2017.10.24

カルメン・ヴィラン、聴く人の心をざわつかせるエレクトロ&アンビエントな音 Part.2

interview&text:Hiroko Shintani photography:Kikuko Usuyama
interview&text:Hiroko Shintani photography:Kikuko Usuyama

ノルウェイから聴き手の心をざわつかせるアンビエントなミュージックを発信するカルメン・ヴィラン。Part1に続いてインタビューをお届け!


Profile
本名カルメン・ヒルスタッド。メキシコ人の母とノルウェイ人の父の間にアメリカで生まれる。オスロで育ち、ニューヨークを拠点にモデルとして活躍したのちに、ミュージシャンに転向。2013年に、ノルウェイの先鋭的なアーティストたちの参加を得たファースト・アルバム『スリーパー』を発表した。

 

このアルバムはたった独りきりで作るしかなかったの

――リリースされたばかりの新作『インフィニット・アヴェニュー』は、作詞作曲から演奏やプロデュースまで、全て独りで手掛けて完成させたそうですね。

ええ。私にはちょっとばかり、仕切りたがり屋な部分があるのよね(笑)。だから全部自分でやってみようと思ったの。それに、このアルバムはできる限り自分らしい作品に仕上げたかった。私は、ひとつひとつの音の響き方だったり、細部にまでこだわるタイプの人間で、100%納得するには、独りで作るしかなかったのよ。実際、満足するまでひたすら試して、吟味して、ボツにして、また試して……という過程の繰り返しだった。さすがにかなり孤独な作業で、時々キレそうになったけど(笑)、自分の直感を信じることの大切さを学んだ気がするわ。自分以外の人が関わっていたら、こういうアルバムにはならかったはずだし、あらゆる音のセレクション、楽器の弾き方、声の出し方、全てが私らしい。今に至るまでの全人生が、何らかの形で反映されていると思うの。

――スタイルも大きく変わりましたよね。ノイジーなギター・サウンドを特徴とするロック寄りのアルバムだった『スリーパー』に対して、今回はグッとエレクトロニックでアンビエントで。

そうね。音楽的なスタイルについては、直感に従って常に進化していくものだと私は思っていて、今はたまたまこういうモードにあるのよ。最近はアンビエント・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックをたくさん聴いていたこととも関係しているんだけど。そこでまず最初に、今回はナマのドラムを使わないで作ってみようと決めたの。そうなると必然的に、エレクトロニックなサウンドに比重が傾くことになる。シンセサイザーやドラムマシーンであれこれ実験をするようになって、逆に、ギターを手に取る機会は減ったというわけ。

わたしのアルバムを名女優ジーナが触るなんて!



――アルバム・ジャケットには名女優ジーナ・ローランズのポートレイトを使っていますね。

ジーナは私が心から尊敬する女優。長く連れ添ったジョン・カサヴェテス監督が、彼女を主演に撮った『こわれゆく女』と『ラヴ・ストリームス』が大のお気に入り映画なの。それで、ジャケットにポートレイトを使いたくて直接コンタクトをとって打診したら、快諾してくれたのよ。唯一の条件として、完成したらアナログ盤にサインをして送って欲しいと頼まれて、「私のアルバムをジーナが触るなんて!」ってすっかり舞い上がっちゃったわ(笑)。で、手紙を添えて2枚送ったの。伝えたい想いは色々あったんだけど、長い手紙を書いて迷惑をかけたくなかったからごく簡潔にして、「もし良かったらあなたのサインも頂けませんか?」とお願いしてみたのよ。そうしたらちゃんと送り返してくれて、アルバムもすごく気に入ってくれたみたい。

――特にこの写真を選んだ理由はあるんですか?

私には、アルバムで扱っているテーマにぴたりと合致するヴィジュアルだと思えたのよ。この写真のジーナは微笑んでいるんだけど、彼女の目には暗い影が見てとれて、シンプルなようですごく重層的なポートレイトだから。『インフィニット・アヴェニュー』はまさにそういうアルバムなの。

――普段から映画からインスピレーションを得ることが多いそうですが、今作にはミケランジェロ・アントニオーニ監督の『赤い砂漠』に因んで命名された曲『Red Desert』もありますね。

ええ。最初からヴィジュアル・イメージを掲げて曲を作っているわけじゃないけど、結果的にシネマティックな音楽が生まれることが多いのかも。こう、一種の空気感を醸して、そこに映像が浮かび上がるような感じね。『Red Desert』の場合は、曲を作り上げたあとで映画を見て、接点があると思ったの。あの映画に描かれている不安感や精神の衰弱といったテーマは、曲の歌詞とつながるものだった。それで、タイトルに拝借したってわけ(笑)。ミュージック・ビデオに関しては、まさに映画の世界にオマージュを捧げるようにして撮影したわ。

オスロにはおいしいスポットがたくさんあるわよ

――最後に、オスロのお気に入りスポットを教えて下さい。

オーケー。まずは、私が世界で一番美味しいコーヒーショップのひとつだと思っているティム・ウェンデルボー(Tim Wendelboe)。そして軽く一杯呑むバーなら、ロビネット(Bar Robinet)がオススメ。レストランなら、すごくレイドバックで居心地がいいドクター・クネイプス(Markveien Mat & Vinhus og Vinbaren Dr Kneipp’s)かな。お料理も美味しいし、いいワインを揃えているわ。あとはピョルターガイスト(Pjoltergeist)ね。アイスランドとアジアのフュージョンをテーマにしていて、かかっている音楽はヒップホップだったりして、多分今オスロで一番人気のレストランなんじゃないかしら。どこもわりと高めなんだけど、その価値はあると思うの。そして最後に、著名な彫刻家グスタヴ・ヴィーゲランの弟で、同じく彫刻家兼画家だったエマニュエルの美術館(Emanuel Vigeland Museum)にぜひ行ってみて。彼が生前に自ら作った霊廟があって、内部の壁一面に絵が描かれているの。あまり知られていないけど、必見のスポットよ!

元スーパーモデル、カルメン・ヴィランが奏でるミステリアスな音を聴いた? Part.1

INFORMATION

『インフィニット・アヴェニュー』
カルメン・ヴィラン

(¥2,200/カレンティート)

このセカンド・アルバムで、シンガー・ソングライターとしての実力に加えて、プロデューサーとしてのセンスも見せ付けるカルメンは、エレクトロニックな音と生楽器の音、そしてムーディーな歌声を幾重にも重ねたシュールなサウンドスケープに、複雑な心象風景を投影。スロー・テンポで淡々と刻まれる不安の律動が、夢現の世界に聴き手を引き込む。

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