【後編】山崎ナオコーラ×バービーSpecial Talk/自分を肯定して生きていく方法とは?

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「性差別に怒れない自分が嫌」「ジェンダーとは?」「おっぱいがあり、生理のある自分の身体は好きですか?」読者からのお悩み相談、すべて答えます!

男性の家事と時代性

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質問1ナオコーラさんの著書では子育てをしたい男性が多いと書いていらっしゃいましたが、うちの夫は名誉長男。しかも共働きです。私が甘やかしてしまったからか、妊娠中も産後も家事育児なにもしません。若くて元気な時は良かったのですが、さすがに腹が立ってきました。どうしたら良いでしょうか。

バービー 私の友達で、「ダンナさんが家事を全然手伝わなくて困る」と言いながら、夜遊びに行く時もちゃんと食事の支度をして出てくる人がいます。「ちゃんと食べてるかしら」とか「帰って来いと言われたから帰るわ」とか。相手も大人なんだから、食べたいものを食べるよと言っても「心配だから」って。本気で状況を変えたいと思うなら、そういうところから変えていった方がいいんじゃないかと思うんですけどね。

山崎 さっき、私のまわりではあまりないと言いましたが、夫はそんなに家事を教えてもらってこなかったんだなあと思うことがあって。お義母さんはすごくいい人なんですが、時代なんでしょうね。性別で家事を教えるか教えないか。その男性がどんなにいい人でも、時代によってそうなっちゃう可能性は結構ある気がします。

バービー そうですね。そしてそれをお子さんの時代にまで残さないよう、努力すべきだと思います。

山崎 あとは自信を持つのも大事ですね。主婦の方ってついつい頑張り過ぎちゃって、私がダメだからなんじゃないかって自信を失いがちだけど、そんなことはないんですよ。もっと堂々として、料理を作ったら「一番美味しいのは自分が食べる!」くらいに振る舞っていいし、嫌だったらノーと言っていい。

バービー うんうん。

山崎 義理の両親との関係でも、よく「夫を通して言ってもらいましょう」というアドバイスを耳にしますが、直接言ったほうがちゃんと人間関係を作れるんですよ。目上の人に意見を言ったらいけないと刷り込まれているけど、私は言ってもいいと思います。

怒れない自分にうちひしがれる

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質問2ジェンダーに関する差別を受けた際に、怒れないで、うちひしがれてしまう自分がいます。お二人はそのような場面でどのように対処されてきましたか?

 バービー 私は個人で生きてきた人間だからアレですけど、ずっと団体に所属してハラスメントに遭いながらも抜け出せないのはいろんな事情も有ると思いますが、それでずっと辛い思いをするくらいなら思いきって口に出す事や、抜け出す事も一つの方法かとおもうんです。

 山崎 はい。

 バービー 私なんか、そういうことを口にし始めてから全然言われなくなりました。時代が変わったのもあるんでしょうね。私のまわりでも皆さん言動に気をつけながらやっています。もう腫れ物扱いなのかもしれませんけど、自分で行動を起こせば少しずつ変わってくるし、そういうコミュニティを抜け出すのもいいかなあと思いました。

 山崎 コミュニティを、いくつか掛け持ちしているといいんですよね。ひとつところにいると、それが社会のすべてになって居場所がなくなったような気持ちになるけど、いくつかあれば、ここがダメならあっちへ行こうと思えて気が楽になる。

 バービー 私の場合、いろいろ言われたことで溜まっていた怒りが噴き出したのが28歳の時。しばらくの間、歩く時の目つきがやさぐれていましたもんね。「男め!」みたいな感じで(笑)。でも時代も変わったし私自身もいろいろ経験して、その人たちだけが悪かったわけじゃないなあと思って何とか乗り越えました。

 山崎 そうなんですね。

 バービー 女芸人だし、いわゆるホモソーシャル的なターゲットになりやすいわけですよ。集団のなかに一人だけ女、ということもたくさんありましたし。ああいう空気って、男性集団の上の人が言わない限り変わらないと思うんです。

