大人もハマる、【推しの子】の魅力とは? 齋藤飛鳥さん、村田沙耶香さんなど、ファンが語る!

2024年11月に『週刊ヤングジャンプ』で最終回を迎えた『【推しの子】』。俳優・齋藤飛鳥さん、作家・ 村田沙耶香さんほか、さまざまな分野で活躍する4人がその魅力を語る。

2024年11月に『週刊ヤングジャンプ』で最終回を迎えた『【推しの子】』。俳優・齋藤飛鳥さん、作家・ 村田沙耶香さんほか、さまざまな分野で活躍する4人がその魅力を語る。

俳優・齋藤飛鳥さん

俳優・齋藤飛鳥さん

楽しく笑って過ごしていても、アイの奥底の闇や悲しみをどこかで感じとっていた

アイの本当の意図がわからなくても共感できる部分をすくいあげた

1期生として乃木坂46を支え、約12年間のアイドル活動を経て、’23年5月にグループを卒業。トップアイドルとして数々の輝かしい舞台を経験してきた齋藤飛鳥さんは、アイという大役にふさわしい印象を受けるが、オファーを受けた当初、一度は断ったという。

「これだけ世界的に人気がある作品で、アイという人物を演じるのは、責任が重すぎると思ったんです。でも、お断りしたあとも『どうしても齋藤さんがいいんです』と熱意を伝えてくださり、挑戦してみることにしました。最初に原作を読んだときは、あまりにも芸能界について解像度高く描かれていることに驚きました。業界の構造や裏事情は調べたらわかるとしても、アイドルや俳優の気持ちまでも完璧に描写してあったので、『どうやって取材したんだろう?』と思いましたね」

"完璧で究極のアイドル"だが、複雑な家庭環境で育ち、愛を知らないアイ。彼女を演じるにあたり原作を読み込んだが、「最後まで100%は理解できなかった」そうだ。

「アイの発言の裏にある思いを想像することはできるけど、本当の意図はわからないままでした。ならば理解できないまま演じる方法を探すしかない、と思って取り組みましたね。彼女に共感する部分は、相手によって態度を変えるところ。ネガティブに捉えられがちだけど、私は優しさだと考えているんですよ。どうしたら周りの人が喜ぶかをいつも考えていて、相手によって接し方を変えていたと思うんです。そこはすごく好きな部分であり、共感しながら演じることができました」

『【推しの子】』1巻 112ページより
『【推しの子】』1巻 112ページより
齋藤さんが好きなシーンとして挙げた家族でのドライブ。原作では小さいながら、仲のよい和む1コマ

16歳で双子のルビーとアクアを出産したアイ。齋藤さんにとっては初の母親役となった。劇中では子役と息を合わせ、"母の顔"を見せているが、監督と話を重ねて「アイはまだ若く、アイドル活動も続けているので、母親としての包み込むような愛情が完璧には備わっていない」と解釈した。温度感を繊細に調整しながら表現したという。

「好きなシーンは、ミヤコさんと小さなルビー、アクアと車に乗って、撮影現場に旅行気分で向かっているところ。みんなが家族みたいに、砕けて話している様子が印象に残っています。子どもたちとのシーンは、楽しく笑って過ごしていても、アイの奥底にある闇や悲しみがよぎって、ずっとどこかで寂しさを感じていました。シリアスで空気が重い場面よりも家族団欒シーンのほうが、演じていてもどかしくてつらかったです」

乃木坂46時代は、アイドル活動の中で一番ライブが好きだったという齋藤さん。ドラマ&映画『【推しの子】』では、ライブシーンの撮影で久々にステージに立ち、無数のスポットライトを浴びた。撮影を振り返ってもらうと、自然と笑みがこぼれる。

「可愛い衣装を着て歌って踊って……懐かしかったですね。『現役時代、この歓声にもっと浸っておけばよかったな』と思いました。乃木坂46のロング丈に慣れていたので、B小町のアイドル衣装は少しソワソワしましたけど(笑)。メイク中にもエキストラの方がコールを何時間にもわたって練習する声が聞こえてきて、すごく熱気を感じましたし、緊張せず、本物のライブのように楽しんでパフォーマンスができました。私はグループ活動の中で、王道アイドル的な姿を見せる機会がだんだん減っていたので、アイを演じることで、一部のファンの方が期待していた"齋藤飛鳥のアイドル像"をお見せできたのかもしれないなって。当時やり切れなかったことが実現し、きれいに終わらせてもらった感覚があるし、今後は自分と周りの人たちが穏やかに平和に生きていければそれだけで十分だな……と、『【推しの子】』を通して思うようになりました」

