連載4回目となる今回は、NFTアートの最前線で活躍するアーティスト・草野絵美さんとの対談が実現! GUCCIとクリスティーズがコラボしたオークション展示「フューチャー・フリークエンシーズ」において、生成AIを使用した3Dドレスをデザインしたことで話題に。アーティストとしての活動の幅を広げると同時に、2児の母でもある草野さん。奇跡の“ダブルえみ”トークは、未来のデジタル世界を牽引するα世代の「子育て論」に発展!
「Zombi Zoo」から始まる、草野さんとNFTアートの関係性
草野絵美(以下・KE): 今日はお会いできて嬉しいです! ずっとインスタもフォローさせていただいてました。
鈴木えみ(以下・SE): こちらこそ! 私もインスタで作品をいろいろ拝見していました。吉田さんとの面識は……?
吉田(以下・吉田): もちろん私たちの業界で草野さんは誰もが知っている存在ですが、実際にお会いするのは初めてですね。
SE: 改めて、草野さんがアーティストとして現在に至るまでの経緯を教えてもらえますか?
KE: NFTという言葉を知ったのが2021年の2月くらいだったかな。当時、流行ってた音声交流アプリ「クラブハウス」で「クリプト」とか「仮想通貨」とかって言葉を村上隆さんをはじめとするアート界隈のみなさんが喋っているのを耳にして、なんだろう?って思ったのがきっかけです。
吉田: 懐かしい! 話題になりましたよね。
KE: そのとき私がちょうど2人目の子の妊娠後期で身体が動かせなかったのもあって、出産後に自分がやっている音楽プロジェクトのオーディオビジュアルをNFTのマーケットプレイスに出してみようと思ったんです。そしたらそれが実際に売れて。最初はてっきり自分の音楽のファンが買ってくれたのかと思ったら、全然そうじゃなくて。面識のないコレクターの方が買ってくれていたんですよね。そんなこともあって、家族の食卓でNFTの話題をするようになったら、上の息子がポケモンカード買いたいから、やりたいって言い始めたのが「Zombie Zoo」だったんです。
SE: ゾンビ化した動物たちをドット絵で表現している息子さんのNFTアートですよね。
KE: そうです。まずは1000円くらいで20作品出してみたんです。一作品目は美術家のたかくらかずきさん、その後、息子の作品20点くらいが1週間前後で完売、そこからどんどん二次流通が起こっていきます。どんな人が買ってくれたんだろうと追跡したら、バーチャルインフルエンサーのLil Miquelaを手がけるトレバー・マクフェドリーズが買ってくれていて驚きました。お礼のDMしてみたら、実はトレバーの立ち上げた「FWB DAO」というDAO(※1)の中ですごく話題になっていると。そこには、生前のヴァージル・アブローとか、西海岸の音楽系の会社の経営者とかファッション系の人たちがいて、「Zombie Zoo」がミームみたいな感じでめっちゃ流行ってるって教えてくれたんですよ。
吉田: 展開が次々に起こって、すごいですね…!
KE: そしたら今度は世界的DJである、スティーヴ・アオキが3点を6ETH(6イーサリアム・約240万円)で作品を買ってくれて、それは日本でもすごく話題になりました。一見、NFTは難しそうに見えるけど、「小学生にもできるなら私もできるんじゃないか!」って思った人が多かったみたい。
SE: その当時って子供が作ったNFTアートってあったんですか?
KE: 海外ではいくつかあったと思うんですけど、Nyla Hayesとか。でも、「Zombie Zoo」にまつわるニュースが出た後に、子供のNFTが一時期どっと増えたんですよ。でも、子供の絵を売る場所じゃないって段々気づき始めたみたいで、今は落ち着きましたね。
SE: でも本当に、一つのアクションが次のアクションを生んでって感じなんですね。
KE: そうなんですよ。黎明期ならではの体験でした(笑)。でも、息子の情熱はアートだけでなくて、学業や遊びを最優先しています。もちろん、彼が望めば彼をインフルエンサーとして売り出すこともできたのかもしれないけど、あくまで「Zombie Zoo」は本人が楽しくて描いたもので、できるだけプレッシャーかけず、本人の意思をできるだけ尊重して作品として価値を存続していきたいと考えています。本人もまだ遊びの延長で絵を書いてますが、トークンを発行すると責任を伴うので、既存の価値を下げないためにも頻繁にはNFT化はしてないし、本人が発表したいものだけSNSにあげて、展覧会などを中心に活動しています。
※1・DAO…… ブロックチェーン上で世界中の人々が協力して管理・運営される組織。日本語にすると「分散型自律組織」となる。
「NFT」と「アート」の関係性。今もなお、開拓されるNFT業界
吉田: 草野さんご自身のNFTアートはそこからどう展開していったんですか?
