【Japanese Breakfast】アジア・ツアーからお買い物まで、ミシェル・ザウナーがこの春夢見ること

ミュージシャン「ジャパニーズ・ブレックファスト」として、そしてエッセイストとしても活躍するミシェル・ザウナー。新アルバムと共にカムバックした彼女が今、かなえたいことは?

ミュージシャン「ジャパニーズ・ブレックファスト」として、そしてエッセイストとしても活躍するミシェル・ザウナー。新アルバムと共にカムバックした彼女が今、かなえたいことは?

"また新しいチャプターが始まるのに興奮しています"

ミシェル・ザウナー
半袖トップス¥49,500・シャツ¥19,800・スカート¥72,600/コム デ ギャルソン(タオ) ネックレス¥818,400/シハラ ラボ(ユタイ) リング(右手)¥95,700・ダブルリング(左手)¥117,700/エドストローム オフィス(シャルロット シェネ) 中にはいたスカート/スタイリスト私物

ジャパニーズ・ブレックファストがこの春、再始動!

 2021年はミシェル・ザウナーにとってビッグ・ブレイクの年だった。以前からのプロジェクト、ジャパニーズ・ブレックファストのアルバム『ジュビリー』が注目され、母の死と向き合ったエッセイ集『Hマートで泣きながら』がベストセラーに。その2作が両輪となって動きが加速し、ミシェルは韓国系アメリカ人アーティストとして、音楽、文学、料理(『Hマート〜』で重要な役割を果たす)、ファッションという文化的交差点のアイコンとなった。それから4年、いま彼女の次のサイクルが始まろうとしている。

「3年間ツアーを続けて、新作アルバムのレコーディングを終えたあと、1年間休みをとって韓国に住んだんです。癒やしの時間が必要だったし、新しいサイクルに向けて準備ができている、と自信を持ちたかったから。前作とはテーマが全然違っていて、ビジュアルコンセプトにも時間をかけたかった。だからこそ、また新しいチャプターが始まるのに興奮しているの」

ミシェル・ザウナー  SPUR
ドレス¥980,000・ブレスレット¥255,000・リング¥71,000・靴¥279,000/クリスチャン ディオール(ディオール) その他/本人私物

成功がもたらした影響は、ポジティブなものだけではなかったという。

「注目されてからは大変でした。突然夢がかなったと思ったら、ずっと『ここで失敗しちゃダメだ』としか思えなくて、プレッシャーで。だから長期休養が欲しかったんだと思う。『一生懸命頑張ってきたから私はいまここにいるし、自分にはその価値がある、これからも大丈夫』と思えるように」

その間、母の故郷ソウルで暮らし、言語を学んでいたところもミシェルらしい。彼女にとってアイデンティティは自分を規定するものというより、新たな方向を見つけるガイドなのだ。来日時は新曲「オルランド・イン・ラヴ」のMVにも出演した韓国のトランスジェンダー・アーティスト、ジャングルと一緒だったが、会話はずっと韓国語。なので、1年前のミシェルはほとんど話せなかったと聞いて驚いた。

「韓国でいくつか語学学校に通ったんです。ジャングルが言葉を身につけるのを助けてくれたし、私も頑張った。いまは単純な会話はできるようになって、その経験を記録したい。日記もつけていたので、数年のうちに2冊目の本にしたいと思っています」

この変化の季節にやりたいことは?