『【推しの子】-The Final Act-』
『【推しの子】-The Final Act-』
伝説のアイドル・アイ(齋藤飛鳥)が殺され、彼女の息子・アクア(櫻井海音)と双子の妹・ルビー(齊藤なぎさ)はそれぞれの思いを抱えながら芸能界へと突き進む。二人を待ち受けていたのは華やかな世界に隠された"裏側"だった。
©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・東映 ©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・2024 映画【推しの子】製作委員会

原作への愛を強く持つスタッフの手で完成したドラマ&映画『【推しの子】』。シリアスなシーンを掘り下げて描きつつ、原作でおなじみのコミカルなやりとりも盛り込まれている。本作でアイというキャラクターに向き合い、演じてみて感じる、作品の魅力とは?

「作中で、アイは本当に特別な存在。誰の心の中にも一番にアイがいて、神格化されているとさえ感じます。どうしてそんなに魅力的に映るのか、演じる前はわからなかった。でもアイとして生きて、物語を全部追ってみて、彼女が一番普通だったし、一番寂しかったんじゃないかな、と思ったんです。一人の人間に光と影が凝縮されていて、亡くなったあともその人の空気がずっと漂う作品。そこが『【推しの子】』のよさであり、多くの人を熱狂させる要因かもしれません」

齋藤飛鳥プロフィール画像
俳優齋藤飛鳥

さいとう あすか●1998年東京都生まれ。2011年「乃木坂46」のオーディションに合格し、第1期生最年少メンバーとして加入し、2023年5月に東京ドームで卒業コンサートを実施。出演映画『【推しの子】 -The Final Act-』が2024年12月20日より公開中。

作家・ 村田沙耶香さん

『【推しの子】』8巻 130ページより
『【推しの子】』8巻 130ページより

光を放ち、闇を凝縮した絵の迫力に圧倒される

『クズの本懐』で出合って以来、横槍メンゴ作品を愛して読んでいるという村田沙耶香さん。

「メンゴさんがそんなにも惚れ込んだ赤坂アカ先生のお話とは!?と『【推しの子】』は連載スタート前から楽しみにしていました。第1話からアプリで追い、電子版と紙の単行本も揃えています。私は漫画の物語の構造について詳しくないのですが、この作品に関していえば、ミステリという軸のほか舞台や演技を描くという軸もあり、キャラクターが魅力的なアイドル漫画でもある。どの軸を選んでも物語が展開できる不思議な魅力を感じました。少ししか登場しないキャラクターが印象に強く残るという点も素晴らしい。第39話でB小町の初ライブを見てアイドルを辞めたまなちゃん、大根役者だったけれどすごく努力するメルト君など魅力的なキャラクターが多く、かつ一人ひとりの人生を感じられるというのは本当にすごいことだと思います」

全16巻・166話のうちで最も気に入っているコマを伺ってみると、「雨宮吾郎の遺体です」と即答。

「絵の迫力が尋常じゃない。もう一つ選ぶなら最後に出てくるB小町のライブシーンですね。この描き込み、いったいどれほどの時間をかけたんだろう、これを人間が描いているとは、と怖くなるくらいでした。汗も涙もキラキラして光を放つような絵と、闇のドロドロを凝縮したような容赦ない悲しい絵。両極端ともいえるものが同じ作品に共存するのが魅力的です」

村田さん自身は二次元には惹かれるものの、三次元のアイドルを好きになった経験はないという。

「"アイドル"って、私にとってはすごく難しいんです。生身の人間が"カット"のあとにどんな表情をしているか、何を考え、どんな人生を送っているのかわからないから。一度好きになってしまったら自分で調べ上げて、もう一つの虚構、物語を作り上げなければいけなくなってしまう。だからこそ虚構を演じ切ったアイちゃんというアイドルを尊敬します」

村田沙耶香プロフィール画像
作家村田沙耶香

むらた さやか●2003年「授乳」で群像新人文学賞(小説部門・優秀作)を受賞しデビュー。『コンビニ人間』ほか著書多数。2025年3月に長編『世界99』を刊行予定。

