【ボン・イヴェール】冬から春を迎えた、孤高の天才の新境地【hashimotosanのおすすめ音楽】

『SABLE, fABLE』 Bon Iver

2010年代以降の音楽シーンにおいて、ボン・イヴェールことジャスティン・ヴァーノンは極めて重要かつ異色な存在だ。デビュー時から内省的なフォークサウンドと美しい歌声が高く評価され、その後グラミー賞を受賞し、大衆的な人気を獲得するも活動を一時休止。再開後は実験的なサウンドに挑戦しつつ、近年ではテイラー・スウィフトやチャーリー・XCXとも共演し、ポップフィールドにも足を踏み入れるなど常に進化を続けている。

そんな彼の5作目となる最新アルバム『SABLE, fABLE』は、Mk.geeやDijon、Jim-E Stackといった気鋭の若手ミュージシャンたちが新たな風を吹き込んだ、新境地といえる作品だ。アルバムはデビュー時の作風に近い1部と、ポップスと接近しさまざまなサウンドに挑戦してきた近年の活動の成果が表れた2部による構成。かつて孤独感や喪失感といった感情を歌にし、どこか仄暗く神秘的だった作風から一転した。R&Bの要素が強く表れたソフトな質感のサウンド、人とのつながりや喜び、愛の尊さが綴られた歌詞など、作品のテーマカラーのサーモンピンクのようなポジティブなムードに包まれた、非常に人間味のある仕上がりに変化している。

これまであまり自分自身のことを明かさないミステリアスなイメージだったジャスティンが、ここまでオープンに恋や愛を歌にしているのは正直驚いたが、それこそが彼にとっての新しい挑戦なのだろう。「よい冬」を意味するBon Iverにとっての春が表現された、豊かさと美しさにあふれた傑作だ。

『From Florida’s Finest』 Sailorr

SNSでブレイク中のベトナム系米国人シンガーが、レトロ・フューチャー感覚のR&Bが満載のファーストを完成。恋の甘さと苦さを掘り下げるユーモラスな歌詞や、ガーリーなビジュアルで個性をアピール。

『I Quit』 HAIM

LAの姉妹トリオによる5年ぶりの新作。風通しのいいナチュラルなサウンドに乗せて、ハートブレイクの痛みと独身生活の解放感を歌う3人は、恋愛のこと、人生のこと、30代女性としての本音を分かち合う。

『Can’t Lose My (Soul)』 Annie & The Caldwells

結成から約50年を経て世界的な注目を集める、米国ミシシッピ州の家族バンドが正式にデビュー。地元の教会でライヴ録音された本作は、ゴスペルやディスコが交錯する歌と演奏で、ボディとソウルを揺さぶる。