ノルウェーの宝、ムンクの展覧会が上野の東京都美術館で始まりました。ここ最近、偉大な芸術家の回顧展が多いですが、「●●展」とかいってそのご本人の作品は数点しかない、というパターンが結構あり、それはそれで時代背景含めて勉強になりますが、今回のムンクはワンマン展示、オールムンクの空間に浸ることができます。
やはりムンクといえば「叫び」ですが、それ以外にもムンクは「自画像」を多く描き残していることでも有名です。写真を資料に自画像を描くこともあり、自撮りを行った元祖かもしれません。なんと1902年、39歳の時に自撮りをしています。実は自分好きなのでしょうか。展示は、自画像に始まり自画像に終わる……という流れでした。19歳の自画像は来場者から「イケメンだね」という声が。涼し気な顔立ちのハンサムです。
ルックスや才能に恵まれたムンクは女性関係もお盛んでした。自分や友人の恋愛体験をもとに描いた作品も多くあります。
「接吻」シリーズや「灰」は、20代前半の時付き合っていた人妻ミリーとの、出口のない不倫を描いたと言われています。「接吻」は二人の顔がくっついて溶け合うほどの激しく長いキスで、しかも着衣バージョンと、全裸バージョンもあってエロいです。「マドンナ」という作品は、当時の芸術家たちのミューズとされていた女性をモデルにしています。ムンクはこの絵に「熟れた果実のように真紅の唇は悩ましげに開かれる……」といった詩的な言葉を添えています。ポエムの才能にも注目です。
「すすり泣く裸婦」は30歳以上年下の恋人をモデルにしているという説を、音声ガイドで知りました。「女性はすばらしい生き物だ」「そっと香りを楽しむだけにして花びらには触れない」そんな、ちょっと危ないムンクの言葉が流れました。
「森の吸血鬼」男を誘惑する女性を描いた作品。男性の生命力を吸い尽くす女性への注意喚起のようです。
女性関係がめまぐるしい中、ついに事件が起こります。「生命のダンス」のモデルにもなったトゥラという裕福な商人のお嬢様と交際していた時、結婚したいと言われましたが独身主義のムンクは断ってしまいます。精神的に追い詰められた彼女に銃を突きつけられ、銃が暴発し、指を怪我したムンク。それからしばらくアルコールに溺れる生活に……。「ダニエル・ヤコブソン」と題された肖像画のモデルはその時のかかりつけの主治医だそうです。精神的に助けられた感謝の念が込められています。
「嫉妬」 「緑の部屋」シリーズの作品。背後でイチャつく男女と、すさんだ表情の男性。今でいう「リア充爆発しろ!」と思ってそうなシーンです。
ノルウェーの至宝であるこの作品が、長期間貸し出されることはめったにないそうです。ありがたく拝見させていただきます。
そんなムンクのプライベートも気になりますが、展示の目玉はやはり「叫び」。「叫び」ルームは作品保護のため薄暗く、「叫び」の世界に静かに浸れます。改めて拝見し、色使いがさすが北欧出身でおしゃれです。だからこそ後世グッズ化され続けているのでしょう。叫びたいくらいの絶望や不安も、北欧センスの背景の中、そこまでダークにならず適度な距離感を保つことができます。不思議な癒やしのパワーを感じる作品でした。
フィヨルド(という単語に北欧好きとしては反応)や丸太、太陽などノルウェーの美しい自然を描いた作品も多いです。「叫び」ばかりフィーチャーされがちですが、全体を通して拝見すると、幸せで充実した画家人生だったのかもしれません。ムンク展の余韻は穏やかで、「叫び」の精神状態とは反対に、心安らかになりました。
グッズ売り場も充実。「叫び」空気人形はフルカラー版1280円。叫びスノードームやポケモンコラボグッズもありました。
「ムンク展―共鳴する魂の叫び」
期間:~2019年1月20日(日)
時間:9:30~17:30(金曜日、11月1日(木)、3日(土・祝)は20:00まで開館。入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜日・月25日(火)、1月1日(火・祝)、15日(火) ※ただし、11月26日(月)、12月10日(月)、24日(月・休)、1月14日(月・祝)は開室
場所:東京都美術館
東京都台東区上野公園8-3