脚本家・ 吉田恵里香さん

『【推しの子】』5巻 144ページより
『【推しの子】』5巻 144ページより

漫画表現の新しさに慄き闘う人の声に勇気づけられる

『TIGER &BUNNY』のコミカライズ脚本を担当した際に、赤坂アカさん、横槍メンゴさんと知り合いに。

「気づけば10数年来の知り合いで、メンゴ先生に至ってはともに闘う同志のような存在です。『【推しの子】』はアカ先生のキャラクターの割り振りと作り方がすごい! メンゴ先生の絵が圧倒的に可愛く、時代を作ったと思う! フィクションの設定を用いるからこそ見える世界がいっぱいあって、転生ネタを入り口に使う手腕も、その設定がテーマやキャラや場所を多面的に描くことに生かされているのも素晴らしいですよね」

漫画表現としての、キャラの貪欲さにも驚かされた。

「ルビーは、一度目の人生ではかなえられなかった悲しみを抱えているからこその貪欲さで、自分の"推し"かつ母親でもあるアイのようなアイドルを目指す。アクアは復讐という軸がありながら、若い人を守りたいという大人の目線を持っていて、漫画作品という虚構なりの責任がきっちり描き込まれている。物語って"自分がこうしたい"というのが一番で、"誰かのため"は二番になることが多いけど、他人事であるはずの復讐や怒りも、ここまで徹底されると自分軸として扱えるんですね。アクアはルビーのことしか考えていない。だから最後に選ぶ道も必然だったんだな、と思いながら読みました。ああいった形で描かれることで『【推しの子】』はアクアのための物語になったと思います」

吉祥寺先生とアビ子先生が言い合う場面も忘れ難い。

「二人の漫画家が交わす人間味たっぷりのやりとりは、クリエイティブに向き合うからこその、闘っている人の声。この場面を含めて、第5章の2.5次元舞台編は身につまされるところも多かったです。同時に、2.5次元の舞台が、若い役者たちが本気でやっている一流の場所として描かれたこと、脚本家を悪として描かないでいてくれたこと、『週刊ヤングジャンプ』という間口の広い場所でこういった表現を通じて問題提起をしてもらえたことに救われる思いでした」

吉田恵里香プロフィール画像
脚本家吉田恵里香

よしだ えりか●テレビアニメ、ドラマ、映画、舞台、漫画原作まで幅広く活躍。2024年のNHK連続テレビ小説「虎に翼」は大きな話題を呼んだ。

スタイリスト・清水奈緒美さん

『【推しの子】』2巻 134ページより
『【推しの子】』2巻 134ページより

人生で初めて追いかけた週刊連載でした

「毎週こんなに楽しみにしていた漫画は久しぶり。というか週刊連載を追いかけたこと自体初めてでした!」

好きな作家が生み出す作品は、あらすじや考察などの前情報を入れずに読みたい、と清水奈緒美さん。

「ただただ描かれているものを噛み締めたい。ジェットコースター気分で楽しんで、完結してから答え合わせをするタイプです。最終話までのカウントダウンが始まってからは、SNSも見ないようにしていました。赤坂アカさんと横槍メンゴさんが描くものには、ファンタジーでありつつ壁一枚隔ててすぐそこにある世界かもしれないというリアルな手ざわりがある。すさまじい取材力に裏打ちされているんですよね」

最終話を読み終えてすぐ、ファンサイトから「苺プロ広報部」に入社し、会員証アクリルキーホルダーを手に入れるほどハマった作品の推しポイントは?

「キャラクターの中では圧倒的に有馬かなが好きです。素直じゃない、先回りするし周りを優先してしまう、でもそうは見せないという美学。外に見せている姿と本心の裏腹さを併せ持っているところに惹かれるんです。第17話の最後、かながアクアへの恋心に気づいたカメラ越しの表情にはキュンとしました。圧倒的に可愛くて、生きている。私がこの作品に恋をした、本気になってしまった瞬間でもありました」

ビジュアルを可視化することを仕事にする清水さんだからこそ、絵の迫力からも目が離せなかった。

「アカさんが丹念に綴った物語がメンゴさんの作画と融合していて、『この原作ならこう描こう』『この絵ならこう物語を動かそう』といった二人の相乗効果を楽しみながら読んでいました。メンゴさんの絵は連載の間にどんどん更新されて、最終話へのカウントダウンでは見たことのないみんなの顔を見せてくれるし、ドームでライブをするルビーの後ろ姿にはひたすら号泣。最後まで楽しませようというお二人の気迫に触れて、いち読者として感謝と尊敬の気持ちでいっぱいです」

清水奈緒美プロフィール画像
スタイリスト清水奈緒美

しみず なおみ●ファッション誌、広告、映画、俳優のスタイリングなどで活動する。『SPUR』今号でアイ、2023年8月号のカバーでルビーとアクアのスタイリングを担当している。

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