その筆先で描く、明日(みらい)の景色 宇佐崎しろが見つめる世界

今をときめく漫画家・宇佐崎しろが描き下ろしたのは、Mame Kurogouchiの2021年春夏コレクションを身にまとった女性たち。「根拠もないのに、自分は漫画家になると確信していました」。凛とした佇まいで、そう語る瞳の奥には、静かに燃える情熱が透けて見えた。

繊細なレースが施されたドレスをまとい、一歩前へ踏み出す

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ドレス¥280,000/マメ クロゴウチ オンラインストア(マメ クロゴウチ)

Mame Kurogouchiの春夏コレクションのテーマは"窓(Window)"。風に揺れ、光が透けるカーテンのようなシアーな素材や、静謐な世界観が印象的なコレクションだ。ルックからイメージを膨らませたのは、涙をたたえながらも、カーテンをかき分けて前へ進もうとする女性。
「カーテンやレース、窓越しに見る輪郭の曖昧さや、ぼやけた表現に心惹かれます。力強い存在感を放つブラックのドレスを身にまとい、自分と外の世界の輪郭を曖昧にさせるカーテンをかき分けながら、前に進もうと足掻く姿を描きました」(宇佐崎さん)

お互いに自立した女性たちの個性や意思を静かに表現する

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(右)アノラック¥88,000、パンツ¥63,000、ピアス¥39,000(左)コート¥85,000、ベスト¥50,000、ニットブラトップ¥18,000、スカート¥77,000/マメ クロゴウチ オンラインストア(マメ クロゴウチ)

凛としたまなざしで明日を見つめる女性。若さゆえの曖昧さや不安定さを、生地をたっぷりと使ったセットアップが包み込む。傍らには、口もとに余裕の笑みをたたえた初老のマダム。刺しゅうの入ったシアーな素材から見える肌が、ミステリアスなムードを際立たせている。
「年齢も趣味も見ている方向も違う人間同士が一緒にいるとき、お互いに少なからず相手への憧れや尊敬を持っているものです。何もかも違う相手と出会ったときにその人の個性や人生を尊重し、向き合うことができる強い人でありたいです」(宇佐崎さん)

 

Interview With SHIRO USAZAKI

描く行為自体が好きだという宇佐崎さん。「もう描けない」と思うときには素描に立ち返り、また少しずつ自分の情熱を取り戻していく。

 

"創る人、描く人"

 さまざまな感情のグラデーションを湛えたシリアスな瞳。宇佐崎しろさんが描くキャラクターとページ越しに目が合うとハッとする。インタビューの現場に現れた宇佐崎さん自身は軽やかで謙虚、周りの人を和ませるキャラクターの持ち主だった。描く手を緩めることなく新作を発表し、まさに成長曲線のまっただ中にいる彼女に、“創る人”としての情熱について聞いた。

 

「漫画家になりたい」というより、「漫画家になる」と確信していた

 Twitterに投稿していたイラストをきっかけに、4年前に『週刊少年ジャンプ』でデビューし、現在23歳。漫画家を志したのはいつ、何がきっかけだったのか。
「昔から“漫画家になりたい”と思っていたというより、“自分は漫画家になる”と思っていました。そうなることを前提に、学生のころは『きっと連載を始めたら忙しくなるから、今のうちに運動部に入ったり、絵以外のことを経験しておこう』と行動を決めていたくらいです。意味があったのかはわかりませんが(笑)。絵を描き始めたきっかけは、姉の影響です。姉のまねをしていたのが、次第に自分の方がのめりこんでいって、いつの間にか絵の仕事に就きたいと思っていました。天才的に絵が上手いわけでもなく、特に根拠はありませんでしたが、絵を描くのが一番好きで、それ以外の選択肢がありませんでした」

 漫画家という夢に向かって奔走した――根性物語を期待して当時の心情を尋ねると、驚くほどあっさりとした答えが返ってきた。
「仕事にするのだから地力をつけないと、と思って高校時代からクロッキーやデッサンに取り組むようになりました。自分に欠けている技術を補うために必要なこととしてやっていたので、情熱を持って奔走していたかと言われると微妙です。実際にデビューできて、今もこうして活動させていただけていることは、読者の皆様をはじめ、編集部や周囲の人々に支えてもらっているおかげなので、とてもありがたいです」
 2018年には週刊の連載がスタート。連載が始まると、これまで以上に多忙な日々が続く。その当時のプレッシャーは並大抵ではなかった。
「連載中は、精神的にも肉体的にもギリギリでした(苦笑)。私は昔から、〝人に迷惑をかけてはいけない〟という感覚を強く持っていて、特に作画という役割で作品に参加していると、自分の作業が滞ると多くの人に迷惑がかかってしまうので、絶対に自分で止めてはいけないという思いがありました。実際はかなり迷惑をかけていましたが……。他人と連絡を取るのもあまり得意ではなく、相手の状況を気遣いすぎて連絡するのを躊躇してしまいがちです。しかし、原作作画で分かれているとキャラクターや物語の設定を確認しながら進めなくてはならないので、苦手だから避けるということはできません。他人とのコミュニケーションから得た情報や設定を組み込んでキャラクターを作っていくのは好きですが、事務連絡は苦手です。特に原稿中は連絡を返すのが遅くなってしまいます。ただ商業漫画を描いていくためには必要なこととして連載中に練習、矯正したのでその意識は薄れたと思います」

