2017.05.15

規格外の奇才、サンダーキャット現る

interview&text:Hiroko Shintani  photography:Kento Mori


「オレにとってのフォーマルとストリートの折衷スタイル」だというインパクト満々の装いで現れたこのミュージシャンは、サンダーキャットことスティーヴン・ブルーナー。今年のフジロックへの出演も発表されますます注目を集めている。大好きな日本を意識して選んだ着物風ジャケットは地元LAのデザイナー、コズモ&ナタリアが手掛けたそうだが、音楽的にも間違いなく、規格外の奇才と呼ぶべき人だ。今回はそんなサンダーキャットの音楽性を紐解くインタビューを試みた。

Profile
1984年、ロサンゼルス生まれ。幼少期にベースを弾き始め、15歳の時からセッション・プレイヤーとして活動する傍ら、2011年のアルバム『The Golden Age of Apocalypse』でソロ・デビューした。7月のフジ・ロック・フェスティバルに出演する予定。

"子供のころから、みんなが右を向けば、オレは左!っていう主義だった"

著名なドラマーを父に持ち、10代の頃から辣腕のベース奏者として活動している彼、ジャズからパンクロックまで幅広いジャンルの作品に貢献したのちに、ソロ・デビューを果たしたのが6年前のこと。美しいファルセット・ボイスと超絶ベースプレイを駆使した独自のアプローチで、シンガー・ソングライターとしても高い評価を確立している。
「子供の頃から厄介な人間で、みんなが右を向けば、オレは左!っていう主義だったんだ(笑)。そもそも父親がミュージシャンだけに、想像力を養える、アーティスティックな環境で育ったし、両親は個性を尊重してくれた。何をするにしても、人と違うことをやろうとするのが自然に感じられたんだろうね」
 そんなサンダーキャットにとって最新作『Drunk』は4年ぶりのアルバム。ジャズ、ソウル、ファンク、ヒップホップ、はたまたAORを融合し、“酔っ払い”を指すタイトルにふたつの意味を託した彼は、ユニークなコンセプト作品を仕上げた。「ひとつはミュージシャン人生と切り離せない、字義通りの“酔っ払い”という意味で、もうひとつは比喩としての“酔っ払い”。心理状態としての酩酊状態、とも言えるのかな。これらふたつのアイデアを重ね合わせたアルバムなんだ。ほら、人が酔っ払うと気分が悪くなって、意識が混乱し、物事が理解できなくなるよね。最近の世界を眺めていると、起きること全てがクレイジーで、シラフでも酔っ払っているみたいに感じてしまう。そういう感覚を描いたアルバムなんだよ」

"人々が不満を抱えて行動を起こしている時代にこそ、ジャズを求める声が高まるんだ"

なるほど彼が聴かせるのは、目は覚めているのに夢を見ているかのような気分にさせる曲の数々。気持ち良くて、でもどこかで不安がつきまとう音楽だ。フュージョンを進化させた浮遊感あふれるサウンドはまた、今LAで起きているジャズ復興の動きを象徴するものでもある。何しろサンダーキャットはそのムーヴメントのキーパーソンであり、本作をプロデュースしたフライング・ロータス、ゲストとしてサックスを吹くカマシ・ワシントン共々、ヒップホップを聴いて育った世代の感性でジャズをアップデートしているのだから。

「オレに言わせれば、ジャズが表舞台に帰ってくるのは時間の問題だったんじゃないかな。ファッションと同じことさ。最新の流行はいつしかヴィンテージとなり、形を変えて繰り返し復活するだろう? 単なる焼き直しも多いけど、そうじゃなくて真摯でリアルな表現も時折生まれる。それにアメリカとジャズの関係を語る時には、社会的背景と切り離すことはできない。人々が不満を抱えて行動を起こしている時代、何か熱いものが水面下で沸いている時代にこそ、ジャズを求める声が高まるんだと思う。そして、今の若者の言語であるヒップホップとジャズが結びついて、ケンドリック・ラマーみたいな人が現れたのは当然のなりゆきだよ」

本作でも「Walk On By」でラップを聴かせるケンドリックはご存知、当代随一の実力と影響力を誇る社会派ラッパー。ヒップホップの側からジャズに接近した彼の2015年のアルバム『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』は、グラミー賞で11部門にノミネートされた歴史的名盤だが、これまたサンダーキャットが手腕を発揮した作品のひとつだ。
「ケンドリックのアルバムにしろ、『Drunk』にしろ、オレがこれまでに関わった作品は全て、ひとつの大きな音楽の流れに属しているような気がするんだ。常に曲を作っていて、使い道を決めているわけじゃないから、どの曲も真っさらな気持ちで取り組んで、気の向くままに任せる。そして、自然に接点が生まれた人たちとコラボするんだ。それがオレのやり方だよ」と語る。今年のフジロックでの彼のパフォーマンスが楽しみだ。

『Show You the Way(featuring Michael McDonald & Kenny Loggins)』(2017年のアルバム『Drunk』より)

 

『Them Changes』(4月に放映された英国BBCの音楽番組『Later… with Jools Holland』より)

 

INFORMATION

『Drunk』
THUNDERCAT

BEAT RECORDS/BRAINFEEDER

01. Rabbot Ho
02. Captain Stupido
03. Uh Uh
04. Bus In These Streets
05. A Fan's Mail (Tron Song Suite II)
06. Lava Lamp
07. Jethro
08. Day & Night
09. Show You The Way (feat. Michael McDonald & Kenny Loggins)
10. Walk On By (feat. Kendrick Lamar)
11. Blackkk
12. Tokyo
13. Jameel's Space Ride
14. Friend Zone
15. Them Changes
16. Where I'm Going
17. Drink Dat (feat. Wiz Khalifa)
18. Inferno
19. I Am Crazy
20. 3AM
21. Drunk
22. The Turn Down (feat. Pharrell)
23. DUI
24. Hi (feat. Mac Miller) *Bonus Track for Japan

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