KE: 息子の「Zombie Zoo」に肩入れしすぎないためにも、せっかくだし自分でやってみようと思って。ちょうど「Zombie Zoo」のコレクターの一人であったDevin Mancusoから連絡をもらって、何かやらないかと言われていたんですよね。そこで、友人のアニメーター兼イラストレーターである 大平彩華さん、Devinの友人のJack Baldwinを含めて、「新星ギャルバース」をスタートさせたんです。
SE: 「新星ギャルバース」の「ギャル×メタバース×ユニバース」というコンセプトには、どうやって辿りついたんですか?
KE: 私の一番好きな世界観が、ノスタルジックでフューチャリステイックな世界なんです。「架空の過去」というか……。もともとやっていた音楽活動においても、80年代アイドルの格好して、テクノロジーについて歌うとか、インスタレーションでも人工生命の宿ったカラオケマシンを作ったりとか、昔の人が考えた未来感に取り憑かれています。一方の彩華さんも、サイバーパンクな世界観や、レトロな作風を得意としていました。「新星ギャルバース」も私たちが子どもの頃に夢中になった90年代の少女アニメや少年アニメの作風を入れているんです。私たちふたりで共同で原案を書き、その後は脚本家や、コミュニティとアイデアを出し合い、進めています。そして2022年4月に「新星ギャルバース」で8888体のNFTを販売して、その資金をもとに今は本格的なアニメ製作を進めています。最近、世界的なミュージシャン、トーヴ・ロー(Tove Lo)とコラボしてオフィシャルMVをギャルバースアニメの予告編的に出しました。グローバルに反響があって嬉しいです!
吉田: 2021年くらいからNFTアートに関わってきて、マーケットのトレンドの移り変わりは激しく感じますか?
KE: 怒涛の二年間を過ごして、結論、やっぱりアートが一番。一番好きな世界観を夢中で作ってる人しか勝たん!と心から思いますね。トレンドの移り変わりは大きく短期で儲けて、消えていった人もこの2-3年多く見かけましたが、やっぱり好きなものを作ってる人と好きだから推すコレクターが生き残っています。 NFTの何が革命的かというと、トークンと「アーティストを支援する」という大義名分が合わさったことだと思います。アートって究極の非現実を提供してるし、アーティストの頭の中が覗けたり、彼らの推し進めるムーブメントの一部になれることが作品を所有する意味があるんだと思います。
何か、ユーティリティやギミックを加えるのも最初は面白いですが、結局は好きでやり続けるアーティストは、市場がバブルだろうが、作り続けるし、作り続ける人の作品は価値を上げていくんです。 長期的で流動性の高いおひねりと考えるとちょうどいい感じがあります。もちろんギャルバースのような大規模なPFP(※3)コレクションは去年だからできた気がするし、高額だったコレクションのフロアプライスの多くは減少しています。それを冬の時代がきたと幻滅する人もいますが、私には今現代アートの世界やファッションブランドなどが参入し始めてきて、非常に新たな波が来てると感じてます。また、ジェネレーティブAIも黎明期なので先頭に立ってる感、開拓してる楽しさがありますね。
SE:勇者ですね〜。
NFTアート×ファッション! 草野さんが描く、新しい世界
SE: いつも感じるんですけど、デジタル界隈の皆さんは時の流れが早い! 最近私はスローライフを楽しんじゃってるから、余計そう思いますね。
KE: この2週間で展示のリクエストが13個くらいあって、年内はほとんど埋まりました。
SE: 聞いてるだけで5歳くらい老けそう(笑)。
KE: この夏もいろんな企画があって。一つはGUCCIと英国のオークションハウスクリスティーズとのコラボレーション企画展示で、デジタルドレス「Shinjitai」を生成AIを使ってデザインしました。これは落札すると3Dファイルを受け取れて、メタバース上での展示やアバターへの着せ替えが可能というものです。実際手に取れるものとしては、デジタルドレスと同じ刺繍やプリントがされた程度の生地のロールを受け取る権利ももらえます。アーティストのクレア・シルバーと一緒に共同で制作したんですが、その出会いも、実は今年の5月なんですよ。
SE: めちゃくちゃ最近!
