interview&text:Hiroko Shintani
Profile
1988年、英国グロスタシャー生まれ。本名ターリア・バーネット。幼い頃からダンスを学び、10代になって音楽制作もスタート。まずはダンサーとして活躍したのち、シンガー・ソングライター兼プロデューサーとしてデビューした。14年にファースト・アルバム『LP1』を発表。現在は自身のPVの監督も務めている。
絶賛を浴びたファースト『LP1』から5年、“唯一無二”と迷わずに形容できる数少ないミュージシャンのひとり、FKAツイッグスが帰ってきた。謎めいた近寄りがたい存在だった彼女が、生身の女性としてよりリアルに感じられる新作のタイトルは、ずばり『Magdalene』。ハートブレイクや病気と向き合いながら作ったこのアルバムのインスピレーションや、クリエイターとしての関心事を話してくれた。
――前作から少し時間が空きましたが、「そろそろ新しい音楽を作らなければ」とあなたを駆り立てたものは?
「私はアーティストだから自然に表現をしたくて、インスピレーションが降りてくるのを待っていたの。表現したいという気持ちが高まって、自分の中から何かが出てくるのを待っていた。それがマグダラのマリアだった。彼女は娼婦とも聖人とも呼ばれていて、様々な説があって、すごく興味があるの。アルバム全体が彼女についてというわけではないけれど、特に影響されたわ」
――タイトルも、マリアに因んで『Magdalene』と命名されていますね。
「昔から本も読んでいるし、マリアへの関心は最近始まったわけではないのよ。でもここ数年で、彼女への評価が見直されてきている。イエスの聖母は処女マリアと呼ばれ、処女ではないとされていたマグダラのマリアは罪の女と呼ばれていた。でも彼女の“罪”とされるものに対する誤解が、現代になって解かれようとしている。私たちが求める究極の母親像や女性像の変化と共に、一人の女性として再評価されつつあるの。一人の女性として彼女がどう生きていたのか、すごく興味があるわ。何が女性らしさなのか、人々がそれぞれに何を女性像としているか、そしてそれがどう変化しつつあるか。彼女はその象徴だと思うの」
――制作中には子宮筋腫の手術を受けたそうですね。アルバムの方向性に影響しましたか?
「あの経験が私を強くしてくれたから、それがそのままアルバムに映し出されていると思うわ。再生できるという自信がついた。治癒力のパワーを感じたし、以前より力強いアルバムに仕上がったと思う」
――自分の肉体に対する意識も変わりましたか?
「変わったわね。ヴィーガンとして良い食生活を心がけるようになったし、ストレスを最小限に抑えて、有害な人たちとは距離を置いているわ」
――ダンサーでもあり様々な表現手段を持つあなたにとって、音楽の位置付けとは?
「音楽は私にとってとても大切な表現手段。自分の世界に入り、自分と向き合い、言葉やサウンドという形で時間をかけて流れを作り、それを表現することができるから」
――アーティストとしてあなたが一番喜びを感じることは?
「私を愛してくれるコラボレーターや、私を大切に思ってくれる人、また、私の作品やメッセージの誠実さを大切に思ってくれる人と一緒にいること。私は、同じコラボレーターや友人から成るチームと10年も仕事を続けることができて、すごく恵まれているわ。お互いのことをとてもよく知っているから、しっかりと焦点を絞って作品を作り上げることができるの」
――常にクリエイティヴでいるために、どんなことを心掛けていますか?
「私は新しいことや新しいスキルを学ぶことが好きで、独りの時間を取って、新しいスキルや技能を試してみるのが好き。基本的に、学ぶということが好きなんだと思うわ」
――最近心を強く動かされた映画や小説は?
「最近は、マージョリー・キャメロンという女性についての本を選んでいるわ。彼女はアレイスター・クロウリー(注:魔術を研究した英国人の神秘主義者)の長年のパートナーだったの。彼女の人生は驚くべきものだということが分かった。今読んでいるのも、マージョリーに関する『Wormwood Star』という本よ」
――今のあなたのファッションのコンセプトは何?
「新しいロマンティックなファッションを発見して、トレーニングからステージまで、普段の自分の格好にどうやって取り込めるかを考えるのが大好きなの」
(ファースト・シングル『Holy Terrain』)
(セカンド・シングル『Cellophane』)
(ロンドンの美術館ウォレス・コレクションで収録した『Cellophane』のアコースティック・ヴァージョン)
(最新シングル『Home With You』)
INFORMATION
『Magdalene』
FKA twigs
(Beatink)
チリ系アメリカ人のニコラス・ジャーを始め、気鋭のプロデューサーたちと作り上げたセカンド。ヴィジュアルもサウンドも相変わらず非日常的な表現に貫かれているけど、R&Bとエレクトロニック・ミュージックを意のままに歪めていた前作から一転、アプローチはよりシンプル。彼女の声とピアノの響きを主役に、宗教音楽みたいに荘厳で癒しに満ちたアルバムが生まれた。