「春はライブに集中します。だって私、もう1年くらいギターに触ってない! だからギターをまた弾き始めて、歌のレッスンも再開して、エクササイズも始めて、ツアーに向けて体づくりをするつもり。私の心はアジアにあるから(笑)、アジアツアーも楽しみ。日本は6月にライブの予定です」

"新しいビジュアルコンセプトでポジティブなメッセージを届けたい"

ミシェル・ザウナー サングラス
トップス¥80,000・中に着たドレス¥341,000・重ねたスカート¥131,000・靴¥165,000/M(アン ドゥムルメステール) ネックレス¥72,600・ブレスレット¥53,900・リング(右手)¥109,040・(左手)¥59,140/エドストローム オフィス(オール ブルース) その他/本人私物

時の流れに思いを馳せるダークなロマンティシズム

新作アルバムは『フォー・メランコリー・ブルネッツ(&サッド・ウィメン)』。タイトル通りメランコリックなムードもあるが、サウンドは多様で、男性についての曲も多い。

「このアルバムはいろんな種類のメランコリーについてで、誘惑や欲望の危険性についても語っているんです。成功のあと、私はそういったことを考えていて。あのまま休みもせず、アグレッシブに前に進んでいたら、健康にも私自身の幸せにもよくなかったと思う。バランスを取ることが重要だって気がついたんだけど……今回は各曲が、そのバランスを保てなかった人たちの話になっていて。誘惑されて、結果、しっぺ返しをくらう人たちですね。浮気した男性、いつも酒場にいる男、人との関係を犠牲にして自分の幸福を選ぶ人。野心にかられて、家族や友だちを犠牲にしたり。どの曲にもそういった力関係があるんです」

「メランコリー」という言葉には悲しみと違い、もっと静かで、深く思考に沈み込むイメージがあると言う。

「以前の私はその時々の状況に打ちひしがれていたんです。でもいま感じるのは、時間の流れや未来を思うときのもっと静かで穏やかな悲しみ。それがいつも心の底にある。喜びについてのアルバム『ジュビリー』のあと、私は深くて暗い思考についてのアルバムを作りたかった。いちばん意外とされるようなギターアルバムにしたかったし、不気味でクリーピーなアルバムにもしたくて。その不気味さがゴシックに移り、ロマンティックな感じにもなっていったんです。ゴシック文学や古典的な小説もたくさん読みました。『嵐が丘』や『ジェーン・エア』、『フランケンシュタイン』、『魔の山』。ヨーロッパのツアー時にプラド美術館で見た、ホセ・デ・リベーラのギリシャ神話の絵と、フランシスコ・デ・ゴヤの黒い絵にも刺激されて。ギリシャ神話では大きな力を持つ神々が、全然道徳的じゃないんですよね! 失敗したり、すごく残酷だったり。『レダ』っていう曲はギリシャ神話のレダと白鳥の物語なんですが、そこで全能神ゼウスは動物に姿を変えて女性をレイプする。そういう誘惑と悪、権力の物語にインスパイアされたんです。それは多分、自分の本やアルバムが成功したから。パワーを手にしたとき、私はそれを悪用したくなかった。家族やパートナー、友だちとしていい人でいたかったんです。だからそういった物語が、警告や教訓になったんだと思う」

ミシェル・ザウナー コム デ ギャルソン
半袖トップス¥49,500・シャツ¥19,800・スカート¥72,600/コム デ ギャルソン(タオ) ネックレス¥818,400/シハラ ラボ(ユタイ) リング(右手)¥95,700・ダブルリング(左手)¥117,700/エドストローム オフィス(シャルロット シェネ) 中にはいたスカート/スタイリスト私物 靴¥111,000/バウ インク(アデュー) 靴下/スタイリスト私物

ファッションは、アジアのブランドに夢中

「デザイナーのサンディ・リアンとシモーン・ロシャとは長年知り合いなんです。特にシモーン・ロシャの服は今回のアルバムのテーマにぴったりだから、たくさん着ると思う。あと、ギョウリー・キムっていう韓国の新人デザイナーと知り合って。彼女はオーダーメイド品のみ作るんだけど、古風な感じで、17世紀ヨーロッパの男性の服みたい。『オルランド・イン・ラヴ』のMVでは、韓国のドゥドゥ・ハットに特別に帽子をあつらえてもらいました。共演したジャングルがつけているのは、イヴミン(YVMIN)という中国のブランドのアクセサリー。そういったものが世界観をつくっていて、アジアのデザイナーはサポートしていきたい。あとは最近、私もジャングルもコム デ ギャルソンに取り憑かれていて。日本ではできるだけ買うつもり(笑)」