KE: 5月にジェネレーティブアートの祭典「Bright Moments Tokyo」(※4)があって、そこに彼女が来日していたんですね。その時に彼女と話してみたかったので、対談の機会をForbes JAPANに売り込んで。それがきっかけなんです。彼女も日本の原宿カルチャーとかが好きで、「今グッチのAIドレスの企画を進行しているだけど、一緒にやらない?」と声をかけていただいたんです。で、その日1日、ホテルで一緒に作業して。そしたら偶然、その翌週にポルトガルでイベントがあってそこにお互い招待されていたので、そこでも一緒に作業して残りはオンラインで進めました。クレアが3Dで繋ぎ合わせて、私はとにかく資料を何千枚と出して、肩パットはこういう感じとか袖はとか…みたいな感じでパーツを決めていきました。
吉田:「DressX」(※4)みたいに着られたりするんですか?
KE: はい、購入いただければバーチャルで着ることができます!作品はクリスティーズのWebサイト上で公開されています。3Dデータと一緒にその布がセットなっていて、35ETH(35イーサリアム・約800万円)から購入できるんです。
SE: 実際、忙しい中で、ご自身のスケジュールってどうやって管理してるんですか?
KE: 私は全てをカレンダーアプリに入れています。“余白”、とか“子供との時間”とか。あとは、“5つのことに感謝する”という時間も、毎朝スケジュールに入れています。あとは“目標”とか入れて、毎日リマインドしたり。
SE: なんと、そういうことも入れてるんですね! 5つの感謝って、子供が可愛くてありがとう!とか、今日も私が素敵!とかでもいいんですか(笑)?
KE: そう、なんでもいいんですよ。できれば声に出して言ってみるようにしています。
SE: でもそうやって幸せを再認識することって大切ですよね。メンタルの安定に繋がるし。いい意味で自己肯定感を高めるってすごく大事。
KE: そうですね!
※4・Bright Moments Tokyo…… 世界中でデジタルアートとNFT作品のIRL Minting(IRL=In Real Life, 現実世界での収集体験)ができるギャラリーを創り出し、NFTの可能性を拡大するコミュニティー。東京でも2023年の5月5日~12日に渋谷パルコDGビル にて開催された。
※5・DressX……アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするデジタルファッションストアであり、現在デジタル・オンリーの衣服、NFTファッションアイテム、ARルックを取り扱うメタクローゼットを展開している。
進化する、デジタルネイティブ世代の子育て論
SE: 子育てに関しては、気をつけていることってありますか?
KE: 子供はときどき自分の分身に見えてしまうこともあるけど、彼らの意思の尊重してあげないといけないなと常々思っています。実は昨年子育て本を描いたんですけど、それが息子が小4から小5になったら全部覆されて(笑)。
SE: そんな急激に!?
