世界的なアーティストKAWSの大型展覧会「KAWS TOKYO FIRST」が森アーツセンターギャラリーで開催。緊急事態宣言下で先はよくわかりませんが、今回は無事にオープンし、ご本人も来日という、奇跡のタイミング。KAWSのポップなアート作品は、今の日本を元気づけるという使命を帯びているのかもしれません。
夏を感じさせない着こなしのKAWS。季節を先取りされているのでしようか。
ニューヨークのブルックリンを拠点に、絵画からストリートアート、グラフィックデザイン、プロダクトデザイン、彫刻、ブランドとのコラボなど多岐に渡るアウトプットで、世界中の人を熱狂させているKAWS。今最も作品が高値で売れるとも囁かれています。 内覧会ではご本人が登壇し、展覧会について語りました。ストリート系のファッションをこなれた感じで着こなすKAWSは40代半ばには見えませんが、話し始めると長いキャリアを感じさせる貫祿と知性あふれるトークを展開。トークの相手は展示の日本側監修を務めた山峰潤也氏です。
「SEEING」2018 BFFが展示会場を見守ってくれているかのようです。
まず、ストリートカルチャーについての思いを聞かれると…… 「日本に来ることで様々なインスピレーションを得られます。ストリートカルチャーが盛り上がる瞬間を目撃できたことは幸運でした。NIGOやHECTICの仲間たちやいろいろな方とワクワクしながら交流してきました。いつもとても楽しくて、実験的なことをやってきました。ストリートカルチャーが成長するのをこの目で見てきました」とのことで、かつての裏原の光景がよぎります。 展示の見どころについては…… 「大きな展覧会の意味は、一つのところに焦点を置く必要がない、ということだと思います。私の全体のストーリーを共有できる意義深い展覧会。包括的に洞察を加えることができます。ペインティングや彫刻などの変遷や、作品がどこから始まってどこへ行っいるか見ていただければと思います」
「UNTITLED (KURF)」はなつかしさを感じるスマーフがモチーフの作品。
そして、すばらしいインスピレーションはどこから? という質問には 「常々他のアーティストについて知りたいと思っていて、彼らの作品の軌跡について学んでいます。 今回のコレクションでは私のスタジオを美術館に持ち込むことで、ふだん私がどういうものを見ているのか、何に興味があるのか見ていただけるようになっています。私の個人的なスペースを皆さんと共有する場所を持ちたいということです」と、アートへの尽きぬ興味を窺わせるKAWS氏。
街にあふれている広告に手を加える手法「Subvertising(サブバータイジング)」。ケイト・モスの写真がなつかしいです。
「スタジオの持ち込みなんて、最初はそんなことできるのかとびっくりしましたが、再現してみると、会場にいながら自分の家にいるような気持ちになれました。展示した他のアーティストについて知っていただき、気に入っていただいたら調べてみてください。アートはオープンな会話をすること。作品をアートの中に入れることで循環のシステムができます 」 KAWS本人がどんなアートに影響を受けてきたのか、ぜひ拝見してみたいです。 最後、「友人のヨコオ(横尾忠則)が東京現代美術館と21_21 DESIGN SIGHTで個展をやっているのでぜひ足を運んでください」と、宣伝もしていて良い人です。ストリートカルチャーには人情がうずまいているのでしょうか。 今回、KAWSの代表作の約70点の絵画や、彫刻、プロダクト、影響を受けたアート作品などを含めて約150点が集結しています。
KAWSのスタジオを再現したコーナー。ここに展示されているアーティストも要チェックです。
そんなKAWSの展示でまず目を引くのは、ご自身のスタジオのセット。ディオールやユニクロとのコラボなど、KAWS本人のプロダクトや彫刻も多いですが、他にはMark Gonzales、Jim Nutt、George Condo、Mike Kelleyなどの作品が並んでいます。KAWSの展覧会の中にさらにKAWSキュレーションによる展覧会があるような見応えある二重構造に。KAWSが好きなアート作品はラフなタッチのものが多いですが、本人の作品は厳密で、筆の跡を感じさせないものが多く、完成度の高さに驚かされます。
ミシュランのキャラクターをモチーフにした「HK CHUM, 2002」。初期作品ですが絶妙なカラーリングです。
例えば「HK CHUM, 2002」はミシュランのマスコットキャラクターであるビバンダムをモチーフにした作品。黒いラインが全く揺るぎなく、色もマットなのでてっきりPCで作画して出力したのかと思ったら「Acrylic on canvas over panel」と表記されていて驚きました。ストリート系というと遊び人っぽいイメージを勝手に抱いていましたが、KAWSは職人気質だとわかり、失礼しました。フリーランスのアニメーターとして働いていた時代に培ったスキルを感じさせます。
「UNTITLED (KIMPSONS), PACKAGE PAINTING SERIES」はシンプソンズがモチーフ。パッケージに入っていて凝っています。
KAWSのモチーフ選びの基準はどこにあるのでしょう。ミシュランマン(ビバンダム)、スマーフ、セサミストリート、シンプソンズなどのキャラを再構築し、目がバツ印のスカルと合体させています。コモデティ化されたメジャーなキャラクターに無常感や滑稽さが漂います。有名なキャラ似の「COMPANION」と、如実にスヌーピーを感じさせる犬のキャラなど、アーティストとしてのぼりつめたKAWSにモチーフにしてもらって、もはや光栄です、みたいな感覚で許容されているのでしょうか(「KAWS:proceedings」で検索したところ、とくに訴訟とかはなさそうです……)。「COMPANION」に至っては「KAWS HOLIDAY」シリーズで宇宙旅行にまで行っています。KAWSのモチーフになることでキャラクターの新たな一面が見出され、若者人気も出そうです。
真っ赤なCHUMと、どう見てもスヌーピーの「FIVE SUSPECTS, 2016」。ギリギリを攻めています
「COMPANION (RESTING PLACE)」2013年。内臓が半分露出していてもポップな存在感です。
グラフィティはコミュニケーションツールだと言っていたKAWSは、アートによるコミュニケーションで世界中を味方につけ、愛される技法を身に付けたようです。展覧会ではそんなKAWSの世界レベルのコミュ力をアート作品から吸収することができます。
横たわるCOMPANIONたち。COMPANIONはKAWSにとって、もはや家族のような存在だとか。
来場者のイラストとKAWSのキャラクターBFFのコラボ写真が撮れる「Make a Friend for BFF」。
「KAWS TOKYO FIRST」 期間:~10月11日(月) 休館日:8/5(木) ※チケット購入については公式HPにて。 ※開催日時などにつきましては、新型コロナウイルス感染症の状況により変更の可能性もあるので、下記HPなどでご確認ください。 会場:森アーツセンターギャラリー(六本木ヒルズ森タワー52階)https://www.kaws-tokyo-first.jp/