 山崎 はい。

 バービー でも今はもう上も言うし、社会の状況も変わりつつある。だからもう謝ってほしいという気持ちもないですし、攻撃するつもりもない。その時に言えば良かったな、とも思いません。そういう時代だったから。でも、今まさにそういう誹謗中傷を受けているなら、「怒ったほうがいいんじゃない?」と言いますけどね。

怒れない自分を肯定しよう

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山崎 後から「怒ればよかった」と思う展開って、すごくあると思います。職場で「○○ちゃんはブスだけど仕事はできるよね」みたいな言葉を耳にした時に、「『ブスだけど』はいらないじゃん」って。男性だったら言われないよねって。反対に「美人だからできたんでしょ?」も、ジェンダーに関わる差別ですよね。

 バービー そうですね。

 山崎 他の人のうわさ話を聞いた時も、同調圧力というか、その場のノリで適当な薄ら笑いで済ませてしまって、後から「ああ~」と思うこともありますし。

 バービー あります、あります。

 山崎 だから「怒れない」というのはすごく理解できるし、「怒らなきゃダメだよ」という言葉は言っちゃいけないと思うんです。後になって「怒れなかった自分がすごく嫌だ」というのはあるでしょうが、その怒れない自分を肯定しなくちゃいけない。人間とうのはこういうものなんだと。

 バービー なるほど。

 山崎 あと、怒らなくても小さい声でボソッと言うのは、私は頑張るようにしています(笑)。大きな声で「それは違うと思います」とか「そんなこと言われたくないです」というのはハードルが高いので。相手に聞こえないくらいの小さな声で言うだけでも、相手から何の反応もなくても、自分としては「ちょっと反論したぞ」みたいな。(笑)

 バービー 確かに。行動できた自分がいるぞ、という感じになりますね。

 山崎 それすら言えなかったら、せめてうなずかないとか。皆でワイワイやっている時に「これは差別的なシーンだな」と感じた時に、せめてうなずかない、またはボソッと反論するだけでも自己肯定感につながる気がして。それだけでも自分を褒めてあげていいのかなと思います。

嫌な時は「は?」と強めに

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バービー 「あのとき怒ればよかった」を、どこかで吐き出せたら一番スッキリするんだけどなあ。溜まって溜まって、自分さえも毒しちゃうときがあるから。その場で言えたり、瞬発的に怒れたりする人ってとても楽ですよね。

 山崎 性被害も言われがちですよね。「その場でやめてくださいって言わなきゃダメなんだよ」とか「はっきりノーと言わなかったから」とか言われて、後からセカンドレイプが起こったり。でも、その場で言うって難しいんですよ。空気感があるから。

 バービー 私は本当に嫌な時は「は?」を強めに言います(笑)。あとは帰っちゃうかもしれない。

 山崎 それいいですね! 今は「嫌なことからは逃げろ」と言われますもんね。「は?」は一語だし、言った側も言った感がありますし。(笑)

 バービー 職場だと結構ハードル高いけど、友達とのシーンだったらいけそうな気がします。あとは怒った時こそSNSの裏アカウントですよ(笑)。そこでこっそり怒って、同じ価値観の人たちと思いを共有する。いいと思います。

 山崎 表で怒れなかったことを裏アカで怒る。(笑)

 

私たちの性自認

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質問3ナオコーラさんは先日発表されたエッセイの中で、「私は、ジェンダーギャップ(性別による格差)の解消だけではあきたらない。私は、虐げられることのみに反対しているのではない。分けられること、ひとまとめにされることにも反対なのだ。肉体の性別で人間を区分けすること自体に異議を唱えたい。(中略)『これは肉体のことだから、変えようがない』と思い込まされているものも、社会によって作られている可能性がある」と書かれていました。

お二人は改めて、「ジェンダー」という言葉をどのように定義されますか?

