「中国の今」が分かる! 最新ファッション&カルチャーレポート

SPUR2019年5月号の「中国の若者は、ショッパーを持たない」企画で、隣国のデジタル化にフォーカスして早5年。コロナ禍を経て、トレンドには大きな変化が生まれている。’19年までをファッションの成長期とするならば、’20年以降はまさに転換期。ビジネスやITの話はよく耳にするけれど、ファッション&カルチャーはどうなっている? 中国のシーンに精通するプロデューサー・陳暁夏代さんを迎え、上海から現地のリアルを独占取材!

SPUR2019年5月号の「中国の若者は、ショッパーを持たない」企画で、隣国のデジタル化にフォーカスして早5年。コロナ禍を経て、トレンドには大きな変化が生まれている。’19年までをファッションの成長期とするならば、’20年以降はまさに転換期。ビジネスやITの話はよく耳にするけれど、ファッション&カルチャーはどうなっている? 中国のシーンに精通するプロデューサー・陳暁夏代さんを迎え、上海から現地のリアルを独占取材!

陳暁夏代(プロデューサー)プロフィール画像
陳暁夏代(プロデューサー)

日本と中国を拠点に活動するプロデューサー、クリエイティブディレクター。日中双方のカルチャーやトレンドを常にキャッチアップし分析。その知見を生かし、ブランディングやマーケティングなどで幅広く活躍する。2019年の中国特集では、ファッション界を取り巻く現象を解説、読者の反響を呼んだ。

ファッションの2大キーワードは「新中式」&「亚比(yabi)」

中華要素をインストールし、伝統衣装を新たに解釈

今、中国のストリートを代表するスタイルは大きく二分されている。トラディショナルな中華要素を取り入れた「新中式」と、“中華ギャル”ともいえるヒッピー・アイデンティティを表現する「亚比(yabi)」ファッションだ。

新中式は直訳すると“ニューチャイナスタイル”。2021年頃から、古典的なチャイナドレスを現代的にアレンジした国内ブランドの新興により、カテゴリー化した。東洋的な美学を感じさせるものとして、中国結びや刺しゅうなどのディテールを取り入れた日常的な服から、ハレの日のドレスまで多くのブランドがこのスタイルを提案している。

新中式ファッションの購買層は、18〜34歳が全体のおよそ7割。中国伝統文化を映し出すデザインの美しさが、独自性を求める若者を惹きつけている。代表的なブランドには、セレブリティからの人気が厚いM essential(1・2)や東洋の視点を織り交ぜつつヨーロッパで発表するUMA WANG(3・4)、中国少数民族の伝統工芸をモダンに解釈したZHUCHONGYUN(5・6)や、soft mountains(7・8)などがある。

もともと、2015年頃に出現した“国潮(中国伝統文化と現代文化を融合させたカルチャートレンド)”の延長線上にある新中式。洋服以外にも、喫茶とインテリアなどの領域でも多く見られる。国潮も新中式も、伝統やしきたりに根差しつつ、新時代らしくカジュアルに楽しめるスタイルに進化し、広がりを見せた。

M essential

M essential
photo: @M essential(小红书)

1・2 天津美術学院とロンドンで学んだMuki Maが立ち上げた。東洋の美学と卓越した職人技を融合した、繊細でエレガントなウェアを発表

UMA WANG

UMA WANG
photo: umawang.com

3・4 2009年に中国出身のUma Wangによりローンチ。現在はパリで発表を続けている。ニットと布帛の融合をはじめ、素材使いが特徴的

ZHUCHONGYUN

ZHUCHONGYUN
photo by ZHUCHONGYUN

5・6 デザイナーのChongyun Zhuが2013年に設立。貴州省などに住む「ミャオ(苗)族」を訪ね、伝統文化をモダンに解釈したコレクションを継続的に製作

soft mountains

soft mountains
photo by soft mountains

7・8 2017年設立のジュエリーブランド。デザイナーのZiwei Longhongの背景にある少数民族「イ(彝)族」の文化を、現地の職人技とともに伝える

 

アイデンティティを体現する21世紀の“中華ギャル”

2022年頃から広がりを見せるトレンド、yabi。個性的で媚びず、自由。多様性にも重きを置いている。厚化粧、独創的なヘアスタイル、ミニスカート、厚底ブーツ、ローライズデニム、ダメージ加工、お腹見せ、ファーアイテム……。90年代後半~2000年代のビジュアル系、Y2K、パンク、ゴスロリ、ギャルなどさまざまなカルチャーをコラージュしているのが特徴的だ。それを下支えするかのように、近年中国では古着市場が盛り上がっている。中でも90年代のジャンポール・ゴルチエやコム デ ギャルソン、ヴィヴィアン・ウエストウッドなどのエッジィなアイテムが人気を集めている。

