重版出来で7万部突破! 出版イベントで のタイトルイメージ

重版出来で7万部突破! 出版イベントで #三笘薫 選手が語ったこと

三笘薫選手がSPURに初めて登場したのは2021年4月号。サッカー選手として川崎フロンターレでプロデビューし、ぶっちぎりのブレイクを果たしたあとだ。それから2年後、イングランドのプレミアリーグでこれほど鮮やかなデビューシーズンを飾るなんて、想像できていたのは三笘選手本人だけかも。いや、SPURも当時からスターが誕生したと信じていたからこそ、取材したのだ。

どんな分野でもスターが生まれる時にはストーリーが欠かせない。スポーツ選手は特に一瞬の動き、ひとつのプレーが大勢に共有され、たちまちずっと語り継がれるストーリーになる。2022年FIFAワールドカップで日本代表の逆転ゴールのアシストとなった三笘選手のプレーは、「ボールがラインを割ったかどうか」が判定される間、世界中が固唾を飲んだおかげで大会屈指の記憶に残る瞬間となった。

それはプレミア/ブライトン・アンド・ホーヴ・アルビオンでの数々のプレー、FAカップ/リバプール戦での驚異的な決勝ゴールなどとあいまって、ファンやメディアの注目を集めることに。「ミトマって一体誰なんだ?」という好奇心が、“大卒のプロ選手”という彼のプロフィールを前面に押しだしたのだ。

特に卒論でドリブルを取り上げたという話題は、イギリスの記事やポッドキャスト、試合の中継の際にさえ何度も聞いたものだ。イギリス人にとっては大学生がプロ(しかも1部リーグ)の選手になることが想像しづらく、三笘選手にはとにかくプレーにもストーリーにも驚かされる、というのが共通認識なのだろう。 

三笘薫の写真

初の著書『VISION 夢を叶える逆算思考』(1500円+税/双葉社)ではそんな1年間を、三笘選手自身がどう受けとめていたのかがわかる。そしてフロンターレのユースから筑波大学、プロデビュー、そして海外へ——そんなキャリアがたまたまではなく、目標設定と論理の積み重ねで生まれたことが語られている。ここでは6月25日の出版記者発表会で彼自身が話したことを抜粋してお届けしよう。 

三笘薫選手の写真

——このタイトルにはどんな意味がこめられているんでしょうか。 
 
「ここでは僕が小さい頃からプロのサッカー選手という夢を持って、どういうふうに歩んできたかを書いています。いかに目標と逆算思考を持って、いま何をすればいいのかを考えながら歩んできたか。そのストーリーを感じ取っていただければと思っています」 
 
——三笘選手と言えば、「ドリブル」のイメージです。そのドリブルという武器ができた理由もこの本には記されていますが、ドリブルは少年時代から武器だったんでしょうか。 
 
「ドリブル自体は好きだったんですけど、いまほど自分の武器と言える確信はなくて。僕は小さい頃からボランチとか中盤の選手だったので、パスをすることも多かったし、守備もしていました。でも練習するにつれて、ドリブルが武器になればいろんなパスやシュートも生きてくるなと感じたんです。サッカーはシンプルにボールを前に運んで、ゴールに結び付けないといけない。その“ボールを運ぶ”技術の延長線上にドリブルがあると思うんですね。ドリブルもスピードが上がれば難しくなりますが、小さい頃はスピードをあえて下げて、同じタッチでとにかく運ぶ練習をして、体が成長していったらスピードを上げていく形でやっていました」 
 
——川崎フロンターレのジュニアユースにいた時代には目標シートを作り、長期/中期/短期で目標設定をすることが効果的だったと書かれています。これも逆算思考の一環なのでしょうか。 
 
「そこはこの本のメインと言っても過言ではないと思います。サッカー選手になるには目標を自分で見つけて、そのために何をするかを考えることがいちばん大事なので。練習も大事ですけど、そこで何をしなければいけないかを、自分で理解すること。それができないと、ただ練習して毎日を過ごすことになる。なので長期的には、プロのサッカー選手になりたい、どこのリーグでプレイしたい、日本代表になりたい、何歳までになりたい、どんなプレイヤーになりたい——っていうのをどんどん書きだして、言語化する。中期的には、そのためにこういうチームに入りたい、こんなプレーができないといけない、さらに短期的には能力を上げるために自分の体を見つめ直して、たくさんいいものを食べる、何時には就寝するとか。そういう細かいところまで決まってくると思うんです」 
 
——三笘選手はイギリスのメディアで、筑波大学での卒業論文が話題になっています。そこではトラップ(*ボールを止めること)の瞬間についての研究結果も書かれていますね。 
 
「実は、卒業論文についての質問が多すぎて困ってるんです(笑)。トラップは重要です。サッカー選手が試合中にボールを触る時間は、(90分中)2分くらいだと言われていて。それくらいボールを触る時間は少ないのに、それが選手の評価、価値に繋がりやすい。狭いスペースにおいて1回でボールをいい位置に置ける選手と、自分の思うところに置けないから3回プレーしないといけない選手では、1回で置ける選手のほうが価値があるんです。僕は小さい頃から体が細かったので、ばーんと当たったら倒れちゃうんです。なので周りを見て、ファーストタッチで相手のいないところに置く、相手の逆を突くことをずっと意識していました。それがフィジカルも上がったいま、相手を抜けることに繋がっています」 
 
——ただ本の中で、卒論はあくまで論文で、自分のいまのドリブルに役立てているかと言うと、そうではない、という記述もあります。注目されすぎて困ったりもしていましたか? 
 
