「谷川俊太郎 絵本★百貨展」で感性をアンチエイジング #87

詩人として長年第一線で活躍し続けているだけでなく、画家やイラストレーター、写真家とコラボして多くの素晴らしい絵本も出版している谷川俊太郎。立川のPLAY! MUSEUMで開催されている「谷川俊太郎 絵本★百貨展」では、200冊にも及ぶ絵本作品から約20冊を厳選し、その世界観に没入できるような展示が並ぶ。

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入り口横には、谷川俊太郎さんがはじめて買った車、1955年のシトロエン2CVが展示。(同車種オーナーの人に借りたそうです)

「詩だけ書いてるんじゃつまらない、という気持ちがぼくには初めからありました。もっと他のジャンルも試みてみたいと思っていて、ラジオドラマの台本や記録映画の脚本、歌の作詞など依頼があれば、詩だけでは食えないという現実的事情もあって、出来そうなジャンルには進んで手を出してきました。その中で最も自分に向いてると思ったのが絵本でした」(この展覧会にあたっての谷川俊太郎からのコメント)

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『ままです すきです すてきです』(絵・タイガー立石 福音館書店 1986年)は、珠玉のコラボ。しりとりがこんな密度の高い絵画になることに驚かされます。

日本を代表する詩人の谷川俊太郎が「詩だけでは食えない」なんてそんなわけないのでは?とも思えますが、常に新しいことに挑戦し、仕事の幅を広げている姿勢は素晴らしいです。絵本でコラボする相手も、時代を代表する方ばかりです。和田誠、今村昌昭、堀内誠一、瀬川康男、長新太、沢渡朔、タイガー立石、松本大洋、飯野和好、junaidaなど……。原画だけでも楽しめますが、それぞれの世界観に浸れる趣向が凝らされています。感性が刺激されるテーマパークのような展示です。

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『ことばあそびうた』のフレーズを発しながら「けんけんぱ」で詩の世界に入っていきます。

まず、入ってすぐのところには『ことばあそびうた』(絵・瀬川康男  福音館書店 1973年)の有名なフレーズが「けんけんぱ」の足の位置に記されたコーナーがありました。「かっぱかっぱらった かっぱらっぱかっぱらった」などと唱えながら、音の鳴るアイテムを持って「けんけんぱ」をすると、身体と脳を鍛える相乗効果がありそうです。ただ、実際やってみたら、「けんけんぱ」が膝に来て、自分の重みで足に負担が。やはりお子さんの方が身軽に体験できそうです。


その先には、『まるのおうさま』(絵・粟津潔 福音館書店 1971年)の絵が動画になって流れていました。シュールでサイケで前衛的で、1970年代の日本の勢いを感じます。

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「こっぷ」につかまった気分になれるセットもありました。絵本ではハエがつかまっていましたが……。

『こっぷ』(写真・今村昌昭  福音館書店 1972年)は、水を飲むためだけではない「こっぷ」の可能性について、文章と写真で提示。「こっぷは はえを つかまえる」と、ハエが入った写真で表現したり、「こっぷは はんにんも つかまえる」と、指紋がついた写真を添えたり、知的な大喜利が展開。笑いに行きすぎず、芸術的にまとめられています。その「こっぷ」が巨大化したオブジェが展示されていて、中に入る体験もできました。他では撮ることができない映え写真が撮影できます。

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楽しい仕掛けの『こっぷ』コーナー。「こっぷ」の可能性は無限大です。
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『おならうた』の世界を表現したドーム。色合いもおなら成分を感じさせ、臭いがないのに臭ってくるようです。

童心に返れたのが『おならうた』(絵・飯野和好 絵本館 2006年)のコーナー。ドーム内の低い位置に展示された原画を見ながら、自然と腰を曲げた姿勢になると、まるで自分が発したかのように、おならの音が鳴り響きます。「ブー」「ボー」「ブホ」など、おなら音が連発。このドーム内なら、音にまぎれておならし放題かもしれません。サツマイモの絵などもおならを誘発します。


『とき』(絵・太田大八  福音館書店 1973年)は、地球誕生や原始時代を経て、自分の人生の「今」に思いを馳せる、という「時間」について深く考えさせる壮大な絵本。こちらも美しい映像になって表現されていました。おならのあと、いったん気持ちを切り替え、シリアスなモードになってトンネルへ……。

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日本人形と少女の日々を描いた『なおみ』(写真・沢渡朔)。生きているような人形の表情にゾクゾクします。  