KE: 今までは勉強して欲しいこともたくさんあって、知育系のアプリとかをすごく調べていたけれど、もうそれが全然通用しなくなって。プチ反抗期と言いますか。でもそんな中でも彼と濃い時間を過ごしたい、楽しい時間をたくさんつくらないとなと思っています。
だから彼が興味を持っていることを一緒に知ろうと思って、スマブラの新しい技について調べるとか、一生懸命でも割と楽しんでやってます。
SE: うちは小3の女の子で、まだ成長過程においてそんなにガラッとした変化もなく、全然手もかからないんですけど、これからどうなっていくのかな?と思います。男女の違いもすごくありますよね。結局どんな親でも、子供の“好き”を伸ばしてすくすく育ってほしいって気持ちは一緒じゃないですか。でもそれを勝手に伸ばしてくれっていうのは無理があって、親としてどんな引き出しやカードを与えてあげるか、それが自分たちの役割だっだなって思うんですよね。あくまでさりげなくですけど。
KE: 本当にそうですよね。興味を持っていそうなことについて、関連の本を買っておいてそっと置いておくとか。無理強いさせないことって重要ですよね。もしかしたらこの気持ちは自分のエゴかもしれないし、本当にこの子のため?と常にダブルチェックするようにしています。
SE: 子供との普段の会話や行動で、気にかけていることありますか?
KE: 会話の中で自分がステレオタイプの言い方をしてないかは気をつけていますね。男の子だから、とか女の子だからとか、あとは細かいことで言うと、虫とか見て怖いとか、もできるだけ控えるようにしてました。子供にとってはそれが全てになっちゃうから。
SE: 私は虫をめっちゃくちゃ怖がっちゃうけど(笑)、でも私も普段の会話でジェンダーに関して決めつけるような発言は気をつけるようにしています。
KE:あとは仕事が楽しいとか、自分の背中を見せること。大人は勉強しなくていいの?って言われないように、夫も私も勉強する姿勢を見せたり。
SE: 素晴らしいですね!
吉田: 子供たちの世代を踏まえてると、今後のデジタル世界ってどんな風に見えてきますか?
KE: 例えばチャットGPTとかを私が触ってて、これを彼らがマスターするって考えると、今まで勉強してきたこととどう関連して、何をAIに委ねるようになるんだろう、と思います。息子はNetflixを無駄なシーンを飛ばしたり、1.5倍速で観ているんですけど、「なんで早送りするの?」とかも言わないようにしています。彼らの世代ってよく「暇だ〜」って言うんですよ。
SE: それはうちの娘も一緒ですね。
KE: あと、現実世界での物欲が全然ないんですよね。確か世界の子供のクリスマスに欲しいものランキングっていうのがあって、それもほとんどデジタルアセットだと聞いたことあります。アップルカードだったり、スマブラの課金キャラとか、フォートナイトのスキンがほしい。モノに執着がないから、ポケモンカードも流通したらいくらになるかなとか、常に調べています。売買目的じゃなくても、ポケモンカードっていうものに市場が存在してるってことを彼らはもう知ってるんですよ。
吉田: α世代ですよね。その人たちが10年で社会に出てくるんですもんね。
KE: そう考えると、NFTの概念とかもスッと入ってくるんだろうなって思います。息子はレゴを見て、これマインクラフトのフィジカル版だねって言ってましたから。
SE: うちの娘も友人が隣にいてもゲーム内で会ってますね。小学校世界のほとんどをコロナ禍で過ごしたっていうのも大きいですよね。
KE: そうですね。ほんと、一周りも二周りも違う人と暮らしていると未来が見えますよ。NFTやメタバースが今ピンとこなくても、彼らを見ているとなんとなくわかってきます。
吉田: そうやって考えると子供たちとのコミュニケーションもより面白いですね。NFTアートのマーケットの未来に関してはどのように見ていますか?
KE: インフラが整い始めてきたら、いよいよ気づかないうちにあらゆるデータがブロックチェーンで紐づけられていた、という世界が来るのかなと想像しています。今はまだ脆弱性や使いづらさなどさまざまな課題があります。しかし、デジタルファッションアイテムなどの普及や、アート業界がよりこちらの世界と融合し始めると変わってくるのかと思います。
未来のことは何も分かりませんが、アーティストがコレクターと繋がる素晴らしいツールであることは間違いないです。よりアート性が高いものも増えていくんじゃ無いかなと思います。
SE: 本質的であり、ピュアなものが残っていくんですかね。
KE: そんな気がしてます!
SE: 今日は知りたいことがあって思わず質問攻めにしちゃいましたね。私も草野さんのお話がすごく刺激になりました! 今日はありがとうございました。