シュルレアリスムの奇妙な毒に魅せられる「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」展

ふと世の中に目を向ければ、現実逃避したくなるニュースばかり。ネットを見てもフェイクニュースが多くて油断できず、AIが作ったアートを見ても消耗してしまいます。そんなとき、100年前の芸術運動「シュルレアリスム」の静謐で哲学的でファンタジックな世界に浸るのが良いかもしれません。現実を超えたところにある「シュルレアリスム」は、改めて今見ると不思議と心が穏やかになる作用が感じられます。混沌とした現実から距離を置くことで自分軸に引き戻してくれる効果もありそうです。

ふと世の中に目を向ければ、現実逃避したくなるニュースばかり。ネットを見てもフェイクニュースが多くて油断できず、AIが作ったアートを見ても消耗してしまいます。そんなとき、100年前の芸術運動「シュルレアリスム」の静謐で哲学的でファンタジックな世界に浸るのが良いかもしれません。現実を超えたところにある「シュルレアリスム」は、改めて今見ると不思議と心が穏やかになる作用が感じられます。混沌とした現実から距離を置くことで自分軸に引き戻してくれる効果もありそうです。

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展覧会「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」が東京オペラシティ アートギャラリーにて開催中。大阪中之島美術館でも開催された巡回展です。ルネ・マグリットやサルバドール・ダリやマックス・エルンスト、マン・レイなど有名なシュルレアリスムのアーティストの作品が並ぶ展示。内覧会でキュレーターの方の話を伺ったら、なんと国内の美術館や個人から借り集めた作品たちだそうで、超現実への入り口は意外と近くにあったようです。

シュルレアリスム(超現実主義)は1924年に、フランスの詩人アンドレ・ブルトンが定義づけた芸術運動。理性によって分断された世界というものをどう乗り越えていくのか、というのがコンセプトの一つ。目に見える現実だけが真実でない、ということを教えてくれているのでしょうか。

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マルセル・デュシャンによるオブジェ作品「瓶乾燥器」「折れた腕の前に」「罠」。これらは既製品を用いていて「レディメイド」と命名されました。デザインも普通におしゃれです。

「第1章 オブジェ―『客観』と『超現実』の関係」では、マルセル・デュシャンやマン・レイ、サルバドール・ダリ、ジョゼフ・コーネルのオブジェなどレジェンドの作品が展示。アンドレ・ブルトンの「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」(初版本)が、シュール界の聖書のような神々しい存在感を放っています。

女性作家、メレット・オッペンハイムの作品も印象的でした。パリでシュルレアリストらと交流し、マン・レイの写真のモデルも務めていたそうなので、シュール界のミューズ的な存在だったのかもしれません。「りす」という作品は、ビールが注がれたコップの持ち手部分がリスの尻尾になっています。毛皮と日用品という異素材を組み合わせた作品をいくつか作っていたオッペンハイム。視覚と触覚の違和感で驚きの効果をもたらす「デペイズマン (異なった環境に置くこと)」という手法だそうで、時代を超えて挑発的なメッセージを放っているオブジェです。

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シュールの父による「シュルレアリスム宣言・溶ける魚」(初版本)も展示。「溶ける魚」「溶けない魚」という分類に天才詩人の発想力が表れています。

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「黄あげは」(フランシス・ピカビア) 。ピカビアはダダの創設者の一人でもあり、いくつもの芸術運動に積極的に参加していたようです。

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マン・レイ「レイヨグラフ」は、印画紙の上にものを置いて感光させる「レイヨグラフ」の手法によって作成された写真。マン・レイのレイ (=光の人)にちなんだネーミング。

「第2章 写真―変容するイメージ」では、多様な技法を駆使し、日常的なモチーフをシュールにアップグレードした写真作品が展示。マン・レイは印画紙の上に直接ものを置いて感光させ、形を焼き付ける技法で制作。マン・レイはこの技法を「レイヨグラフ」と命名。シュルレアリスム界では、新たな技法を思いついたらすぐ命名、という風習があるようです。それぞれのテリトリーを確立しつつ、皆で新しいジャンルを盛り上げようとしていたのでしょうか。

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「レディ・メイドの花束」(ルネ・マグリット)のように、無関係なモチーフ同士を組み合わせるのがシュルレアリスムの手法でした。背後についている守護神のようです。

「第3章 絵画―視覚芸術の新たな扉」は、まさにシュルレアリスムの真骨頂とも言える絵画作品が展示。アンドレ・ブルトンも体験した「オートマティスム(自動筆記)」は、何も考えずに自動で手が動くのに任せて制作する、というシュルレアリスムの手法。現実を超えて、超常的な存在とつながって制作しているようです。この手法は「心の純粋な自動現象」として美術や映画、演劇などへ広がっていきました。ジョアン・ミロの不定形でどこかプリミティブなタッチも、この手法で描かれていたようです。さりげないスピリチュアル感もシュルレアリスムの特徴です。

エルンストやジョゼフ・コーネルは謎めいていて詩的なコラージュ作品を制作。ちなみに「コラージュ」の手法を発見したのもエルンストだそうです。エルンストの作品「65 マクシミリアーナ あるいは天文学の非合法的行使」はタイトルも絶妙にシュールですが、天文学者が小惑星を発見したエピソードをモチーフにしています。知的な要素もシュルレアリスムの魅力。「形而上絵画」を提唱したジョルジオ・デ・キリコや、伝統的な手法でシュールな世界観に説得力を与えたルネ・マグリットとポール・デルヴォー、夢や無意識の欲望を写実的に表現したサルバドール・ダリなど、シュルレアリスムのスターの作品が一堂に介しています。