「卒業論文の質問を受けるたびに『またこれか』とは思っていました(笑)。でもそれは僕自身のバックグラウンドが珍しいところもあるので、仕方ない。逆にそれがたとえば、筑波大学の評価に繋がれば嬉しいし。日本がもっと注目されたのはいいことだと思うんで、そこはポジティブに捉えています」 
 
——カタールのワールドカップでは、普段サッカーに触れない人にまで知られることになる瞬間が生まれました。スペイン代表戦で日本代表を歴史的な勝利に導いた「三笘の1ミリ」。この本ではそれに対して三笘選手が本当に感じていることも書かれています。 
 
「スポーツ以外にまで影響があるのは嬉しい。スポーツというのは、やっぱりそれを通じて勇気をもらったり、行動を起こしたりできるのがいちばんだと思うんです。その意味でワールドカップに大きな意味があるのは、いますごく実感しています」 
 
——現在はプレミアリーグのブライトンで1シーズンを戦い抜いたところです。世界一のインテンシティと言われるリーグは肌で感じてみて、どうでしたか。 
 
「ほとんどの選手が僕よりデカくて、分厚くて。フィジカルの能力が違うなか、どうしたら活躍できるか考えながら過ごしたシーズンでした。プレミアはレベルが高いと言われて、僕もびくびくしながら行きましたけど、プレーすれば負けないところもあって。それは実際に行ってみないとわからない。僕自身、大学からJリーグに行き、そこから海外へ出て、いまプレミアリーグまで来ているので、子どもたちや学生にもそんな可能性があることを見せられれば、と思っています」 

重版出来で7万部突破! 出版イベントで の画像_3

実際、著書にはいまサッカーをやっている子どもたちへのメッセージがたくさん詰まっている。記者会見では、日本代表やブライトンのユニフォームを着た子どもたちが三笘選手に訊いたことが興味深かった。具体的なメソッドというより、主にメンタルについての質問が多かったのだ。 以下は子どもたちからの一問一答。
 
——僕はサッカーの試合前に緊張してしまうのですが、三笘選手は緊張することはありますか。 
 
「僕も試合前は緊張します。それは全然悪いことじゃないし、どんどん緊張して、いろんな経験をしていけばいい。子どもの頃は相手の強さも、どのプレーがうまくいくかもわからないし、緊張しかしないくらいでした。でもこの時はこうだった、あの時はああだった、っていうのを経験していけば、それに慣れてくるし、実際試合をいいものにしたいから緊張するんですよ。そこはポジティブに捉えて、その時に起きたことをあとで振り返って、できることを増やしていけばいい。それが自信になって、緊張することが少なくなっていくと思います」 
 
——僕は3年前、コロナで外に出られなかった時に初めて三笘選手のサッカーを見てサッカーを始めました。いまもどうしたら三笘選手みたいなドリブルやシュートができるか、見て練習しています。僕はドリブルは得意だけど、試合で一対一になると(ボールを相手に)取られるのが怖いのですが、三笘選手は小学生の頃、どんな練習をしていましたか。 
 
「僕も一対一になると、正直、いまでもボールを取られるのが怖いです。でもいろんな抜きかたを知って、バリエーションを練習すると自信がついてくる。そういう自信がある時に仕掛けているだけで、毎回仕掛けるわけじゃない。自信がない時はバックパスしてます(笑)。それは練習でたくさん仕掛けて自信をつけていかないと、いつもやらないことを試合でやっても結局はできないんですよね。とにかく、一対一で相手を抜くことを楽しんでほしい。僕もネイマール選手を見て、楽しんでいるプレーはいいなあと思って練習したので。僕を見て練習するのもいいし、自分なりの抜きかたを見つけてほしいです」 
 
——私は小学2年生からサッカーをやっています。練習の時にできることが試合だと緊張してうまくいきません。三笘選手はどうやって試合でやれるようにしていますか。 
 
「基本的に、練習でできることも試合ではできないと思ったほうがいい。ひとりでできることでも、チームスポーツで11人対11人になるとできなくなります。ミスが当たり前だと思ったほうがいい。でもそこで『もう練習したくない』ってなるんじゃなくて、『できないから、もっと練習しよう』と思ってほしいし、練習は嘘をつかない。逆に練習でできないことは試合でできない、っていうのは、僕も確実にそうです。基本的にはやりつづけないと試合でも(成果は)出ないし、それが出るまでやってほしい。僕もミスを繰り返して、『練習なんて意味があるのかな』と思ったこともあるけど、練習の成果が試合で出た時の喜びは自分にしかわからないんですよ。他の人には絶対わからない。その成功体験を積み重ねていけばもっとうまくなると思います」 

三笘薫の写真

子どもたちには「サッカーを通じて、人生のきっかけにもなるようなポジティブなスイッチを入れてほしい」と言う三笘選手だが、本人はいままさにスイッチが入った状態。来シーズンはイングランドだけでなく、ヨーロッパリーグという欧州の舞台も待っているが、注目されたからこそ周囲の期待が高まり、対戦相手の対策もキツくなるだろう。

でもそのプレッシャーを乗り越えられるかどうかが本当の勝負どころ。「代表でもクラブでも『こいつに預ければなんとかしてくれる』と思ってもらえるような、存在感のある選手になりたい」と語る彼の、さらなるスケールアップを楽しみにしていよう。 

FEATURE