2023.05.07

悲しみや怒りを原動力に世界を癒やす、三人の歌姫の共演【HASHIMOTOSANの"雑食"音楽紀行】

 

悲しみや怒りを原動力に世界を癒やす、三人の画像_1

一枚のアルバムとの出合いから始まる、"私的"な音楽の旅。多彩な音が育む、新しいカルチャーの萌芽を目撃せよ!

『the record』 boygenius

『the record』 boygenius
『the record』 boygenius
オープン価格/Interscope Records

先日、アメリカ出身の女性シンガーソングライター、フィービー・ブリジャーズの来日公演を観に行ってきた。美しいメロディーセンスと優しく語りかけるような歌声が魅力のライブは、まるで絵本の中にいるような幻想的な空間だった。丁寧にしっとりと曲を届けながら、時に力強くギターを掻き鳴らす堂々たる姿は、新時代のロックスターの佇まいとも言え、彼女の様子に胸を打たれた。

ここ数年、彼女を筆頭に数多くの女性シンガーソングライターが「サッドガール・インディー」と称され、世界の音楽シーンの中心となっている。ミツキやラナ・デル・レイ、スネイル・メイルなど、彼女たちの多くがどこか物悲しく陰のある雰囲気を持ち、内省的でリアリティのある歌詞の楽曲を歌っていることからそう呼ばれている。

かつて人々はアーティストや音楽に対して夢や希望、憧れなどのキラキラした感情やポジティブなメッセージを求めていたと思う。しかし現在、われわれが生きる現実世界においては、自身の家族の問題や失恋、過去のトラウマなどネガティブな内容を包み隠さず歌に乗せる彼女たちの音楽のほうが、聴き手も共感しやすくどこか安心するのではないだろうか。

フィービーが音楽仲間であり友人でもあるルーシー・デイカスとジュリアン・ベイカーと結成したグループ、ボーイジーニアスの最新作『the record』はその象徴とも言えるだろう。音楽スタイルも声質も異なる三人の個性が絶妙なバランスでクロスオーバーしたアルバムだ。

コンプレックスやメンタルヘルスに関する悩みや、社会情勢に対する怒りなどを原動力に制作した楽曲の数々。三人それぞれが抱える問題を、少しずつ分かち合いながらその重さを軽くしてくれるような印象を受けた。朗らかでやわらかいフォーク・ロックサウンドや美しいハーモニーを聴いていると、終始リラックスしたラフなムードで楽しみながらレコーディングを行なっている彼女たちの姿が目に浮かぶ。日々の生活のストレスや疲れを少しだけ肩代わりしてくれる癒やしの一枚だ。

HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)プロフィール画像
HASHIMOTOSAN(ハシモトサン)

ジャンルや国、時代を問わずさまざまなミュージシャンを愛する音楽マニア。今注目すべき、Itなアーティストを紹介する自身のTwitter(@hashimotosan122)にファン多し。

MONTHLY SELECTION

『Stereo Mind Game』 Daughter

『Stereo Mind Game』 Daughter

¥2,420/4AD・Beat Records

シンガーのエレナ・トンラのやわらかな歌声とドリーミーなサウンドスケープで、唯一無二の表現を確立しているドーター。今作では遠い場所にいる人への思慕を掘り下げ、彼ら特有のメランコリーを、温かな包容力でほんのり色づけている。

『Fuse』 Everything But The Girl

『Fuse』 Everything But The Girl

オープン価格/Virgin Music LAS

24年ぶりの新作を発表するのは、数々の名曲がある夫婦デュオ。"結合"と題されている通りに、そのケミストリーは揺るぎない。不穏な世界情勢を背景に救いや癒やしを求めているふたりのエレクトロニック・ソウルは、ミニマルなのに雄弁だ。

『Hydranism』 Oracle Sisters

『Hydranism』 Oracle Sisters

¥2,640/P-VINE

ヨーロッパ各地から集まったメンバーを擁するトリオがデビュー。パリを活動拠点にしながら、音楽的インスピレーションは70年代の米国西海岸に求めるボヘミアンな三人は、ノスタルジックな曲を奏でて時間の流れをスローダウンする。

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