本作は政治的混乱のなかリリースされたアルバムでもある。ミシェル自身、ソウル滞在時に戒厳令が発令され、デモに参加するという体験も。

「ほんとクレイジーだった! 戒厳令が宣言された直後は何がなんだかわからなくて。韓国人の男友だちは軍に戻らないといけないかどうか心配していたし。その数日後には抗議デモに参加して、実際、心を動かされました。韓国人が何かを求めるときには、本当に一丸となることを実感。大きな力になるんです。人出が多すぎてタクシーも地下鉄も乗れないから、歩いて橋を渡っていって。真剣なデモなんだけど、KーPOPの曲を弾劾の曲に替え歌してみんなが歌ったり、興味深かったし、感動しました」

不安や恐怖を抱える人も多いいま、音楽にできることはあるのだろうか。

「音楽の美しさは、ひとつの曲を、全員がそれぞれ自分なりに解釈できるところ。それに私の曲にはいつも、あからさまではなくても、何かしらモラルがあると思う。特にこのアルバムでは強欲や誘惑に陥らないようにしている。ポジティブなメッセージを発しているといいんだけど。ただ、米大統領選のあとずっと、私自身混乱してるんですよね。これまで自分はバブルの中にいたんだ、とも感じていて。そう認めることも重要だと思う。いまはその問題にどう向き合うか、それを変えるのに自分は何ができるんだろう、っていうのに興味がある。やらなきゃいけないことはたくさんあると思うんです」

『For Melancholy Brunettes  (& Sad Women)』

【Japanese Breakfast】の画像_5

¥2,750/ビッグ・ナッシング / ウルトラ・ヴァイヴ

ジャパニーズ・ブレックファストとして4作目のアルバム。喜びにあふれた前作『ジュビリー』とは違い、野心や恐怖といったテーマをギターサウンドで表現。6月には東京・大阪で公演予定。

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ミシェル・ザウナー アクセサリー

キムへキムのサングラスは、涙のように揺れるパールがポイント。「パールの涙は、今回のアルバムのビジュアルを象徴しているの。サンディ・リアンのヘアアクセサリーとシモーン・ロシャのイヤリングは、超キュート! ステージでつけることも。彼女たちからは常にインスパイアされているんです」 

ミシェル・ザウナー シモーン・ロシャからもらったワンピース

シモーン・ロシャからもらったワンピース。「彼女の服を着ていると、気分が上がる!」

ミシェル・ザウナー ミュウミュウの靴

ミュウミュウの靴。「ミュウミュウは昔から大好き。この靴は動きやすいし、いつも履いているお気に入り。高かったけど、本当に良い投資だったと思う!」

ミシェル・ザウナー シャネルのバッグ
※シャネルのブティックへのお問い合わせはご遠慮ください

著書『Hマートで泣きながら』にも登場する、母親の形見のシャネルのバッグ。「本当に特別なときに使っていて、自分の持ち物の中でもいちばん貴重なアイテム。肩に掛けていると、母が一緒にいてくれるように感じる」