中国全土で100人以上のyabiへのインタビューを実施し、自身もファッションアイコンのjuejue(13)は「そもそもyabiには固定の価値観がなく、考えすぎず好きなスタイルを着るのが大事!」と語る。yabiは単なるトレンドではなく、現代の中国で「周りの目を気にせず、己の好きを生きる」、Z世代の精神性が表現された視覚言語ともいえる。

“亚比”の“亚”は中国語で“亚文化(サブカルチャー)”に由来する、サブを意味する言葉。過去10年の中国の急成長と好景気で、国内ではある種のモテや美を表現する赤文字系ファッションが中心に。それに対するカウンターとして徐々に形成されてきた、経済のネクストフェーズを捉えたファッション現象でもある。転換期に現れた、新時代の象徴がまさに“中華ギャル”なのだ。

「中国の今」が分かる! 最新ファッションの画像_5

9 中国のSNS、小红书(通称RED)のアカウントのプロフィール文には「yabiとして生きる」との宣言が。渋谷のギャル要素もミックス
10 アートピースのようなブーツ($3,450)は中国ブランドのWINDOWSEN。厚底は装いに不可欠
11 褪せた色合いがヴィンテージ調のミニドレス。¥66,000/MATT.(YUEQI QI)

「中国の今」が分かる! 最新ファッションの画像_6

12 自身の着こなしを発信するインフルエンサーのmatchaqiu。ドレスはKEITA MARUYAMA、ブーツはY/Project×UGG®

13 juejue(左)は各地のストリートやイベントで"超级采访(スーパーインタビュー)"を実施。「第一印象でビビッとくるエナジーを感じる人がいたらインタビューしなきゃ!と思う。ひと目惚れに近いかも」
14 猫のハンドルが愛嬌たっぷりなCFIERCEのバッグ($203)もyabiらしい

15 タイトなドレスには人の顔のプリントが。さりげなくもインパクトを放つ

古着ストリート、永康路をCHECK! ‘YABI’ VINTAGE SHOPS IN SHANGHAI

Swing vintage

Swing vintage
"中華ギャル"をリードするショップ。古着とセレクトとハンドメイドの3ラインを展開する。犬のロゴが目印。近隣に系列店の「SwIng Concept」もあり。
上海市徐汇区永康路121号
営業時間:12時〜21時

永康路111

永康路111
住所が店名代わりの一軒。"森ガール"テイストからゴスロリまで幅広く、店内の物量も圧倒的。オーナーの手編みや植物染めのハンドメイドアイテムもおすすめ。
上海市徐汇区永康路111号
営業時間:13時〜21時

Liquid Vintage

Liquid Vintage
「Formless」から近い。店内のインテリアはどこか80年代の香港映画を彷彿とさせるアジアンテイスト。チャイナドレスからゴシック服までが調和している。
上海市徐汇区永康路149号
営業時間:13時〜21時

Formless

Formless
yabiトレンドを牽引し、matchaqiu(12)もこちらを訪れていたところをキャッチ。ジャンポール・ゴルチエや日本ブランドの古着も充実の品揃えで見ごたえあり。
上海市徐汇区永康路189号
営業時間:13時〜22時

フレグランスは国内ブランドが新興!

香气

東洋の香りを世界に!シーンを形成する3ブランド

中国のビューティ・スキンケア産業が成長する中、現在もっとも注目されているのがフレグランスだ。きっかけはコロナ禍のステイホームにおける必須アイテムとして、アロマキャンドルが注目を浴びたこと。

さらに近年の景気悪化による経済競争の激化や、社会への精神的なストレスからメディテーション需要が高まり、香りを軸とする国産ブランドが次々とローンチされた。新型コロナウイルスの状況が改善して以降も増え続けており、市場が過熱している。その勢いは、次の香水のフロンティアは中国である、と言われるほど。

特徴は自国文化を生かしたプロダクトデザインと、中国茶や漢方など親しみのある“中国の香り”を軸に開発していること。経済成長に伴い、若い富裕層をターゲットとした高価格帯のブランド展開が目立っている。ここではそんなマーケットを牽引する主要なプレーヤー、DOCUMENTS、melt season、to summerを紹介しよう。共通するのは、中国らしい世界観を取り入れつつ、ブランドストーリーを確立していること。鉄観音やプーアールなど中国茶の香りをブレンドし、オーガニックで強すぎないムードが支持を集めている。またリキッドタイプのオードトワレとは別に香袋やお香、キャンドル、オイル、カーディフューザーに至るまで多様に展開。暮らしのシーンに合わせて楽しむことができる。

