障害者×アーティスト×一流の伴奏者の強力タッグ。「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」のプレ期間がスタート!

現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」のプレ期間が2020年8月24日(月)にスタート。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、オンラインとリアルが融合した全く新しいプロジェクトとして全面的に内容を刷新。コア会期の11月18日(水)〜24日(火)に向けてさまざまな試みが行われるので注目したい。

現代アートの国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」のプレ期間が2020年8月24日(月)にスタートした。コア会期の11月18日(水)〜24日(火)に向けて、オンラインとリアルを融合したさまざまなイベントが開催される予定だ。

両足義足のサーカ スアーティストであるエリン・ボールをはじめとした 世界のサーカスアーティストと日本初のソーシャル サーカスカンパニーSLOW CIRCUS PROJECTのメン バーが、時空を超えたサーカスアニメーションの 共創に挑戦
両足義足のエリン・ボール(右下)をはじめとした世界のサーカスアーティストと日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバーが取り組む「サーカスアニメーション」はコア会期に横浜市役所アトリウムで上映、オンラインでも配信。

3年に一度開催される、障害者と多様な分野のプロフェッショナルによる現代アート国際展「ヨコハマ・パラトリエンナーレ」(略称:パラトリ)。総合ディレクターは、自らも脚に障害を持ちながら、障害者とアート、社会の間のバリアを取り払うべく活動を広げる栗栖良依が務めている。彼女たちは2014年からスタートしたこの取り組みを「発展進行型プロジェクト」と位置付け、障害のある人・ない人が手を携えて共にアートプロジェクトに取り組むことが普段の生活の中での問題解決にも繋がればと、さまざまな挑戦を続けてきた。

総合ディレクターを務める栗栖良依。東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチームのクリエイティブディレクターも務めている。
総合ディレクターを務める栗栖良依。東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチームのクリエイティブディレクターも務めている。

東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチーム クリエイティブ ディレクターとしても活動する栗栖は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、この2年間に準備してきたプログラムを全面的に見直し、「our curioCity ‒好奇心、解き放つ街へ」というテーマを新たに設定。“新しい生活様式”に従うことを余儀なくされるなか、障害のある人が外に出るのが難しい状況にあることなどを踏まえて、どういった形ならパラトリを実現できるかを模索したという。

左から「パラトリテレビ」のナビゲーターの中嶋涼子、パラトリテレビディレクター(撮影・編集)の鹿子澤拳、パペット話者の熊谷拓明。
左から「パラトリテレビ」のナビゲーターの中嶋涼子、パラトリテレビディレクター(撮影・編集)の鹿子澤拳、マスコットキャラクターのPちゃんを操るダンサーの熊谷拓明。

「新型コロナウイルスの影響でみんなの生活が変わってしまった。時代の価値観が大きく変わっていきそうだなという予感がしています。パラトリが2014年から言い続けてきた、『イマジネーションの想像力とクリエイティブの創造力を両方使って共創力を高めましょう』というメッセージが、ついに役立つ時がきたんじゃないかな」と栗栖は話す。

メインのプログラムは4つ。1つはオンラインとリアルが融合するパラトリ2020のメインともいえる「パラトリテレビ」。障害当事者から多様な分野のプロフェッショナルまで、多様な人が登場するオリジナル番組をYouTubeで配信する。番組のナビゲーターは車椅子インフルエンサーの中嶋涼子と、2008年〜11年にシルク・ドゥ・ソレイユのメンバーとして850本のステージに立った経験を持つダンサーの熊谷拓明。撮影と編集は先天性の聴覚障害があり、前回はダンスのパフォーマーとしてパラトリのステージに立った鹿子澤拳が務める。

