沖縄復帰50年を記念した『特別展「琉球」』が東京国立博物館 平成館にて開催されています。かつて琉球王国として豊かな文化を育んでいた沖縄。「コロナが落ち着いたら旅行に行きたい」都道府県ランキングでは1位だったり、朝ドラ「ちむどんどん」の舞台にもなったりと、ますます注目度が高まっています。沖縄に旅行したい!というはやる気持ちを、まずは展示に行くことでアート欲に昇華させたいです。
これまで知っているようで知らなかった琉球の歴史。第1章では「万国津梁 アジアの架け橋」をテーマに、各地の産物が満ちあふれて繁栄する王国の歴史や、貿易品を展示。まず、視界に入ってくるのは「銅鐘 旧首里城正殿鐘」です。
かつて首里城の正殿にかけられていた15世紀の鐘には、世界の架け橋であろうとする琉球のポテンシャルを感じさせる銘文が刻まれていました。王国時代の那覇の港の交易の様子を描いた「琉球貿易図屏風」「首里那覇港図屏風」などを見ると、大型船から小さな舟まで大量の船が港にひしめいています。
交易でもたらされたものは、中国・元朝の青花磁器や土器、石鍋、銅銭など。首里城の二階殿跡からは大量の天目の茶碗も発見されていて、城での儀式や饗応に使われていたという説があります。貿易によって使われた中国銭、開元通宝や天聖元宝、さらにローマ帝国貨幣やオスマン帝国貨幣までも展示。どれだけ広い交易をしていたのでしょう。
第2章「王権の誇り 外交と文化」では、琉球王国を約400年間、統治していた王族、尚家の宝物を中心に展示。尚家の「王冠」はヨーロッパの王国とは全く違うデザインで、王冠の上に金銀、水晶、翡翠、黒真珠、珊瑚などの玉が大量に留められています。中国皇帝をしのぐ玉数と色数だそうで、琉球王国の勢いの強さを感じさせます。ゴージャスな文様入りの国王の衣裳や、鮮やかな王妃の衣裳も多数展示。龍や鳳凰、尾長鳥、などのモチーフは、魔よけのパワーもありそうです。王妃用という説がある鮮やかな黄色の衣裳の名称は、「黄色地鳳凰蝙蝠宝尽青海波立波文様紅型綾袷衣裳」(きいろじほうおうこうもりたからづくしせいがいはたつなみもんようびんがたあやあわせいしょう)。他の衣裳もこんな調子で、名前も呪文のようです。首里城の王族の祝宴に使われた金銀の酒器なども展示。尚家の宝物は国宝だらけで圧倒されます。
この章の展示で異彩を放っていたのは、聞得大君御殿雲龍黄金簪(きこえおおぎみうどぅんうんりゅうおうごんかんざし)という、琉球王国の最高位の神女のための巨大な簪。神女組織のトップには王妃や王女が就任し、国王の長寿や国家の安寧、五穀豊穣などを祈っていたそうです。その神女がいわゆる「ノロ」と呼ばれる存在で、首里王府から任命され、神事や祭祀を取り仕切っています。一方「ユタ」と呼ばれる人々はもっと身近で、一般市民の相談を受け付けてくれるシャーマン的な存在です。
第3章「琉球列島の先史文化」では、さらに遡って縄文土器や、貝の装身具なども展示。独特だったのはジュゴンの肩甲骨でできた装身具です。あのかわいいジュゴンは、実は骨格が硬くて、素材として使いやすかったらしいです。ヤコウガイを柄杓状に加工した「貝匙」は、6~7世紀の遺物ながら、現代でも使えそうでした。
第4章「しまの人びとと祈り」は、当時の文化や風俗が伝わってきて、琉球王国にタイムトリップできそうなコーナー。琉球王国だった奄美大島の人々の暮らしや風景を描いた「琉球国奇観」も興味深いです。男女の出会いの場は手拍子を取り合いながら歌う「歌掛けの遊び」だったり、イネの収穫を祝って「八月踊り」を踊ったりと、歌や踊りに彩られていた生活が垣間みられます。「シルシナ」という、与那国島でお産がある家の門などに吊るした細いしめ縄や、ノロの家に伝わる華やかな神扇など、珍しい展示物の数々も。「琉球風俗図」によると、かつて婚礼の時に、嫁の家に向かう花婿一行を、若者たちが戯れ言を言いながら邪魔をする、という風習があったとか。沖縄の若者は今も昔も勢いがあります。
会場の空気を引き締めているのは、「与論島のろくもい神事装束」 (「ノロクモイ」は「ノロ」の尊称)という、1927年の写真です。大きな扇を持ち、長い数珠を首から下げた白装束の女性が厳粛な表情でこちらを見つめています。思わず一礼したくなるような写真。神女を任命する辞令書や、「ノロの図」、祭祀の時に身に着ける装身具一式「玉ハベル」「玉ダスキ」「玉ガーラ」など、後半はノロ関係の展示が充実。前半に出てきた神女の簪が伏線となっていたようです。「ノロしか勝たん」……そんなセリフが浮かんできます。目に見える世界とともに、目に見えない世界も豊かで発展していた琉球王国。多くの人が、沖縄に惹かれる理由は魂と肉体を急速充電できるからかもしれません。