2018.11.28

格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #37

皇居は一般参賀で砂利の広場から宮殿を見上げるくらいで、障子の奥の世界を垣間見ることも叶いません。きっと素晴らしい芸術品や調度品に囲まれた波動の高い空間なのでしょう……。

そんな一庶民の想像を超えるラインナップの「皇室ゆかりの美術ー宮殿を彩った日本画家」展が山種美術館で開催されました。かつて山種美術館の創立者の山崎種二氏が、皇居宮殿を飾った素晴らしい美術品を多くの人にご覧いただきたいという崇高な使命感から、宮殿装飾を手がけた日本画家たち(山口蓬春、東山魁夷など)に同趣向の作品制作を依頼。山崎氏の経済力も半端ないです。展示ではそんな宮殿の空気感を伝える作品も並んでいます。そして、皇室に受け継がれてきたやんごとなき芸術作品の数々。格調の渦で、拝見するだけで運気も高まりそうです。

山口蓬春「新宮殿杉戸楓 4分の1下絵」橋本明治「朝陽桜」新宮殿の杉戸楓の下絵と新宮殿と同じモチーフの滝桜の図。新宮殿の杉戸楓の下絵。今も皇室の方々のお目に触れているのでしょうか。

内覧会では、大学教授で山種美術館顧問の山下裕二先生による解説も拝聴できました。山口蓬春による新宮殿の杉戸用の下絵や習作はかなり丁寧に描かれていて(見ると下絵レベルではない完成度です)、普段は荒々しいタッチが特徴の川端龍子も葉っぱ一枚一枚、細部まで手を抜かない献上画を描かれています。どの作品も緊張感がみなぎっていて、そのくらい天皇家に献上するというのは特別なことなのだと実感。いっぽう、下村観山の「老松白藤」には、松に藤づるが絡まる吉祥モチーフを描きながら、さり気なくクマンバチが描かれているとのことで、遊び心が感じられます。

安田敦彦「万葉和歌」 新宮殿の「千草の間」にはこちらの十枚のバージョンが展示されているそうです。色が素敵です。
安田敦彦「万葉和歌」 新宮殿の「千草の間」にはこちらの十枚のバージョンが展示されているそうです。色が素敵です。

芸術品を受け取る側の天皇家も文化レベルが高すぎです。例えば後陽成天皇による書。和歌に精通した天皇がちらし書きされた和歌が優雅で美しく、でも素人として何が書かれているのか筆文字を読み取れないのが不甲斐ないです。正親町天皇の皇子、誠仁親王が100日間かけて毎日詠じられた和歌の書も、美文字が言霊パワーを放っています。やはり皇族は雲の上の存在だと思わされます。流麗な筆文字が次第に左にずれていっていますが、筆跡判断によると、行の字が左にずれる人はポジティブ思考で前向きだそうです。さすが何不自由ないご身分です。

小堀鞆音「秋色鵜飼」「春色鷹狩」皇居造宮下絵。やはり気合が入っています。

展示を拝見していたら、皇室ゆかりの絵画や工芸品は吉祥モチーフである鶴が多いことに気づきました。西村五雲による「松鶴」、香淳皇后が女官に下賜された硯箱、竹内栖鳳の「双鶴」、小林古径の「鶴」など、鶴は佇んでいるだけで絵になります。南北朝時代の動乱が題材の「太平記絵巻 巻第12」にも、屋敷の庭に二羽の鶴がいるのが描かれていました。一羽だけでなく二、三羽いる絵が多く、繁栄を表しているようです。以前、旧朝香宮邸である東京都庭園美術館を取材した時、鶴を飼う鶴小屋があったと伺いました。庶民には飼えない高貴な鳥です。鶴以外にも鳥モチーフが多くて、皇室の方が鳥を研究されているのにもつながりを感じます。

皇室に伝わる銀製品、「ボンボニエール」(ご慶事や外交の時に記念品として贈られる)や、雅感がほとばしる「扇面散らし屏風」など、目に入るもの全て保養になりましたが、絵画のスケール感に目を奪われたのは、東山魁夷の「満ち来る潮」。皇居宮殿の壁を飾っている「朝明けの潮」の、一般人向けバージョンです。「東山魁夷氏のことば」によると「いろいろと思案の末、新宮殿の壁画が、ゆったりした波の動きを描いたものであるのに対し、満ちてくる潮が、岩にしぶきを上げる動的な構図を考えついた」とのこと。皇族の方はゆったりした波、庶民は荒波が岩にぶつかる様、と人生を象徴しているかのようです。でもこのような展示会場にいる時だけは現実の厳しさを忘れて、優雅な空気に浸れます。

平櫛田中「雲林先生」香川勝廣「菊に蝶図花瓶」妙に気になった雲林先生の像。中国の詩人で画家だそうです。拝んだらご利益ありそうです。
ミュージアムショップにも品格漂う品物が並んでいます。しかもカフェでは老舗和菓子「菊屋」のオリジナル和菓子をいただくことができます。
ミュージアムショップにも品格漂う品物が並んでいます。しかもカフェでは老舗和菓子「菊屋」のオリジナル和菓子をいただくことができます。

「【特別展】皇室ゆかりの美術ー宮殿を彩った日本画家」

期間:~2019年1月20日(日)
時間:10:00~17:00(入場は閉館30分前まで)
休館日:月曜(2/24(月・祝) 1/14(月)は開館、12/25(火) 1/15(火)は休館、12/29(土)~1/2(水)は年末年始休館)
場所:山種美術館
東京都渋谷区広尾3-12-36
http://www.yamatane-museum.jp/exh/2018/koushitsu.html

1/5
格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #の画像_1
安田敦彦「万葉和歌」 新宮殿の「千草の間」にはこちらの十枚のバージョンが展示されているそうです。色が素敵です。
2/5
格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #の画像_2
橋本明治「朝陽桜」山口蓬春「新宮殿杉戸楓 4分の1下絵」 新宮殿と同じモチーフの滝桜の図と、新宮殿の杉戸楓の下絵。今も皇室の方々のお目に触れているのでしょうか。
3/5
格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #の画像_3
香川勝廣「菊に蝶図花瓶」平櫛田中「雲林先生」妙に気になった雲林先生の像。中国の詩人で画家だそうです。拝んだらご利益ありそうです。
4/5
格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #の画像_4
小堀鞆音「春色鷹狩」「秋色鵜飼」 皇居造宮下絵。やはり気合が入っています。
5/5
格調が高すぎる「皇室ゆかりの美術」展 #の画像_5
ミュージアムショップにも品格漂う品物が並んでいます。しかもカフェでは老舗和菓子「菊屋」のオリジナル和菓子をいただくことができます。
FEATURE
HELLO...!