ミシェル・ザウナー ヤンヤンのニットカーディガン

アジアにルーツを持つデザイナーが手がけるブランド、ヤンヤンのニットカーディガン。「とても高品質な素材で、着心地が最高。普段からよく着ています」

ミシェル・ザウナー ジャックムスのスカート

ジャックムスのスカート。「彼の服は、セクシーな気持ちになれるから好き。きれいでクラシックなスカートが気分」

ミシェル・ザウナー キムへキムのジャケット

最近購入したというキムへキムのジャケット。「お気に入りのブランド。韓国に住んでいる間に、できるだけ現地のブランドを見つけたかったの」

ミシェル・ザウナー 『ボンジェインガン』のTシャツ

「韓国のバンド『ボンジェインガン』のTシャツは、デザインもお気に入り。ベーシストのチ・ユネは素晴らしいアーティスト。ソロライブにも行きました」

ミシェルが行きたい! 東京アドレス案内

来日時によく訪れる場所から、いつか行ってみたいところまで……ミシェル流、東京の楽しみ方をナビゲート。

beat cafe

ミシェル・ザウナー beat cafe

「最初に訪れたのは、ちょうど10年前。海外のミュージシャンの間ですごく有名で、オーナー兼DJのカトマンとは大の仲よしなんです。今回来日したときも、友人のジャングルやほかのバンドのメンバーと遊びに行きました」。"GOOD VIBES ONLY"を合言葉に、ジャンルや年代を問わず、音楽を楽しめる場所。カルチャーへの愛と造詣の深い彼を通し、音楽好きの輪が広がっていく、"ハブ"のような存在だ。

ミシェル・ザウナー beat cafe

1 カウンターの隣どうし、意気投合して仲よくなるのがお決まりの光景
2 店の奥には個室も
3 DJカトマン。「最高のDJだとみんなわかっているから、リクエストは禁止」の文字が彼への信頼を物語る

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●東京都渋谷区道玄坂2の13の5 B1F
◯営21時〜 無休
Instagram: @beatcafe

ドーバー ストリート マーケット ギンザ

ミシェル・ザウナー ドーバー ストリート マーケット ギンザ

「日本に来るたびに、ジャングルとショッピングに行くの。今回はファッションイベントに招待されていたこともあって、ドーバー ストリート マーケット ギンザへ。コム デ ギャルソン オム プリュスのボタンつきの洋服と、ジュンヤ ワタナベのパンツを買いました!」。川久保玲がディレクションするコンセプトストア。コム デ ギャルソンのすべてのブランドはもちろん、シモーン・ロシャなど、世界各国の新進気鋭デザイナーの服が揃う。

ミシェル・ザウナー ドーバー ストリート マーケット ギンザ

4・5 ファッションとアートを融合した空間。象のオブジェがゲストを迎える1Fでは、さまざまなブランドやアーティストがインスタレーションを行う
6 コム デ ギャルソンの2025年春夏コレクション

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●東京都中央区銀座6の9の5
◯営11時〜20時 不定休 
https://ginza.doverstreetmarket.com

鳥めし 鳥藤分店

ミシェル・ザウナー 鳥めし 鳥藤分店

「日本に来たら食べてみたいとずっと思っているのが、卵かけご飯。大好きな朝食なんです! 死ぬ前にひとつ食べたいものと聞かれたら、きっと卵かけご飯にすると思う(笑)。ちゃんと卵を選んで、お膳にのっているスタイルで食べてみたい」。正統派の"Japanese Breakfast"をいただけるのは、築地で長年愛される名店。全国のおいしい鶏肉を知り尽くした専門店ならではの、厳選された卵を使い、清湯スープといただく逸品だ。

ミシェル・ザウナー 鳥めし 鳥藤分店

7 朝限定20食の「鶏吸いと卵かけご飯」(¥700)。親鶏を弱火でじっくり煮出した、特別なスープと一緒に
8 青森県産の卵を使用。黄身が濃く、白身も強いのでご飯に最適
9 築地に通う料理人も御用達の店

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●東京都中央区築地4の8の6
◯営8時〜13時30分 ㊡日曜・祝日・休市日
https://www.toritoh.com

ミシェル・ザウナープロフィール画像
ミシェル・ザウナー

シンガーソングライター、文筆家。ジャパニーズ・ブレックファスト名義で音楽活動をし、母をガンでなくした体験を著書『Hマートで泣きながら』に。日本のおにぎりは明太子が好き。

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