 バービー 本にも書いたんですけど、私はたぶん中学生くらいまで、自分のことを男だと思っていたんですね。私の勝手な性自認はゲイなんです(笑)。男で男が好きなんですよ。でも肉体は女だから外から見たら何の違和感もないし、そのカテゴリーのなかで女として分けられていてもまったく構わない。「第三者から見た性別というだけのことなんだから、あなたたちには関係ないでしょ」というスタンスで生きているんですんです。……結局、言いたいことは山崎さんと一緒なのかな。(笑)

 山崎 私の場合、自身の勝手な性自認はノンバイナリーです。性別がない状態で社会生活できるのが一番ありがたい。なので分けるのは好きじゃないです。属性としても言いたくなくて、性別ナシのほうが断然生きやすいですね。ただ、文化として性別があるのはわかりますし、いわゆる女性文化でやるとキラキラできるとか、すごく楽しいという人は実際友達でもいます。それはもちろん否定したくなくて、その路線でやってほしい。できれば共存したいんですよね、分けるのが楽しい人と嫌いな人とで。

 バービー 確かに共存してないですもんね。まだまだ攻撃の対象になりがちで。

 山崎 分けるのは嫌いと言うと、「みんな分けないようにしようよ」という主張に捉えられてしまうのは、私が上手く書けてないからだと思うんですけど、もう少し「分けるのが嫌いな人もいるんだねー」くらいな感じでわかってもらえたら嬉しいと思います。

 バービー 「分けるのが嫌い」というのは、私のなかですごく斬新でした。レッテル貼りされると安心する人が多いなかで、分けるのが嫌いでいられるというのは、強さがないとできないのかなと思うし、この境界線を行ったり来たりするところがすごいと思います。

 

私の体は自分のお気に入りのアイテム

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質問4お二人は、おっぱいがあり、生理がくるご自分の身体は好きですか?

 山崎 バービーさんは、はたから見るとご自分の体を好きそうに見えます。

 バービー よく「ボディポジティブ」をテーマにお話しさせていただく機会があるんですけど、自分の体については「持っているから持ち物としていつくしんでいます」程度で、「好きー!!」っていう感じではないです。自分のお気に入りのアイテム、くらいの感覚でしょうか。

 山崎 私は「あきらめ」が一番しっくりくるかな。「これで生きていくんだ」というあきらめで受け入れている。でも「あきらめ」って、言葉のなかで一番好きなもので、古語では「あきらかにする」という前向きな意味なんですね。だから、自分というものがあきらかになる、というような受け止め方ができる。

 バービー へえ、そうなんですね!

 山崎 おっぱいがあるとか生理があるというのは、あきらめという気持ちで受け止めているものの、重要視しないで生きていけるならそれが一番ありがたい。それこそ小説やエッセイを書くほうが何倍も楽しいから。生理とかPMSとかあるけど、あきらめながらもそういったものと上手くつきあって、社会人として立派にやってのけたい、という感じですかね。

 バービー 外見で生きていく人もいるし、才能で生きていく人もいて、お互いに上手いこと適材適所でやっていけるといいですよね。



お話しいただいたのは……
山崎ナオコーラ 
作家。親。性別非公表。『人のセックスを笑うな』で純文学作家デビュー。今は、1歳と4歳の子どもと暮らしながら東京の田舎で文学活動を行なっている。著書に、育児エッセイ『母ではなくて、親になる』、容姿差別エッセイ『ブスの自信の持ち方』、契約社員小説『「ジューシー」ってなんですか?』、普通の人の小説『反人生』、主夫の時給をテーマにした新感覚経済小説『リボンの男』など。最新刊は『肉体のジェンダーを笑うな』

バービー(フォーリンラブ)
1984年北海道生まれ。2007年、お笑いコンビ「フォーリンラブ」を結成。男女の恋愛模様をネタにした「イエス、フォーリンラブ!」の決め台詞で人気を得る。現在ではTBSラジオ「週末ノオト」パーソナリティを勤め、TBSひるおびコメンテーターや地元北海道の町おこし等にも尽力。FRaU webにて執筆しているエッセイが書籍化。『本音の置き場所』講談社より114日より絶賛発売中。また、バービーのプロデュースで話題を生んだピーチ・ジョンコラボ下着が好評につき第2弾決定!20212月発売予定。さらに、昨年末開設したYouTube「バービーちゃんねる」では285万視聴回数を超える動画もあり好評配信中。

*2020年12月15日に六本木 蔦屋書店で行われたイベント「性別を与えられた私の肉体の本音」にて収録
planning:Ayako Kimura((TSUTAYA BOOKSTORE)text:Keiko Ueda  photography:Satoko Tsuyuki

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