 

筆が進まないときにも、筆を置く、という選択肢はなかった

 漫画家としてデビューし、これまでにさまざまな苦労を経験した。今もその情熱を絶やすことはない宇佐崎さんだが、これまでには「筆が進まない」こともあったという。
「絵を描くという行為自体はすごく好きなのですが、自分の絵が下手だという感覚はいつもあります。自分の絵を好きだと思う気持ちと、下手だと思う気持ちのバランスが崩れて自信を失ってしまうこともありますが、これっきりで筆を置こうと思ったことはないです。筆が進まないときは、無心でクロッキーをします。ひたすら手を動かしていると、感覚がリセットされて、上手くいくとだんだん絵を描くのが楽しくなったり、集中できる状態になっていきます」

 絵を描いていて調子が上がってきたときの心境を、目を輝かせながら話す。心底、創る行為が好きなのだろう。数ある作業の中で、彼女が一番“情熱的”になるのはどんなときだろうか。
「物語が盛り上がってきたときのキャラクターを描くのは楽しいです。あとは自分が好きなラインがあって、例えば顔の下半分から、首周りのあたりです。女性の美しい曲線を表現しやすい部分だと思います。あとは、キャラクター一人ひとりが、物語の中で生き生きとしているシーンを描くときは、私も嬉しくなります」

 

通り過ぎてしまえるものだから、心を捉えるフックをつくりたい

 「目は口ほどに物を言う」ということわざのとおり、宇佐崎しろさんのキャラクターの瞳には繊細な感情が映し出され、見る人の心を捉える。ページをめくっていて次へ進めようとしていたその指を思わず止めてしまうのだ。
「私自身、人と目を合わせるのはあまり得意ではないです。ドキッとするし、緊張してしまいます。ですが、漫画やイラストでは、それを効果的に使えると思ってます。漫画において絵は一瞬で情報を伝えられるのが利点です。しかしその分、立ち止まってほしいところで目を引く魅力的な絵を入れられるかどうかで、上手く画面の緩急を作れるかが決まると思っています。あとは、“怖いものみたさ”のような感情にも興味があります。私自身、ホラー映画が好きなのですが、怖いのに画面から目が離せないときの感覚は抗いがたく、不思議とその体験に魅力を感じます。その感覚をもっとポジティブなものとして体験できるような、少し怖いけど美しくて心惹かれるような瞳を描きたいです」

 また、バーチャルシンガー花譜のセカンドアルバム『魔法β』のジャケットイラストを担当するなど、宇佐崎さんの活躍は、漫画の世界だけにとどまらない。
「しばらくは漫画を描いていきたいですが、いずれ漫画以外のキャラクターデザインにも挑戦してみたいです。ゲームやアニメなどで、自分が描いたキャラクターが、ほかの人の手で描かれ、知らない世界で、私が見たことのない側面を見せながら動き回るところを見てみたいです。キャラクターは作り手に描かれたあとに、読む人の視点や解釈を介することで、より多角的になっていきます。そういうところが面白いと思います」
 創作活動に対し、静かに情熱を燃やす宇佐崎さん。まばゆい光を放つクリエイティビティには未来に向かって歩みを進める力が宿っている。

 

SPECIAL MOVIE

 

profile
うさざき しろ●1997年奈良県生まれ。『週刊少年ジャンプ』2017年9号掲載の「阿佐ヶ谷芸術高校映像科へようこそ」で作画デビュー。『週刊少年ジャンプ』2021年3・4合併号掲載の読み切「炎眼(えんがん)のサイクロプス」を発表するなど、精力的に活動している。

 

SOURCE:SPUR 2021年3月号「その筆先で描く、明日(みらい)の景色 宇佐崎しろが見つめる世界」
artwork: Shiro Usazaki interview & text: Rio Hirai

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