暗いトンネルの中にはちょっとホラーな『なおみ』(写真・沢渡朔 福音館書店 1982年)の写真が展示。一緒に楽しい時を過ごした少女と日本人形のなおみですが、少女が大人になり、次第に距離感が……と、子どもから大人への成長を綴った写真絵本です。日本人形が魂が宿ったかのように表情豊かで、講談師の神田京子による絵本の朗読の声の効果もあって、怖さが倍増。
「なおみは なにも はなさない けれど わたしは しっている」「なおみの ふるさと それは ふるい おしろの ある まち……」。

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大きくプリントされた『えをかく』(絵・長新太)。谷川俊太郎の最近録音した朗読が流れます。

トンネルを抜けると、そこに谷川俊太郎の『えをかく』(絵・長新太 新進 1973 年 1979年復刊 講談社)を朗読する声がかぶさってきました。
「わたがしをかく べっこうあめをかく……」

『なおみ』の朗読と重なって不思議なハーモニーでした。今年録音した声だそうですが、とても91歳には思えない滑舌。今年も新作絵本『ここはおうち』(絵・junaida ブルーシープ 2023年)を出版されましたが、まだまだ活躍されそうです。

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『もこ もこもこ』に描かれている、どんどん大きくなっていく「もこ」を、人をダメにするクッションに座って鑑賞。

『もこ もこもこ』(絵・元永定正 文研出版 1977年)の世界に浸れるコーナーには、人間をダメにする系のビーズクッションが置いてありました。紫色の空間でクッションに埋まりながら、「もこ」が生まれて「にょき」を食べて「ぱちん!」とはじける……意味がありそうでないのかもしれない動画に没入。無になれるコーナーです。こちらの朗読も、谷川俊太郎が担当。艶のある精力的な声で言霊がみなぎっています。「もこ」が巨大化する姿に、尽きせぬ生命力を感じました。

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椅子が並んだスペースの前のスクリーンには、谷川俊太郎が「あ」から「ん」までリストアップした新作の写真絵本『すきのあいうえお』が流れています。
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カフェには谷川俊太郎作品とコラボしたメニューも。「まるのおうさまハッシュドビーフ」(1680円)、「もこ もこもこカレー」(1680円)、「のりまきです」(1680円)などの食事メニューは、見た目も素晴らしいですがボリューム的にも満足感が。もちろん味のレベルも高いです。

他にも、隠れミッキーのように、目立たないところに隠れポエムが書かれていたり、言葉の遊園地のような展示でした。おならからホラーから天地創造まで……幅広い世界観で充実感に満たされました。今の時代はAIで文章でも絵でも作れてしまうような錯覚がありますが、やはり人間の感性には敵わないと、人間としての誇りを取り戻すことができました。右脳と左脳が絶妙に刺激され、最後、ショップでは物欲、カフェでは食欲が活性化。絵本とは縁遠くなった大人こそ、行くべき展示かもしれません。

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「まるのおうさまパフェ」(1650円)は抹茶ゼリーやミニ大福、クリームが程よい甘さで、色合いも素敵です。好きなドリンクに絵をプリントできる「ぴよぴよラテ」もかわいくて再現率が高すぎです。
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ショップでは絵本も販売。この展覧会をきっかけに、復刊された古い絵本もあるそうで、ファンの方は必見です。
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「谷川俊太郎 絵本★百貨展」の来場者特典で渡される大人気のおみやげ。詩がプリントされたトイレットペーパーは3種類あり、ショップで購入可能(330円)。

「谷川俊太郎 絵本★百貨展」

期間:~2023年7月9日(日)
時間:10:00~18:00(入館は閉館30分前まで)
休:無休

会場:PLAY! MUSEUM
東京都立川市緑町3-1 GREEN SPRINGS W3棟 2F
https://play2020.jp/article/shuntaro-tanikawa/

※開催日時などにつきましては、状況により変更の可能性もあるので、公式HPなどでチェックしてください。

「谷川俊太郎 絵本★百貨展」 巡回情報
2023年9月9日(土)―11月26日(日)清須市はるひ美術館(愛知)
*以降、2025年まで全国数会場を巡回予定



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辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。アイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。新刊は『辛酸なめ子の世界恋愛文学全集』(祥伝社文庫)『タピオカミルクティーで死にかけた土曜日の午後 40代女子叫んでもいいですか 』(PHP研究所)『大人のコミュニケーション術 渡る世間は罠だらけ』(光文社新書)『妙齢美容修業』(講談社文庫)『辛酸なめ子の現代社会学』(幻冬舎文庫)。Twitterは@godblessnamekoです。

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