フィンランドの幸福度を体感できる「マリメッコ展 模様のちから」

「マリメッコ(Marimekko)」の展覧会「マリメッコ展  模様のちから」が東京都庭園美術館で開催。今年7月に京都文化博物館で開催が始まり、東京のあとは全国を巡回。全国のマリメッコファン待望の展示です。

「マリメッコ(Marimekko)」の展覧会「マリメッコ展  模様のちから」が東京都庭園美術館で開催。今年7月に京都文化博物館で開催が始まり、東京のあとは全国を巡回。全国のマリメッコファン待望の展示です。

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「マリメッコの美学―時代を超越する色、形、パターン」と題された展示コーナー。存在感があり、時代を超越した魅力を持ったドレスが目を引きます。

内覧会で、マリメッコのホーム&プリンツ デザイン・ディレクターのミンナ・ケメル=クトゥヴォネン氏は「プリントの持つ力を感じていただき、マリメッコの世界に没入できるイマーシブな空間に仕上げました」と語っていました。マリメッコの世界に没入したら幸福度が高まりそうです。
「プリントは単なる表面的な装飾ではなく、ダイアローグ(対話)として存在している」とのことで、旧朝香宮邸とマリメッコのコレクションがひそかに対話している空間になっているのでしょうか。担当学芸員の森千花氏によると「朝香宮邸はもともと人が暮らしてきた空間です。今回はその性格を生かし、マリメッコのファブリックを単に展示するのではなくて、まるでこの場所で実際に使われているかのように取り入れることを試みてみました。マリメッコのファブリックはインテリアとして暮らしの中に入ることで、その魅力がより鮮明になります」とのこと。

旧朝香宮邸とマリメッコのファブリック、「両者にはデザインが暮らしの中で生きる」という共通点が。それぞれ自然のモチーフを使っているので相性が良いことは間違いないです。「見どころは完全なる不完全さ。デザイナーの筆のあとや線の揺らぎを均質に整えないことで、表情豊かなファブリックになっています」という説明があり、この適度なゆるさもマリメッコの模様の魅力です。

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シルクスクリーンで何枚も版を重ねることで、ラフで温かみのある柄ができあがります。手描きならではの揺らぎも生かされています。

1960年代から近年までのコレクションから厳選された約70点のドレスやファブリックが集まっている展示。並んでいるのは年代ごとではないそうですが、タイムレスで流行や時代を超越しているデザインなのでドレスは年代が離れていても自然になじんでいます。1階の大広間には、緑色やオレンジ、黄色のドレス、赤と青と緑の大胆な配色のドレスなど、色鮮やかなアイテムが並んでいました。この柄に負けないためには着る人も生命力を高めた方が良さそうです。

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マイヤ・イソラが1964年にデザインしたウニッコ。その横には2000年の春のコレクションのために作られたドレスが。この模様は全く古びません。

マリメッコというと、複数のデザイナーが模様やデザインを作っているイメージですが、この展示では創業者、アルミ・ラティアにもスポットを当てています。展示会場の入り口にも「ただひとつの責任は、美。ただひとつの現実は、夢。ただひとつの強さは、愛。」という彼女の格言を掲げていました。なんと14歳のときに日記へ綴った言葉だそうで、巷の14歳の中二病とは一線を画した意識の高さに驚かされます。アルミ・ラティアはマリメッコのCEOとしては、「人々の目に映る世界が鮮やかで生き生きとしていること」を「喜び」と考えていたそうです。フィンランドの幸福度が高いのにも、マリメッコの色と模様が寄与しているかもしれません。

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ウニッコのカラーバリエーションを楽しめる大食堂の展示。そして背後の旧朝香宮邸の壁に花柄のレリーフが! マリメッコと響き合っています。

大食堂の「時代を超える花模様」コーナーには、そんな自分の感性を信じ続けたデザイナーの代表作が展示されています。ついに「ウニッコ」のドレスが現れたとき、やはりこの柄こそがマリメッコ、という思いになる人が多いことでしょう。

当初アルミ・ラティアは「花柄は作らない」というポリシーだったそうです。「花はあまりにも美しく、テキスタイルに表現するにはふさわしくない」という考えだったとか。しかしデザイナーのマイヤ・イソラは納得できず、アルミ・ラティアを説得したくて何パターンも花柄を描いたところ、それらが素晴らしかったので全て採用されたというエピソードが。