DOCUMENTS/闻献

DOCUMENTS/闻献

モードなビジュアルとともに"記憶に残る香り"を表現
東洋的な落ち着き=「禅」と現代的な洗練=「酷(クール)」を掛け合わせた「禅酷(CHANKU)」をコンセプトに、プロダクトから香りまでモダンなデザインを展開する。中国由来の原料を用いたオリエンタルなフレグランスシリーズがシグネチャー。15%〜40%という高濃度な香料配合率も特徴で、Z世代の若者に人気を博している。エッジのきいたビジュアルもこのブランドならでは。

1 「仙(XIAN)」コレクションの先鋭的なビジュアル。モデルを起用し「逐浪山(THUNDER)」の巨大ボトルを携えた

DOCUMENTS/闻献

2 古くから長寿、強靭さなどの意味をもつ亀をモチーフにしたマスコットサシェ
3 香水「午月升(ECLIPSE)」。"真昼の日食"を表現した神秘的なフローラルムスク
4 "畳の部屋の外に広がる、静かな庭園"がコンセプトの「SENSITIVE」。フレッシュで繊細なグリーンノート
5 旗艦店のラインナップ

melt season

melt season

エレガントな美意識に個性を忍ばせて
2020年にLishi Niが立ち上げた。ラグジュアリーラインとベーシックラインのふたつのシリーズが販売されており、合計10種類の香水がラインナップ。「面纱(ヴェール)」「第三人称(第三者)」「珍珠少女(パールガール)」「无人知晓(誰も知らない)」「念(思い)」など耽美でユニークな世界観を香りに落とし込んでいる。現在コンセプトショップは北京や上海に3店舗あり、各地のモール内などにも出店している。

6 仏調香師、オリヴィエ・クレスプと手がけた「珍珠少女」はホワイトピオニー(白茶)に始まり、ムスクやベチバーが上品な重厚感を加える
7 中国のTVシリーズ「To The Wonder」とコラボレーションした2024年春夏の香り「ROAMING WIND」
8 2023年7月にオープンした静安ケリーセンターの店舗

melt season

9 「SIREN」シリーズのビジュアル。東洋哲学で重要な"水"はブランドを構成するキーワードのひとつ

to summer/观夏

to summer/观夏

想像をかき立てる、詩的なストーリーテリング
2018年に北京で創業された、to summer。中国茶や竹、菊、松など"東洋の香り"をコンセプトにしたフレグランス、そして伝統文化をモチーフとしたモダンな世界観で知られる。香水、ホームフレグランス、ボディケア商品を展開し、北京、上海、杭州、南京、成都、無錫に12店舗を構える。それぞれ上海の老舗洋館や北京の古民家のリノベーションなど、地域ごとに特色ある建築でショップ設計を行なっているのも見どころだ。

10 桃の葉、ジャスミンやホワイトムスクなどが清らかな「至简之水」。ミニマルな調香で表現した
11 上海で2番目にオープンした外灘(The Bund)の店舗
12 ビューティブランドの雙妹(Shanghai VIVE)とコラボレーションした「475号百货」。グリーンアップルにジャスミンローズ、パチョリを加えしっとりと重みあるムードに
13 キャンドルを紹介するビジュアル

to summer/观夏

14 ウッディでオリエンタルな「昆仑煮雪」。ビジュアルから情緒的な感性が伝わる

to summer/观夏

15 1930年代築のスペイン邸宅を改装した上海初店舗「闲庭」 
16 ハンドスパのポップアップ。藁の什器が自然光と調和する

Interview with Shen Li (沈黎)/「to summer」co-founder

Shen Li (沈黎)

「中国は唐宋時代以来“香り大国”です。かつては風雅な生活様式の集大成でもありました。香りはただ化学成分を配合したものではなく、私たちの文化や民族、暮らしの記憶を伝えるツールなんです」

そう語るのは、編集者としてキャリアを積んだ創設者のひとり、Shen Li。立ち上げのきっかけは、チームで香水ブランドを巡った際、中国の要素、特に茶の香りをうまく表現したものが見つからなかったこと。「ならば自分たちで理想の香りを作ろうというのが始まりでした」

