【パラアスリートが見つめる未来 vol.02】車いすラグビー/倉橋香衣さん

この競技の女性選手であることが 普通になるといいなと思います

SPUR5月号 倉橋香衣

車いすラグビーといえばパラスポーツの中でも特に激しいコンタクトプレーが求められる競技だが、実は男女混合種目でもある。そして、女性で初めて日本代表に選ばれた選手が倉橋香衣さん。撮影中、彼女のトレードマークである、はじけるような笑顔が終始絶えなかった。

「意識して笑っているつもりは特になく、口が開いているとそう見えるみたいです(笑)。試合中は、逆にこの顔が真剣なムードを壊さないように気をつけています。前向きな性格と思われがちですが、結構考え込んでしまい、ズーンと落ち込んでしまうこともよくあります」

自身の性格を“かなりのネガティブ”と語る彼女だが、頸髄損傷という人生を左右するような大けがによって車いす生活になったとき、後ろ向きになることはなかった。

「大学3年生のとき、トランポリンの練習中に頭から落下し、鎖骨から下の感覚をほとんど失いました。でも、スポーツをしていたらけがはつきもの。落ち込むよりもむしろリハビリを進めて、10秒間座れるようになったとか、一人で歯磨きができたとか、自分のできることが増えていく過程を楽しもうと。もちろん、それができたのは家族や友人の支えがあったからこそだと思います」

SPUR5月号 倉橋香衣
©MegumiMasuda/JWRF

日々のリハビリを続けていく中、自立訓練施設の部活動で車いすラグビーに出合った。

「体を動かすことが大好きなので、まだ寝たきりの状態のときから何かスポーツができたらいいなと考えていました。この競技に惹かれた一番の理由が“ぶつかっていい”ところ。初めて見学したとき、選手たちがガッシャンと大きな音を立ててぶつかり合う姿を見て、私もやってみたい!と思いました。この競技は、障がいの程度によって点数分けされ、1チーム4人の持ち点の合計が8点以下で構成されます(ただし、コート上に女性選手が加わる場合は、持ち点の合計に0・5点追加される)。同じ点数の人でも、障がいの特徴によって得意不得意が違うのも魅力。チームのみんなでお互いの特徴を理解し生かしつつ、トライにつなげるところに注目してもらいたいです」

自分よりもはるかに大きな男性選手にも果敢にタックルを仕掛け、試合展開を先読みし、トライへの道を作ることに長ける倉橋選手。パリ2024パラリンピックでは、前回の東京大会よりも高みを目指す。

「前回大会は自分の満足のいくプレーができず、本当に悔しかった。パリではチームのみんなと上を目指して頑張りますが、まずは私自身、大会を心から楽しんでプレーをすることが目標です。また、ここ数年で少しずつ女性の競技者も増えてきています。女性選手であることが、珍しいことではなくなるように、これからも裾野を広げていきたいです」

倉橋香衣プロフィール画像
倉橋香衣

1990年9月15日生まれ。兵庫県出身。大学3年時にトランポリン中の事故で頸髄を損傷。24歳でクラブチームに加入し、障がい者アスリート雇用で商船三井に入社。26歳のとき、日本代表選考合宿に招集され、日本代表初選出。女性初の車いすラグビー日本代表として注目を浴びる。2018年の世界選手権では強豪とマッチアップし、優勝メンバーの一員となった。2021年に開催された東京2020パラリンピックでは銅メダル獲得に貢献。現在はクラブチーム「AXE」に所属。

倉橋さんを読み解く3つのS

Society

車いすに乗るようになり、健常者の世界だけではなく、広い視野で物事を考えるようになりました。恥ずかしながらけがをする前までは、障がい者への接し方も考え込んでしまったりしたので……新しい視点を持てるようになったことは、よかったと捉えています。

Sleep

昔から寝ないと体力がもたないタイプなので、できる限り睡眠時間を確保するようにしています。平日はできれば7時間を目標に、休日は昼過ぎまで寝ていることも。インドアで過ごすことも好きで、出なくてもいいなら、予定がない日は一日中家にいたいくらい(笑)。

Smile

たまに友人とごはんに行ったり、旅行に行ったりして過ごす時間が大好きです。最近の楽しみは、旅行先や遠征で訪れた場所のクラフトビールを買って帰ること。普段から食事のバランスには気を配っていますが、ご褒美の日には自宅で飲み比べをして楽しんでいます。

 

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