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ルネ・マグリットの「王様の美術館」は、友人にタイトルを決めてもらったとのこと。タイトルと絵の内容が一致しないのもシュールです。

今回の展覧会のキービジュアルにもなっているのが、ルネ・マグリット「王様の美術館」。マグリットの絵画でおなじみの山高帽の男のシルエットがくり抜かれ、空に顔のパーツが浮いているという作品。山高帽シリーズでは男の背中に女神フローラが守護神のように貼り付いている「レディ・メイドの花束」も出展されていて、マグリットファンにとっては見逃せません。匿名のどこにでもいる存在を象徴している山高帽の男ですが、匿名性がネットなどでは攻撃的な要素に結びついている現代にこの作品を見ると、どこか牧歌的で安心させられます。

ポール・デルヴォーの「立てる女」「女神」「乙女達の行列」という三連作は、女神たちに引き寄せられて絵画の中に入っていきたくなる作品です。室内空間に屋内空間を描いた絵画を持ち込むことで内部と外部を反転させるのはシュルレアリスムでよく採用された手法です。

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マックス・エルンストの「《カルメル修道会に入ろうとしたある少女の夢》より」は、タイトルにも吸引力があり、ストーリー展開が気になります。

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右はフリッツ・ビューラーの「ポスター『ジオデュの帽子』」、左はザン ティ・シャヴィンスキーの「ポスター『プランセプスの帽子』」。シュルレアリスムのセンスがほとばしっています。

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サルバドール・ダリ「抽き出しのあるミロのヴィーナス」。古典的な美の象徴であるミロのヴィーナスと、無意識の象徴でもある抽き出しが合体。何が入っているのか想像を刺激します。

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エルザ・スキャパレッリの「香水瓶」シリーズ。ファッションデザイナーのスキャパレッリによる香水瓶は、オブジェとしても素敵な存在感が。

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ポール・デルヴォーの「立てる女」「女神」「乙女達の行列」は、航空会社の社長、ジルベール・ベリエ氏の邸宅のサロンを飾る壁画として描かれた作品。女性たちの媚びない佇まいが魅力です。

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エルザ・スキャパレッリの「イヴニング・ドレス」。シュルレアリスムに最も近い場所で活躍したスキャパレッリは、ウィットに富んだ遊び心あるデザインが特徴のデザイナーです。

シュルレアリスムの名作に浸ったあとは「第4章 広告ー『機能』する構成」「第5章 ファッションー欲望の喚起」「第6章 インテリアー室内空間の変容」で、その表現技法が別の領域に波及していった様子を見ることができます。

1930年代後半にはモードファッション雑誌にシュルレアリスム風の広告やビジュアルが掲載。デ・キリコやダリがファッション誌の表紙を手がけることもあったそうです。ポスターなどの広告にもシュルレアリスムの影響が見られました。ファッションにおいてもシュルレアリスムがインスピレーションの源となっていたようです。また、マン・レイなどがファッション写真を手がけることもありました。ファッションデザイナーのエルザ・スキャパレッリはサルバドール・ダリとコラボレーションしていて、ファッションとアートが共鳴しあっていました。インテリアというジャンルにもシュールの波が。シュルレアリストが内装を手がけたり、ダリが家具をデザインしたり、日常の空間に不思議な異空間を創出するのもシュルレアリスムならではです。


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ソファ「ポッカ」は、イタリアのデザインチーム、スタジオ65がダリのリップ・ソファのオマージュとして制作。部屋の主役になるソファです。

会場の壁面には、シュルレアリストたちの格言が掲げられていました。
「不可思議はつねに美しい。どのような不可思議も美しい。それどころか不可思議のほかに美しいものはない」ーアンドレ・ブルトン
「シュルレアリスムは奇妙な毒である。シュルレアリスムは、 芸術の分野でこれまでに発明された想像力に対する毒物のなかで、最も激烈で最も危険なものである。シュルレアリスムは抗しがたく、恐ろしく伝染する。用心せよ! 私はシュルレアリスムを運んでくる」ーサルバドール・ダリ
たしかに展示を見終わったあと、奇妙な毒が薬のようにじわじわ効いてきます。シュルレアリスムの傑作から吸収した超現実のパワーをまとえば、今の過酷な現実も乗り越えられるかもしれません。

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イサム・ノグチ、ユージン・F・マクドナルドによるデザインの「ベビー・モニター受信・拡声機『ラジオ・ナース』 (集音・送信機『ガーディアン・イア』 付き)」。なんとイサム・ノグチもシュールなデザインの作品を手がけていました。

「拡大するシュルレアリスム 視覚芸術から広告、ファッション、インテリアへ」
期間:~2026年6月24日(水)
[前期]2026年4月16日(木)~5月17日(日)
[後期]2026年5月19日(火)~6月24日(水)
*会期中一部作品に展示替えがあります。
時間:11:00~19:00(入館はいずれも30分前まで)
休:月曜 、5月7日(木)(ただし、5月4日(月・祝)は開館)
会場:東京オペラシティ アートギャラリー(ギャラリー1、2) 
東京都新宿区西新宿3-20-2
https://www.operacity.jp/ag/exh297/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデ ザイン専攻卒業。アートやアイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。主な著作は『江戸時代のオタクファイル』(淡交社)『女子校礼讃 』(中央公論新社)『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)など多数。Twitterは@godblessnamekoです。