2つめは障害のある表現者と多分野のアーティストによる展覧会「そのうち届くラブレター〜わかりあうことの不可能さと、あきらめないことについての考察〜」。これはわかりあうことの不可能さを見据えながら、その絶望を乗り越えていく視点・姿勢をもった6人の作品に対し、8人と1組の表現者たちがそれぞれの方法で彼らの作品への応答を試みるもの。元々は展覧会形式で考えていたというが、今回は感染対策のため、本の形式をとった“読む展覧会”に。この本は横浜市役所で1000部無料配布するほか、公式ウェブサイトでも展開するという。 

8月24日(月)に「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」公開授業を行った横浜市役所アトリウムは、コア会期の際のメイン会場に。
8月24日(月)に「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」公開授業を行った横浜市役所アトリウムは、コア会期の際のリアル会場に。

3つめは「サーカスアニメーション」 と「パラトリみらいサミット」。前者は、両足義足のサーカスアーティストとして活躍するエリン・ボールら世界のサーカスアーティストと、日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバーのパフォーマンスを個別に撮影して編集した作品。後者は「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバーと、みなとみらい本町小学校5年生のこどもたちが、みんなが暮らしやすい街についてともに考える機会となる。 

そして4つめは「食」を切り口に福祉や持続可能な社会について考える「フードラボ」と、「伝えかた」をテーマに多様な立場の人々と学び合う「メディアラボ」。プレ会期からコア会期までオンラインゼミとして配信されるほか、コア会期には横浜市役所アトリウムの特設ステージでリアルイベントも開催する予定だというから楽しみだ。

各プログラムはさまざまな障害を持つ人も、そうでない人も楽しめるように、目でも耳でも楽しめるような内容になるとのこと。また、パラトリではこれまで、福祉と芸術に携わる伴奏者となるアクセスコーディネーター(障害のある人がアート活動に参加するための環境を整える人)とアカンパニスト(障害のある人と一緒に創作活動をする人)の育成に取り組んできたが、栗栖は「今回はそれらの概念・ノウハウ・理念をどれだけ街に広げていけるか。これからは街の中で活躍できるアカンパニストを増やしていきたいし、イベントの中で人材を作るやり方をまとめ、今度はそれを広めていく方法も考えていきたい」とも話す。

「これからはみんな一人一人が持つ異なる個性をしっかり表現しつつ、違う個性を持つ人とどうやって一緒に生きていくかをクリエイティブに考えながら、対話を続けていくことでしか生き延びていけない社会になっていくと思う」という栗栖。私たちが“アカンパニスト”になることは、これからの時代の必然。そのためのヒントも、変則的な形での開催となる今回のパラトリには溢れていそうだ。


「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」
会期:プレ会期 824日(月)〜/コア会期 1118日(水)〜24日(火)
場所:横浜市役所アトリウム(神奈川県横浜市中区本町6-50-10)、オンライン
https://www.paratriennale.net/2020


text : Shiyo Yamashita

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両足義足のエリン・ボール(右下)をはじめとした世界のサーカスアーティストと日本初のソーシャルサーカスカンパニー「SLOW CIRCUS PROJECT」のメンバーが取り組む「サーカスアニメーション」はコア会期に横浜市役所アトリウムで上映、オンラインでも配信。
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総合ディレクターを務める栗栖良依。東京2020開会式・閉会式4式典総合プランニングチームのクリエイティブディレクターも務めている。撮影:加藤甫
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左から「パラトリテレビ」のナビゲーターの中嶋涼子、パラトリテレビディレクター(撮影・編集)の鹿子澤拳、マスコットキャラクターのPちゃんを操るダンサーの熊谷拓明。
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8月24日(月)に「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」公開授業を行った横浜市役所アトリウムは、コア会期の際のリアル会場に。撮影:加藤甫
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キービジュアルを撮影した視覚障害者の写真家、教師、アクティビストのブルース・ホール。
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「ヨコハマ・パラトリエンナーレ2020」のキービジュアル。ブルース・ホールが自閉症の息子が水を掴もうとする瞬間を捉えた写真が使われている。
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