開発にあたり、まずは雲南省を起点に、雲南景迈普洱茶を栽培するラフ(拉祜)族の茶農家や茶摘みの女性と深く話し合い、丹念にリサーチ。そこから、理想の中国茶の香りを作るべく国内を奔走した。
「雲南、広西、湖北、四川、吉林など各地で珍しい香料成分を採取しました。その旅の記憶と、中国古来の山水画などを手がかりに、世界のトップクラスの調香師とともにモダンな東洋のフレグランスに仕上げています」

路面店の設計においても東洋美へのまなざしは一貫し、自国文化を伝えるべく、歴史的建造物をリノベーション。「若者にはショッピングモールだけでなく、日々を過ごす土地や街、文化背景に関心を寄せてほしい」との思いも。製品のみならず、店舗もぜひチェックしたい。

 

Profile
中国版『Harper’s BAZAAR』誌に携わった後、2018年に化粧品EC販売の刘惠璞、デザイナーKhoonとともに3人でフレグランスブランド、to summerをスタート。

2024年、上海の若者のライフスタイルは"慢"が合言葉

くつろいだライフスタイルがアフターコロナの新潮流

約3年間のコロナ禍を経て、ライフスタイルブランドやメディテーション需要が急激に増加するなど、生活様式にも大きな変化が起きている。キーワードは“慢”(=スローライフ)。3つの切り口で紹介したい。

2015〜’19 年頃は経済が急成長したバブル期。忙しなく日々を送るのが一般的だったが、コロナ禍以降は景気もスローダウンし、リラックス、チル、メディテーションなど落ち着いたひとときを過ごすことに重きを置く人が増加中。国内旅行でも、都市部より山や海などバケーションエリアの人気が高まっている。

上海の街中では平日の昼間から路上のテラス席でゆっくりお茶を楽しむ若者の姿が見られ、週末になるとナイトライフには以前のようなにぎわいが。また近年、ブランドを新たに立ち上げる若者が増え、アパレルから雑貨まで多様にラインナップ。そんな小規模なレーベルが集う週末のポップアップ「集市」も、各地でにぎわいを見せている。ゆったりとした暮らしを楽しむスタイルが、今の中国を象徴している。

ストリートティータイム

「中国の今」が分かる! 最新ファッションの画像_19

中国人にとって、お茶は生活の一部。2010〜’20年までの過去10年間は、景気の向上とともに嗜好品としてのミルクティーやテイクアウトコーヒーが席巻。アフターコロナは、以前のような大人数の食事会や"タイパ"的生活より、少人数でじっくり会話ができる茶文化が改めて注目されている。また、新中式の影響もありチェーン型の「BASAO」や「tea’stone」から個人店まで、街中には幅広く茶寮や喫茶店が出現。道を歩けばテラス席でくつろぐ若者の姿が見られる。

1 一度"お茶離れ"した若者にその価値を再発見してもらうミッションを掲げた「tea’stone」。ガラスの茶器の提案も
2 「枕山咖啡」(襄阳南路381号)にて、ゆったり路上でくつろぐひととき。談笑を楽しむ人でにぎわう

週末は「集市」でお買い物

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「集市」とは、オリジナルブランドのポップアップマーケット。上海や北京などの主要都市では毎週末、公園など街中の至るところで開催されている。中国ではインディペンデントなブランドが多く、そのほとんどは実店舗を持たないECでの販売がメイン。そのため、ファンと実際に交流できる場として訪れる人も多い。最近では、フード販売やパフォーマンス、ライブなどもあわせて催され、総合フェスティバルとして規模が拡大。週末の一大イベントに!

3 p.107で紹介したショップ「永康路111」も集市に出店。店主との会話も楽しめる
4 香りのブランド、UNI。キャンドルや造形的なディフューザーを製作
5 今年4月に開催された「凡几市集」でのアパレル販売

活気あるナイトライフ

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アジアン・オルタナティブを牽引する上海のクラブが再びにぎわっている。ジャンルはレイヴからテクノまで幅広く融合し、中国のアンダーグラウンドとグローバルのミックスカルチャーを体験できる。特に「SYSTEM」はカオティックで近未来的な空間が特徴。訪れる人のファッションの楽しみ方も含めて、ローカルシーンに根差した中国カルチャーの今が凝縮されている。その後は「Tang」で寝転がりながらDJの演奏を楽しむスタイルがおすすめ。

6 「躺(Tang)」(泰安路141号)は横になりつつ音楽を楽しめるDJバー。クラブで遊んだあとは、ここでチルアウトしながら過ごしたい
7 「SYSTEM」(徐汇区1329号云海大厦3楼)はグローバルなDJも集う上海の代表的なクラブ

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