70分のめくるめくリスニング体験がここに。

『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』 Yves Tumor

『Praise A Lord Who Chews But Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)』 Yves Tumor

¥2,640/Warp Records

ドリーミーなのに覚醒していて、ゆがんでいるのにポップ? 音楽性を常に変化させ、謎めいた存在であり続ける米国人シンガー・ソングライターは、今作でも聴き手を翻弄。背反する側面が危うい均衡を保つ、異形のロックを鳴らしている。

FEATURE
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