柔軟性がある対応で、理想的な経営者です。そのうちの一つが、マリメッコの象徴ともいえる「ウニッコ」です。見るとつい笑顔になってしまう大胆でポップでユニークな花柄。多幸感をもたらすのは、ケシの花だから?と妄想させられます。花びらの枚数もよく見ると統一されていなくて、こうあるべきという常識にとらわれなくて良いのかも、と思わせてくれます。もし自分だったら、花びらの枚数はとりあえず4枚で揃えようと思ってしまいますが、そうやって教科書的な一般常識に押し込めるとあの独特のリズムは生まれないのでしょう。

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展覧会のキービジュアルにもなっている「セッペル」。ウニッコ誕生60周年を記念し、ウニッコに寄り添うデザインとして作られました。

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「カイヴォ」(泉)のファブリックが目を引く階段。ここまで大きいのに空間に馴染んでいるところに、デザイナーの力量が表れています。

第一階段の壁にはマイヤ・イソラの名作、「カイヴォ」(泉)の縦長のファブリックがかけられていて、存在感がありながらもノーブルな館の内装と調和しています。モノクロの世界観で波紋のデザイン、というのがおしゃれです。 

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二階広間にもドレスが展示されていました。ストライプや幾何学的な模様も豊富で、色合いなどが大胆で目を引きます。

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1968年に20代でマリメッコのデザイナーとなった脇阪克二によるデザイン。細かい格子模様に日本人の繊細さや侘び寂びが表れているようです。

2階の「マリメッコと日本人デザイナー」コーナーでは、マリメッコのデザイナーとして活躍した脇阪克二や石本藤雄が手がけたデザインが展示。モノクロで細かい、渋いデザインが印象的で、日本人として誇らしいです。自然と調和し、シンプルさを重視するという日本とフィンランドのデザインの親和性を感じることができます。

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インスタレーション作品「皆川明との新たなクリエイティブ・ダイアローグ―国境・領域・時を超えて」。この中に、皆川氏のテキスタイルが交じっていますが、たぶん色合いでわかると思われます

日本人といえば、ミナ ペルホネンのデザイナー・皆川明によるインスタレーションも圧巻でした。内覧会では「19歳でマリメッコの本店を訪れた日のことが思い出されました」と語っていた皆川氏。マリメッコと皆川氏が、創作の輪でつながっているような作品です。マリメッコのテキスタイルに混じって、皆川氏がデザインしたテキスタイルが連綿と連なっていて、この平和で美しい光景を記憶に刻みたいです。誕生日会の飾りのようで、マリメッコの模様に包まれると、毎日が誕生日に感じられます。

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内覧会に登壇された皆川明氏。今回の展示に合わせて「Tuulla」(風が吹く)というファブリックをデザインしました。

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プロジェクションマッピングによるプリントの工程。「マリメッコのプリントが常に新しいのは、どんな色に対しても決してノーと言わないカラリストがいるからだ」と、アルミ・ラティアは語っていたそうです。

新館ギャラリーでは、ヘルシンキのプリント・ファクトリーをプロジェクションマッピングで再現。アルミ・ラティアはデザイナーを尊重し、プリントが完成したらデザイナー名とプリント名、年月日が記されます。このようなデザイナーファーストの姿勢が、優れたデザイナーを引き寄せているのかもしれません。輪転機を模した白いスクリーンに、名作のプリントが工程を重ねるうちに表れる様子を鑑賞。何層も重ねて丁寧にプリントしているのが伝わりました。

「模様のちから」の源泉には、自然やデザイナーなどへのリスペクトの気持ちが流れているようです。だからこそ、マリメッコの模様をまとい、飾ることで自己肯定感が高まるのでしょう。大事なときには、マリメッコに力を借りていきたいです。

マリメッコ展 模様のちから
期間:~2026年12月20日(日)
時間:10:00~18:00 (11月6日(金)、13日(金)、20日(金)、21日(土)、27日(金)、28日(土)、12月4日(金)、5日(土)は夜間開館のため20:00まで)※入館はいずれも閉館時間の30分前まで
休:月曜 ただし11月23日(月)は開館、11月24日(火)は休館
会場:東京都庭園美術館(本館+新館)
東京都港区白金台5-21-9
https://www.teien-art-museum.ne.jp/exhibition/20261003-1220_marimekko/

辛酸なめ子プロフィール画像
辛酸なめ子

漫画家、コラムニスト。埼玉県出身、武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデ ザイン専攻卒業。アートやアイドル観察からスピリチュアルまで幅広く取材し、執筆。主な著作は『江戸時代のオタクファイル』(淡交社)『女子校礼讃 』(中央公論新社)『スピリチュアル系のトリセツ』(平凡社)など多数。Twitterは@godblessnamekoです。